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第十二段 訓練の日々

初めての生体鎧の授業が終わった……。


搭乗を終えて降りたあと、ナギトは少しおかしな感覚に襲われた。

身体の芯が、ふわふわと浮くような感覚だ。

どうやら、少し酔ってしまったらしい。


ナギトは教室へ戻った。


教室の中は、かなりガヤガヤしていた。

話題はもっぱら、初めての生体鎧訓練のことだった。


ナギトが席に着くと、コヤネがすぐに話しかけてきた。


「ナギトくん、初めての生体鎧、どうだった?」


「結構大変だったよ。今もちょっと頭がクラクラしてる」


「だよね! それ、生体鎧酔いって言うんだって」


「生体鎧酔い?」


「うん。自分の身体みたいに動かせても、実際の体とのズレで、脳が錯覚を起こすらしいよ」

「ひどいと、吐いちゃう子もいるみたいだね」


「そうなんだ……」


「まだ当分先だろうけど、今後の実戦訓練では、生徒同士で戦うこともあるらしいよ」


「これから、訓練頑張ろうね!」


「ああ。お互い頑張ろう」


そう言うと、コヤネは自分の席へ戻っていった。


生体鎧の訓練――

それには、いったいどんな意味があるのだろうか。


現在の戦争において、生体鎧は必須の兵器だ。

それを、まだ高学年のうちから扱わせるということは――

つまり、兵士としての訓練を始めた、ということなのだろう。


そして、生体鎧訓練が開始されて、三ヶ月が経った。


最初は搭乗するだけで精一杯だった生徒たちも、

今では生体鎧の基本的な動作には、ある程度慣れてきていた。

歩く、走る、止まる――

それらを意識せずに行えるようになった者も、少なくない。


そんな頃、生体鎧を用いた新たな訓練が始まった。


それは、生徒同士が生体鎧に搭乗したまま行う、

剣を使った試合形式の訓練だった。


使用される剣は、もちろん実戦用ではない。

刃はなく、打撃を与えることはできても、切ることはできない。

あくまで「動き」と「反応」を学ぶための、訓練用装備だ。


訓練場には、生体鎧が二体ずつ、向かい合う形で配置されていく。


「これより、二人一組での模擬戦闘訓練を行う」


指導教官の声が、広い訓練施設に響いた。


ナギトは、自分の組み合わせを確認し、

隣に立つ相手を見た。


相手は、自分と同じ天然遺伝子を持つ男子生徒だった。

ユウマという名前だった。

背丈はナギトより少し高く、どこか緊張した様子で立っている。


(……天然同士、か)


ナギトは、特別な感情を表に出さず、ただ静かに相手を見た。


二人は、それぞれ自分の生体鎧に搭乗する。


巨大な身体の中で、剣を握る感覚が伝わってくる。

指先から腕、肩へと伝わるその重さは、

自分の身体で剣を持っているのとは、まったく違っていた。


そのとき、指導教官が前に出て、改めて説明を始めた。


「いいか。これは勝敗を競うための訓練ではない」


「重要なのは、相手の動きを見ること、間合いを知ること、

そして――生体鎧という身体を、どこまで“自分のもの”として扱えるかだ」


教官の生体鎧が、ゆっくりと剣を構える。


「無理に攻めるな。焦るな。

生体鎧は、君たちの感情をそのまま増幅する」


「恐怖も、迷いも、すべて動きに現れる」


一拍置いて、教官は続けた。


「そして――この訓練は、将来の実戦を想定している」


その言葉に、訓練場の空気が、わずかに引き締まった。


「では、始める」


ナギトは、生体鎧の中で静かに息を整えた。


目の前に立つ、同じ天然遺伝子を持つ相手。

そして、自分自身。


(……これは、ただの訓練じゃない)


剣を構えながら、ナギトはそう直感していた。



生体鎧による模擬試合訓練が始まった。


ナギトは、同じ天然遺伝子を持つ男子生徒――ユウマとペアを組んだ。


二体の生体鎧が、訓練場の中央で向かい合う。

互いに距離を取り、剣を構えた。


「――始め!」


指導教官の合図と同時に、二人は地面を蹴った。


金属音が響く。

ナギトとユウマの剣が、正面からぶつかり合った。


力の伝わり方は、ほぼ互角だった。

一撃、二撃。

剣を受け、返し、距離を詰め、離れる。


ユウマは慎重だった。

大きく踏み込まず、確実な動きで隙を作らない。


(……堅い)


ナギトはそう感じながらも、攻め続けた。

正面からの打ち合いでは、決着はつかない。


一瞬――

ユウマの重心が、わずかに後ろへずれた。


ほんの一瞬の隙だった。


ナギトはその動きを逃さなかった。

体を半歩ずらし、剣の軌道を変える。


次の瞬間、

ナギトの剣が、ユウマの生体鎧の胴に軽く触れた。


「――そこまで!」


指導教官の声が響く。


勝敗は明らかだった。


ナギトは剣を下ろし、深く息を吐いた。

ユウマも動きを止め、悔しそうにこちらを見たが、すぐに小さくうなずいた。


「……やるな」


通信越しに、ユウマの声が聞こえた。


「ありがとう」


ナギトは短く答えた。


こうした訓練の日々が、さらに続いていった。

勝つこともあれば、負けることもあった。

生体鎧の操作は、次第に身体の一部のようになっていった。


そして、八学年へ進級する直前には、

ナギトは天然遺伝子の生徒の中で、

学年随一の生体鎧の使い手と評されるようになっていた。


そして――

さらに季節が巡り、ナギトたちは九学年へと進級した。


その頃、ナギトは時折、理由もなく胸の奥がざわつくのを感じるようになっていた。

誰かに呼ばれているような、

まだ見ぬ何かが、すぐそこまで近づいているような――そんな感覚。


それが何を意味するのか、ナギト自身には分からない。

ただ一つ確かなのは、

これまで続いてきた訓練の日々とは違う“何か”が、

彼の人生に入り込もうとしている、という予感だけだった。


やがて訪れる、ひとつの出会い。

それは偶然を装いながら、

最初から決められていたかのように、ナギトの前に現れることになる。


その名を、彼はまだ知らない――。

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