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兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第三章

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責任教師    【不動静真視点】

●不動静真 高校2年


新学年が始まると、あわただしくなる。特に運動部は。

野球部も例外というわけにはいかない。

談話室に行くと、すでに野球部員全員が集まっていた。


「全員集まったな」


腕組みした鞍掛キャプテンが、重々しい空気を醸し出そうとしている。


「これより、新入部員を確保するための作戦会議を行う」


運動部にとって、新入生を確保できるかどうかは死活問題。部員が増えなければ活動できなくなる。

高校野球には人数の足りない高校同士で組んで連合チームという救済策はあるものの、部員を確保し続けなければ先細っていくけえのう。


「3年が2人。2年が3人。あと、最低4人。新入生をできれば5人は確保したい」


自校で9人以上そろうのが理想だ。人数が多ければ練習もしやすくなる。


「静真!大地と芦崎は、うちの高校に入ったんだよな?もちろん、野球部に入ってくれるんだよな?」

「無事入学できたんで、その2人は入部すると思います」

「そうかぁ。よかったぁ。じゃあ、あと、2人……。まあ、それなら何とかなるか」


鞍掛キャプテンが、安堵の表情になる。

……2人か。2人くらいなら確かにどうにかなる。

しかし、戦力になる者を2人となると、厳しい。

文化部なら幽霊部員でもかまわないだろうが、運動部の場合はやる気のある者でないと士気が下がるからのう。

未経験でも練習に出てきてくれるなら鍛えようがある。練習に出てこない部員が、10人いても邪魔にしかならん。

やる気のある者を、あと2人……。いるとええんじゃが。


「今日は、練習前にポスターを貼る者と1年の教室を回って声掛ける者とに別れて……」

「キャプテン、顧問も頼みに行かないと。昨年度まで、顧問だった野村先生、異動してもういないからさ」


和泉先輩の言葉にキャプテンの顔が曇っていく。


「ああ、そうだった。……運動部の顧問になってくれる先生を見つけるの大変なんだよなぁ」


大きなタメ息を吐くキャプテンに、自分まで釣られてタメ息が漏れそうになる。

顧問探しは難題だ。放課後も休日もつぶれる運動部の顧問になることを、先生たちは嫌がる。特に体育会系の顧問になってくれる教師というのは、学生時代に運動部だった教師くらいしか引き受けてはくれない。

野球部出身の教師がいれば話は早いのだが、うちの学校には野村先生以外に野球経験者はいなかったはず。未経験者でもオレたち部員は構わないのだが、教師のほうが嫌がる。高校野球の監督というのは、それだけ荷が重いのだろう。


「うちの学校に野球部出身の教師が赴任して来てくれるといいんだけど」

「そうだよなぁ。気の進まない教師に頼み込んでなってもらうというのは、あんまりなぁ」


キャプテンたちが、またタメ息をつく。気が重くなるのも仕方ない。

やる気のない教師が顧問だと、何かと活動の幅が狭くなるからのう。


「静真もいっしょに来てくれ。先生から受けのいい静真が頼んだほうが引き受けてくれる可能性高いからな」


弱小野球部は、野球を始める前から前途多難だ。



練習前に部員全員が、それぞれ勧誘へと散っていく。


「静真、先ずは今年度新しくきた先生に声をかけて行こう」


キャプテンがこぶしを握り締める。

着任式であいさつした教師は7人。男性4人、女性3人。この中に野球経験者がいてくれたら話は早いんじゃけどのぅ。

職員室に行き、先ずは男性の新任の教師に声をかけにいく。


「野球部の顧問?」

「はい!お願いします!」

「いやぁ、それが、もう、他のクラブの顧問を引き受けちゃったところで……。ごめんなぁ。さすがに2つもは無理かなぁ」

「ええ?!そうなんですか?」


……出遅れた。他の部も狙っていることを考慮していなかった。


「……仕方ない。次に行こう!」


残るは6人。男性教師はあと3人、キャプテンと手分けして声をかけに行くが……


「ダメだった。そっちは?」

「無理でした」


野球部の顧問というのは、大変というイメージがあるのか、名前を貸すだけでも嫌がられてしまう。

どうしたもんかのぅ。着任の女性教師3人は、運動部経験者という感じではなかったからのぉ。引き受けてくれる可能性は……


「新任の先生ですよね?野球部の顧問に」

「野球部ぅ!?無理無理無理ぃ。わたし、野球なんて全然わからないものぉ」


キャプテンが新任の女性教師の一人に声をかけるが逃げられてしまう。野球のことをわからなくてもええんじゃけどのぉ。無理強いするわけにもいかんしのぉ。

すでに断られている先生たちに、ダメもとで頼んでみるしかないか。

誰か適任者がいないかと、職員室を見渡していると、扉が開いて大地が入ってきた。何で大地が職員室に?


