表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/44

新入生募集     【桜宮八尋視点】


●桜宮八尋



アドバイスから翌日。


【ピッチングマシン解放中 かっ飛ばしてストレス発散!気分爽快になろう!】

【場所、旧尾白中学校校庭】

【野球部員が打ち方を教えます。気軽に来てください】


エントランスの目立つところに野球部のポスターが。

なかなか楽しそうなイベントじゃねえか。無料のバッティングセンターなら、ちょっとやってみたいって思うよなぁ。

ちょっと、覗いてみるか。


○〇〇○


元中に行くと、いつもと空気が違った。

効果てきめんだったようだな。

今までにないほど、うらびれた旧中学の校庭に人が集まってきている。


「おー、盛況じゃねえか」


その様子を見守っている久慈の肩を叩く。


「おう、桜宮か。大地にアドバイスしてくれたんだってな。助かったよ」

「ん?おう、まあな」


オレに礼を言って来るが、浮かない顔してやがる。


「まあ、ほとんど女子みてえだから、期待外れだったか」


順番待ちをしている多くが、女子だ。入部希望者にはなりそうもない。


「静真に教えてもらえるっていうんで女子が多く集まってるけど、まあ、それに釣られて1年の男らも来てるから、結果オーライだよ」


大半が女子だが、ぽつりぽつりと男も混じっている。この中から入部希望者がでてくれば、野球部としては御の字っていうなら……


「その割には、冴えねえ顔してんな」

「ああ、……それがなぁ」


歯切れが悪いな。何かあるのか?

バッターボックスに目を向けると、カキンと音がした。


「お、当てた」

「そこそこ飛んだな」


打ったのは、男子生徒だ。こりゃ、期待できるかな?


「おー、上手いじゃないか。野球やってたのか?」

「小学生の時に、ちょっとだけっすけどね。でも、まあ、そこそこやれますよ」


キャプテンが声をかけると、1年は得意満面の笑みを浮かべた。

生意気そうな感じの1年だな。でもまあ、ああいうのが、運動部には……


「さえんのう」


野球部3年のキャプテンより偉そうな感じで、大地が現れた。


「ふ!不動大地!?野球部だったのか?!」

「ほうじゃ」


生意気そうな1年が大地を見るなり動揺しだす。

奇妙な緊張感が流れ、静寂が訪れる。


「……あ、俺、やっぱり、……他の部に」


生意気そうな1年が、後ずさりながらごにょごにょ言って、転げるように逃げていく。

その1年の背中を、野球部全員が目で追う。止めはしないんだな。


「ワシの悪評が轟いとるようじゃのう」

「自慢気に言うなよ!何人目だよ!」


大地の友人の芦崎くんが、大地に突っ込みを入れる。


「まあ、なんだ。そういうことでさ」


小さくタメ息を漏らす久慈の顔が、どんよりしている理由がよくわかった。

なるほどねぇ。入部希望者が、大地に気づくと逃げちまうわけか。


「大地って、そんなにやらかしてんのか?」


青ざめて逃げていく1年の背中を見送りながら、疑問を口にする。

大地は態度はデカいが、柄が悪いってことはない。いじめや悪さをする奴じゃないよなぁ。


「……桜宮は中学、こっちじゃなさそうだな」

「ん?ああ、中3の春に、こっちに引っ越してきた」

「中3か。それでか」


具体的なことは言わないが、久慈の言いたいことは察せられる。


「まあ、桜宮みたいなタイプには、大地は無害なんだけどな。ヤンチャな連中には、大地は鬼門だからなぁ」

「片鱗は見たことあるよ」


2度目に大地に会った時のことを思い出す。ガラの悪そうな高校生数人を、中3の大地が一人でのしていた。喧嘩というより、一方的な制裁。たぶん、そんなことを他でもしてたってことだろうな。


「入部するまで、大地の存在を隠しときゃいいんじゃねえか?」

「入部してから来なくなるほうが面倒だろ」


それもそうか。


「こりゃあ、見学者が増えても、入部にまでは至らなそうだな」

「面白がるなよ。……ここまでやって、一人も新入生を確保できてねえんだぞ」


久慈が何度目かのタメ息をつく。

苦労してんなぁ。野球部。


「……まだ、一人残っちょる」

「え?」


大地の声に釣られ視線の先を追うと、ぽつんと人影が。


「ほんとだ。校門のところでうろうろしてる」

「制服が新しい。1年だな」


うちの学校の制服を着た男子生徒が、こんな場所まで迷い込んで来ることもないだろう。見学に来た新入生と思って間違いない。女子の多さに気後れしてるのか、なかなかこっちに来ない。


「あの子、地元の子じゃないと思うよ。ここに行く道、聞いてきたから」


話を聞いていたのだろう女子が、笑いをこらえながら、情報を提供してきた。


「地元じゃない。ってことは大地のこと知らないはず」


久慈の目が光る。


「いけるぞ!確実に確保しろ!」


大地の友人辰海に目配せをする。


「よっしゃ!話しかけるのは静真兄ちゃんに任せて、オレと大地は退路を断とう!」


いい作戦だ。大地が退路にいたら、誰だって帰るより静真と対話することを選ぶだろう。


「後ろに回り込めばええんか?」

「気づかれないようにな。校舎に行くふりをして遠回りして回り込むんだ」


芦崎は、こういう状況に慣れてるんだろうな。判断が早い。


「久慈ちゃんは静真兄ちゃんを呼んできて!オレたちはターゲットの後ろに回り込めるよう移動すっから」

「よぉぉおし!二人とも、逃がすなよ!」


久慈が静真を呼びに、女子たちが集まっているところに駆けていく。


「……野球部、怖えぇな」


純朴そうな少年なのにな。こりゃあ、逃げられねえな。

静真が見学の1年を誘って、いっしょにバッティング練習をはじめると、緊張した面持ちだった1年があっという間に笑顔になった。

あの様子なら念願の部員、一人は確保できそうだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