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第十一段 生体鎧

ヤマト暦43年。ナギトは七年生になった。


高学年になり、生体鎧の技能授業が新たに一つ追加されることになった。


生体鎧セイタイガイ――。

自身の遺伝情報と完全に一致する有機体をその身に纏い、神経結合することで、まるで自分の身体であるかのように操作できる生物兵器である。


高学年以上になると、生徒一人ひとりに訓練用の生体鎧が授与される。

知能成績と生体鎧の成績を合わせた総合評価によって、今後の進路が決まる。


アスカの住民は、学校卒業後に大学へ進学するか、あるいは就職の道へ進むかという二択に迫られることになる。

そして、アスカには大学が一つしか存在しない。

その唯一の大学こそが、アスカ大学である。


アスカ大学は、アスカ全域で唯一認可された高等教育機関である。

定員は少なく、毎年入学を許されるのは、学年の上位層の生徒だけだった。

入学の可否は、学力試験と生体鎧適性、そして総合評価によって決定される。

そこに、家庭環境や本人の意思が入り込む余地はほとんどない。

アスカ大学に進学できるということは、すなわち「この社会に必要な人材」として認められたことを意味していた。


ただし例外として、

この制度では非天然遺伝子の学生が圧倒的に有利になるため、

全学校を通じて、天然遺伝子の学生の上位十名については、

最低限、入学資格が保証されていた。


アスカには第一学校から第二十学校まで、二十の学校が存在する。

そのため、たとえナギトが第一学校で天然区分第一位を獲得していたとしても、

全体順位次第では、アスカ大学に進学できない可能性もあった。



生体鎧の授業が始まった。

指導に立っているのは、人間の中年男性の教師だった。


校舎より少し離れた、格納庫に近い施設へと案内された。

四つのグループに分けられ、一グループは五十人程度である。

天井は高く、床には無数の固定具とケーブルが走っている。

壁沿いには、まだ起動していない生体鎧が整然と並んでいた。


教師の声が、広い訓練施設に反響する。


「これより、生体鎧の基本操作訓練を行う」

「まずは搭乗方法について説明する」


教師は、端に並ぶ一体の生体鎧を指差した。


それは人型をしていた。

二本の腕、二本の脚、頭部、胴体。

だが、その全身は赤黒い金属のような装甲に覆われている。

鈍く光を反射する表面は、金属のようでありながら、どこか生体特有の艶と脈動を帯びていた。


まるで――

血の通った鋼鉄。


「生体鎧は、生きている」

「生命体そのものだが、搭乗者が乗らない限り、意思は持たない」


教師は淡々と続ける。


「そして、生体鎧は“操縦”するものではない」

「神経結合によって、“自分の身体”として扱う」


教師が、生体鎧の腹部付近を示した。


そこには、装甲の継ぎ目のような線が走っている。


「搭乗ハッチは、腹部にある」

「ここが開き、搭乗者を内部へと受け入れる構造になっている」


装甲は無機質に見えるが、よく見ると、呼吸に合わせるかのようにわずかに動いていた。


「この生体鎧との接続は、脳波と末梢神経リンクのハイブリッド型だ」


その言葉に、何人かの生徒が息を呑む。


「ヘルメット型の神経接続端子を装着し、脳波を読み取る」

「同時に、脊髄および主要末梢神経とリンクし、運動信号を受け取る」


教師は、まるで教科書を読むかのように説明する。


「脳波は“意図”を」

「末梢神経は“動き”を担当する」


「この二つを統合することで、生体鎧は搭乗者の思考と反射を同時に処理できる」

「結果として――巨大な身体でありながら、自分の手足のように扱える」


一拍置いて、教師は付け加えた。


「逆に言えば、この同期がうまくいかない場合」

「激しい違和感や酔い、場合によっては意識障害を引き起こす」


教師は、説明を続けた。


「なお、生体鎧の制御は、搭乗者の神経結合が基本となる」


教師は、生体鎧の頭部と胸部を示す。


「また、生体鎧の“目”のレンズには電脳メガネが組み込まれている」

「君たちが持っている電脳メガネとほぼ同等で、人工知能も備え付けられている」

「これによって通信はもとより、搭乗者の視認情報――視線、瞳孔の動きなどを常時監視している」


「また、この生体鎧は訓練用であり、全高はおよそ十メートル程度に抑えられている」

「実戦用は、これよりはるかに大きい」


理屈としては理解できる。

だが――理解と実感は、まったく別だった。


「簡単だが説明は以上だ」


教師は一度、生徒全員を見渡す。


「では――各自、自分の生体鎧に搭乗してもらう」

「生体鎧の胸にある数字は学籍番号である」

「各自、自分と同じ学籍番号の生体鎧の前へ行き、『搭乗』と発声しなさい」

「そうすると、生体鎧が手のひらに乗せ、ハッチまで運んでくれる」

「生体鎧は人工知能と連携している。簡単な命令であれば外部から実行できることを覚えておけ」

「さぁ、各自、自分の生体鎧の前へ移動!」


その一言で、空気が変わった。


ざわ、と小さなどよめきが広がる。

誰もが、目の前の巨大な赤い人型の存在を前に、足を止めていた。


ナギトも、その一人だった。


(……これに、乗るのか)


ナギトは自分の生体鎧の前へ移動した。

目の前の生体鎧は、ナギトの遺伝情報と完全に一致しているはずの存在。

それなのに、どこか「自分ではないもの」を見ている感覚が拭えない。


近すぎる。

そして――生きている。


(……どこまでが、自分なんだ?)


「怖気づく必要はない」


教師の声が飛ぶ。


「すでに適性検査は終わっている」

「ここにいる全員が、搭乗可能だ」


その言葉に背中を押されるように、

生徒たちは一人、また一人と前へ進み始めた。


ナギトも、ゆっくりと足を踏み出す。


生体鎧の足元に立つと、

その存在感に思わず息を呑んだ。


赤い装甲に、そっと手を伸ばす。


触れた瞬間――

微かな温もりが、指先に伝わった。


(……体温?)


まるで、巨大な生き物の皮膚に触れているようだった。


指先が、わずかに震える。


「……いくしかない」


ナギトは小さく息を吸い、

腹部にある搭乗ハッチへと向かった。


ナギトが

「搭乗!」

と叫んだ。

そうすると、生体鎧はわずかにかがみ込み、右腕をナギトへ差し出した。

手のひらに乗るように促しているようだった。

ナギトは手のひらに乗った。

腕はハッチの方へゆっくりと持ち上げられ、ハッチが開いた。

ナギトは手から降り、搭乗した。

すると、ハッチは静かに閉じた。

椅子に腰掛け、ヘルメット型の神経接続端子を装着した。


『搭乗者はナギト本人であることを確認。神経結合を開始します』

という音声が流れ、

『神経結合完了しました』

と聞こえた瞬間――

ナギトは、自分が生体鎧の“目”と直結していることに気づいた。


その直後、別の通信音とともに、教師の声が響いた。

教師も生体鎧に搭乗したようで、外部スピーカー越しに音声が聞こえてくる。


「全員、搭乗したようだ」

「まずは歩行動作に慣れてもらう」

「今から私についてくるように」


そう告げると、教師の生体鎧が**ゆっくりと歩き出し、**格納庫の外へ向かった。


生体鎧は、自分の身体を動かすのとほとんど同じ感覚で動いた。

意識した通りに足が出て、重心が移動する。

まさに、自分が巨大な身体を持った人間になったかのような感覚だった。


そこには、これまでとはまったく違う世界が広がっていた……。

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