犬 【不動大地視点】
●不動大地
「大地!来てみろ!子犬じゃ!」
兄ちゃんに呼ばれて玄関まで行くと、白と茶色と黒が混じった犬がぐるぐると兄ちゃんの周りを走っとった。
「どうしたんじゃ?その……子犬?」
子犬という割にはデカいの。
「近所の家で生まれたの貰うてきた。じいちゃんがオレたちで面倒見るなら飼ってもええって」
飼うんか。
「でかいのう。ほんまに子供なんか?」
「生まれて3カ月、人間の年齢で言うと5歳くらい言うとったから正真正銘子犬……なはずじゃ」
5歳とは思えん頭突きかましてくるのう。なかなか見どころのある子犬じゃな。気に入った。
▲▽▲
子犬の名前はイソベに決まった。その日のおやつの磯辺焼きからじゃ。
早速、イソベと散歩じゃ。とっておきの場所を案内しちゃるかのう。
「イソベ、どこ行くんじゃぁ」
草むらに入っていこうとするイソベを引っ張る。そうすると、今度は小川に入っていこうとする。
なんでイソベは道を歩かんのじゃ。
「不動!そんなんしたら、かわいそうだろ!」
同じ年くらいの子供が、ワシの名前を呼びながら駆け寄ってきた。
見たことない奴じゃ。
「誰じゃ」
「クラスメイトの芦崎辰海だよ。辰海!辰海!辰海!いい加減覚えろよ」
クラスメイト?あがにぎょうさんおるのに覚えろ言うんか。酷やのぅ。
「そいつ、まだ子犬だろ?そんなひっぱったら首が締まる。もっと、リード短く持って子犬の隣を歩いてやれよ」
ほう言ってしゃがみ込むと、イソベの背中を撫でだした。
イソベがうれしそうに尻尾を振り、じゃれつきだす。
「犬、くわしいんか?」
「くわしいってほどじゃねえけど、まあ、うちにもちっちゃいのがいるから」
犬を飼うとるっちゅうことか。
「言うこと聞かんで困っとるんじゃ」
なにか間違っとるんかのう?
「犬だって感情はあるし、いろいろ考えてんだよ。たくさん話しかけてやれば、だんだん言葉を理解して言うこと聞いてくれるようになるよ」
そんなもんなんか。
「犬と何を話せばええんじゃ?」
「なにって……」
「辰海は犬と何を話しとるん?世間話ちゅうやつか?」
会話は苦手じゃけえ、できるかのぅ。
「……犬と世間話はしねえよ。だからさ、こう、いっしょに歩くだろ?その時にさ、声をかけてやるんだよ。『よおし、いい子だな。いっしょに歩こうな』」
イソベのリードを持って歩き出した辰海の横を、イソベがおとなしくついていく。
どういうことじゃ。