野球 【不動大地視点】
●不動大地
兄ちゃんが野球に目覚めたみたいじゃのう。
熱心に研究しとる。
外国人投手の真似をしちょるみたいじゃの。
兄ちゃんが真似してたのは、こないな感じ……。違うの。
……こうかの?
体がガクガクするの。
なしてこないなボールの投げ方しよう思ったんじゃ?
普通に投げたほうが、遠くまで飛ぶじゃろ。
「なんじゃ、イソベ」
イソベが遊んどると勘違いして飛び掛かってきよる。
球投げようとしちょるとは思えんのじゃろな。
「散歩行くか。イソベ」
嬉しそうに尻尾を振るイソベにリードを付けて外に出る。
いい天気じゃ。富士山がよう見える。
今日は湖まで行こうかのぅ。今日こそイソベより速く走っちゃる。イソベも楽しそうじゃ。
兄ちゃん、やることなくて暇なんじゃろうなぁ。兄ちゃんはだらだらしとるの好きじゃないからの。
広島にいた時は、兄ちゃん、色々習い事して忙しそうにしとったしのう。
ピアノに英会話に水泳……、あとなんじゃったかのぅ?
友達もたくさんいたけえ、暇な時なんぞなかった。
山梨はワシにはええところじゃけんど、兄ちゃんには物足りんのじゃろうなぁ。
習い事もできんし、友達もおらんからのう。
「兄ちゃんの手伝いができるとええんやけどのう」
……ワシにできるのは球拾いくらいかのう。
球拾いをもっとうまくできるようになったら、役に立つかの?
キャッチしてすぐ返球すれば、兄ちゃんもすぐ投げられるけえ、練習もはかどるはずじゃ。
それにはワシが球を捕れるようにならんと。
それから返球もじゃ。兄ちゃんのところに届く球を投げられんかったら、走らんとあかんからの。時間かかって、練習にならん。けどのぉ、ワシの力じゃ遠くに飛ばんけえ。どうしたらええかのう。
「……兄ちゃんの真似すれば、遠くまで投げられるようになるんじゃろうか?」
あの投げ方で?
「兄ちゃんがやってることに間違いはないじゃろ」
兄ちゃんの真似すればええ。兄ちゃんも言ってたけえ。
そうすれば、兄ちゃんの役に立てる。
「イソベも協力するんじゃぞ」