「兄ちゃん、こんなところで、なにしちょるんじゃ?」


オレに気づいた大地が、声をかけてくる。


「大地こそ、どうして職員室に来たんじゃ?」


嫌な予感がするのう。

大地が、オレたちのところへとやってくる。


「呼び出しじゃ」

「なにやらかしたんじゃぁ」


入学早々。


「やらかしたわけじゃないの。提出物に不備があっただけで」


若い女の先生が、慌てながらオレと大地の間に割って入ってきた。大地を呼び出した先生か。

……確か着任式にいた。千々和乙葉先生。

担当科目は英語。異動で来たと言ってたから初任ではない。

若くても教師として経験を積んできた先生だからか、大地にも物怖じしていない。


「それでね。不動くん、この書類に書いてないところがあって」


語りかける先生を、大地が不思議そうに眺めとる。


「誰じゃ」

「担任の千々和です!どうして、覚えてくれないのぉ」


大地の担任は大変そうじゃの。


「こちらが大地くんのお兄さんね?大地くんが自慢してた野球部の?」

「ほうじゃ、自慢の兄ちゃんじゃ」


……大地、入学早々、担任に何の話をしちょるんじゃ……

顔が赤くなってくるじゃろが。


「いいわねぇ。高校野球!青春よねぇ」


千々和先生が、にこにこと楽し気な笑顔を浮かべる。


「……先生、野球好きなんですか?」

「もちろん!大好きよ!野球観戦が趣味で、たまにだけど球場まで行って応援してるくらいなんだから!」


山梨で球場まで?筋金入りじゃのう。

……そこまで野球好きなら、もしかして。キャプテンと目配せし合う。


「千々和先生!お願いします!野球部の顧問になってください!」

「ええ?!待って、野球は観戦するだけで……」


公立の野球部では、外部から監督を招聘することはほぼ無理なため、責任教師が監督も務めることになる。そのため野球経験者以外の教師は及び腰になってしまう。

野球経験なんぞなくてもええんじゃけどのぅ。野球部の責任教師を引き受けてもらうには、どう説得したらええんじゃ。


「無理は言いません!自分たちでできることは全てやります。先生に極力負担をかけないようにしますから」

「負担とかはいいの。ただ、私では……」


キャプテンの説得でも、千々和先生から色よい返事はもらえない。


「千々和先生、野球部の練習を見に来ませんか?それで無理かどうか決めてください」


千々和先生の目が輝いた。本当に野球が好きなんだな。

野球好きの先生に、オレたちが頑張っている姿を見せれば、顧問になってくれるかもしれない。

キャプテンも同じように思ったんだろう。力強く頷く。


「ふふん、兄ちゃんのピッチング見たら、たまげるけえ。覚悟しとくんじゃのう」

「大地くんが自慢してたお兄さんのピッチング……。ふふ、それは楽しみね」


……大地はどんな自慢したんじゃ。



❀❀❀


千々和先生に廃校の校庭まで来てもらい、野球部の練習風景を見てもらう。


「すごい。静真くんのピッチングは、高校生の域を超えてるわ!」

「芦崎くんは足速くて、どんな投球でも当てるし、久慈くんのバッティングも全国レベル」

「ただ守備は、粗が目立つわね。基本的な動きはできてるみたいだから経験不足といったところかな?」


感心しきりの千々和先生は、思った以上に野球好きのようだ。野球の知識がしっかりある。

オレたちの問題点まで見えるほどに。


「見ていただいたように、練習は自分たちでできるので、試合の時に来ていただけるだけでいいんです。顧問になってもらえないでしょうか?」


キャプテンが尋ねると、千々和先生が困った顔のまま頷いた。


「なり手がないなら、喜んで引き受けるけど、本当にいいの?もっとしっかり指導できる先生に頼んだほうが……」

「オレたちは自分たちで練習メニューを決めて来ましたし、これからもそういう形でやっていきたいと思っとります。オレたちのやり方を尊重してくれる先生のほうがありがたいんです」


知識もなく前時代的な根性野球をやるような教師に、顧問になられても困る。中途半端な経験による指導は、選手を痛めつけるだけじゃ。古い知識しかない経験者より、新しいことを受け入れて見守ってくれる先生のほうが、うちの野球部には必要なんじゃ。


「そういうことなら引き受けましょう。私はサポートに徹すればいいのよね?」

「はい、よろしくお願いします!」


よかった。理想の顧問になってくれそうだ。

これで一歩前進。



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