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兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第三章

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全国高校野球選手権山梨大会 1回戦   【和泉凌視点】

●和泉凌副主将


全国高校野球選手権 山梨大会 1回戦

県立北仙丈・帯那連合 対 県立高川高等学校


「今日は富士が雲に隠れちまってるな。残念」


きれいに富士が見えることが自慢の球場に来たのに、肝心の富士山が見えない。

せっかく、地元の球場で試合ができるっていうのに。


「雨が降らないといいんですけどね」


古二田が富士のある方向を見て、心配そうに眉根を寄せている。

富士から流れてくる重く湿った風。いつ雨が降ってもおかしくない天気だ。


「地元の球場だったのは、ラッキーだったな。おかげで体調万全」

「移動がないのは、優位ですよね」


佃と桧山が、バットを丁寧に並べながら、

山梨大会は基本的には甲府の球場を使うが、試合数の多い1回戦は数組だけ富士が見えるこの球場で行われる。富士の見える球場は、地元の町にあるから、そこで試合が行われるなら移動に時間をかけないですむ。今年は地元の球場を見事引き当てたのだから、運がいい。


「今年は7月後半から甲府の球場が使えなくなるそうで、決勝はここでやるらしいですよ」


マネジャーが、荷物を整理しながら有益な情報をみんなに伝えてくれる。


「おお!地元開催!ついてる!俺たちに風が吹いてる気がしてきた!」

「ここでやるのは決勝だけで、準決勝までの3試合は甲府の球場ですけどね」

「つまり決勝が俺たちを呼んでるってことだぁ」


ヒデ、やたらテンション高いな。

今日は、ヒデがピッチャーだからな。気合いが入っているというよりは、テンパってる感じだな。アレは。


「先ずは、今日の試合に勝たないとなぁ。マネージャー、高川高は、どんなチームなんだ?」


佃はいつも冷静だな。見習いたいものだな。


「高川高はうちと同じく県立ではありますが、部員数は倍以上の23人。去年は1回戦勝利してます。2回戦で強豪乾徳学園に負けて敗退。弱くはないですね」

「1回戦、勝ってるのかぁ。楽に勝てる相手ではなさそうだなぁ」


緊張した面持ちの乃生が、ふうっと息を吐く。

乃生は今日の試合にスターティングメンバーとしてでる。緊張してしまうのも無理はない。

高校の夏の大会は、野球をやってる者には特別だからな。

オレも2年の時に初めて大会に出た時は、緊張したもんなぁ。

1年は大会どころか、試合経験もほぼないから、今日は緊張しているだろう。

大地と芦崎は……、荷物の整理中か。大地がタオルを取り出すと、大地のバックパックから何かが零れ落ちた。落ちたものを拾おうと手を伸ばす。


「大地、なんか落ちたぞ。ん?なんだ、これ?」


ブタのぬいぐるみ?押すとプヒプヒ鳴くやつだ。

なんでこんなかわいいものを、大地が持ち歩いてるんだ?


「……イソベのお気に入りのオモチャじゃ。間違えて、持ってきたようじゃのぅ」


大地が気まずそうに、ブタのオモチャを受け取る。

イソベというのは、不動家の犬だったよな。犬のおもちゃか。


「あ~あ、今頃、イソベ探してんじゃねえの。帰ったら、怒られるな」


それを見た芦崎が、おかしくて仕方がないという顔になってる。飼い犬に怒られている大地の姿を想像すると、確かにおかしい。


「……まずいのぉ。兄ちゃんのリュックに、こっそり忍ばせとこうかの」

「大地、卑怯な真似はやめろよ」


芦崎が、ブタのぬいぐるみを大地の手から奪い取り、大地のバックパックのサイドポケットにねじ込む。

……この二人は、いつも通りだな。緊張とは無縁そうだ。

まあ、この調子なら1年は大丈夫そうだな。問題は……


「よおおぉぉし!やるぞぉ~」


……ヒデのやつ、目の焦点が合ってない。

ピッチャーのプレッシャーは尋常じゃないからなぁ。ストライクが入るか?打たれたら?そんな重圧に耐え、ストライクゾーンに投げ続けるのは、並みの心臓では無理だ。

ヒデはオレと比べれば、剛毛の心臓持ちだ。それでも、ピッチャーをやる時は、ああなっちゃうんだからな。

それだけピッチャーにかかる重圧が、すさまじいということだ。


「久慈、キャプテンを落ち着かせてやってくれ」

「は、はい!」


キャッチャーの防具を身に着け終えた久慈に、声をかける。

オレが何か言うより、バッテリーを組むキャッチャーの久慈が支えてやるほうがいいだろう。試合中、ピッチャーが頼れるのは、キャッチャーだけだ。


「キャプテン、……あの、……今日のボールはいい感じなので、ストライクになります。落ち着いていきましょう」

「お、おう!いい感じなんだな。落ち着いて行こうな」

「はい、がんばりましょう」

「おう、がんばろう」


……なんだ?あの二人の会話は……

ヒデだけじゃなく、久慈まで目の焦点が怪しくなって……


「……久慈までテンパりだしてる?」

「ダメだよぉ。副将。久慈ちゃん、緊張しいなんだから」


芦崎がやれやれといった感じで、オレの肩に手を置く。

久慈がそんなに緊張するタイプだったなんて。いつも冷静だから気づかなかった。

どうしよう。あの二人を落ち着かせるには……


「静真ぁ、頼む」


オレには無理だ。

あの場に行ったら、オレまで緊張が移りそうだ。




1回戦 県立北仙丈・帯那連合 対 県立高川高等学校

メンバー表

打順 氏名  背番号 学年 守備位置

1番 芦崎辰海 6 (1年) ショート

2番 不動静真 1 (2年) セカンド

3番 久慈正樹 2 (2年) キャッチャー

4番 佃夏空  5 (3年) サード

5番 不動大地 10 (1年) レフト

6番 和泉凌  3 (3年) ファースト

7番 桧山広海 9 (2年) センター

8番 鞍掛秀俊 4 (3年) ピッチャー

9番 乃生健介 8 (1年) ライト

控え 古二田力 7 (2年)

監督 千々和乙葉

責任教師 千々和乙葉

記録員 酒盛千秋



同じ県立高校同士、いままでならどちらが勝つかわからない接戦になっただろうけど。

今年のうちの野球部は違う。


「大丈夫。絶対勝てる」


夏の大会1回戦。

サイレンが試合の始まりを告げる。



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