投球フォーム 【不動静真視点】
●不動 静真
パソコンのモニターに、世界最速ピッチャーの投球フォームを真似して投げた自分の投球を画面に映し出す。
「……見るに堪えんのぅ」
世界最速ピッチャーは一連の動作を高速で滑らかに行っているのに、オレのほうは出来の悪い人形のようなぎこちない動き。しかも遅い。こんなに動きが遅いんか。……まあ、動作の速さは、まだ求めんでいいか。
基本からじゃ。もっと基本をしっかりとせんとのう。
姿勢が悪い。もっとまっすぐに立ったんと……
「こうか?」
世界最速ピッチャーの投球をスローモーションにして、同じような動きを再現する。
部屋にいた大地が興味津々といった目で、オレとモニターを見比べる。
「上半身の角度が違うの」
大地が動画と見比べながら、違う個所を指摘してくれるが……
「……この……くらいか?」
「もっとこっち向いとる」
きっついのう。これで投げるんか?
「もっと足を上げんと」
「足?……ぅっおとぉぉ」
バランスを崩して膝をついてしもうた。勢いをつけな無理じゃな。
似たようなフォームができるようになるまで、何度も繰り返すがどうにもしっくりいかない。
部屋ん中で投球フォームを真似するのは限界があるのぅ。
公園にでも行くか。
今日は雲が多いのう。
公園に行こう思ったけど、やめとこう。ふらふらの投球を人に見られたら恥ずかしいけぇ。人が来なそうな空き地まで移動じゃ。
裏山近くの空き地なら平気そうじゃな。
「大地、その映像と同じにできとるか、見といてくれんか」
じいちゃんから借りたタブレットを大地に持たせ、何度も練習した投球フォームで投げる。
上半身をひねって、足を……、腕は……こうっ!
「はあぁ、どうしてじゃ。まともにボール飛ばん」
投げたボールが、明後日の方向に飛んでいく。
こんなんで、速い球が投げられるようになるんかのう?
普通に投げたほうが、速く投げられる気がするのう。
いや、それじゃあ、意味ないけえ。世界一速い球を投げられんかったら意味ないんじゃ。
「前よりは似てきとるで」
ボールを拾ってきてくれた大地が、慰めるようにやさしく声をかけてくる。
大地に気を使わせとる……
ボールを投げることは考えず、フォームを完璧に真似るところからはじめたほうがよさそうじゃ。
「大地、遊んできてええぞ」
まだまだ時間かかりそうじゃ。
「兄ちゃんの、へっぴり腰見とるわ。面白いけえ」
「すぐにかっこよくなる!」
大地に格好悪いところ見せ続けるわけにはいかん。すぐに上達して見せる!