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兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第二章

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野球は9人で     【池田コーチ視点】


●池田コーチ



スコアボードの常永の並びにやっと1が付いた。

これで1点差。うちが1点差で負けているわけだが。


「さすが諏訪原さん!多少速くたって諏訪原さんを抑えるのは無理なんだよ!なんたって、うちの最強スラッガーなんだからな!」


中村が興奮を隠さず、ダイヤモンド一周してきた諏訪原を出迎える。


「諏訪原さん!やりましたね!」


そんなに喜ぶな。

県立の名前も聞いたことのないような高校の野球部が相手だということ、わかっているのか。中村ぁ。

こっちのメンバーは1年中心の2軍ではあるけど、来年はレギュラー入りも考えてる1年が多数。諏訪原の要望で許可した練習試合だから、それなりに粒ぞろいをそろえたんだぞ。それなのに、諏訪原以外はいいように手玉に取られて……

あのピッチャー……。惜しいな。うちにいれば……

あの諏訪原が打ち上げちまうなんて。諏訪原もまだまだ甘い。気が急いたか?まあ、それでも外野まで飛ばせるのが諏訪原の凄みではあるが。今の1点は、北仙丈の守備のつたなさに助けられた部分が大きい。

外野手がフライを捕れず、もたついているうちにホームまで帰ってこれたにすぎない。

諏訪原自身、それがわかっている顔つきだな。納得できていない。


バッターボックスで井上が、挑発するようにバットを振っている。……全く、あいつは。

調子に乗るその性格のせいで、レギュラーが遠のいているっていうのに。

井上が振った。つまったな。ゴロをショートが取りこぼして、……セーフ。


「当たるようになってきたな」

「経験の差さ。うちは160キロを打つ練習もしているからな。多少スピードがあっても、目が慣れちまえば打てるんだ」

「バットに当てることさえできれば、点の取りようはいくらでもあるからな。こっから反撃返しだ」


盛り上がっている部員達には悪いが、今のところ向こうのピッチャーのほうが一枚上手だな。

打ったんじゃない。打たされたんだ。

ショートのミスで塁に出ることはできたが、ミスがなければアウトだった。


「打たせに来てますね」


諏訪原がひっそりと、俺にだけ聞こえるように話しかけてくる。


「ああ、わずかな差だから、お前以外は気づいてないみたいだがな。まったく、なんなんだ?あのピッチャーは」


先ほどまでは抑えるピッチングだった。その時には、うちの連中は手も足もでなかった。

物足りなくなったのだろう。打たせて捕る投球に変えた。

わずかに球速を落とし、バッターが打ちやすいようにしてやがる。打てはしても点は取れないようコントロールしながら。

……あの投手、本当に1年生ピッチャーか?

やってることが、老練のそれだ。


ただ、うまく連携が取れずにまごついている場面が多い。

不動静真が並外れた投手だとしても、他の部員は違う。おぼつかなさが目立つ。

野球は投手一人でやるもんじゃない。

選手が揃っているところでやらなければ、結局、勝てはしない。

投手としての技術も頭脳も身体もトップレベルのものを持っていながら、頂点に近づくことはない。

環境ですべて台無しだ。……もったいない。うちに来ていれば。


「なんだよ。随分、盛り上がってるな。練習試合、どことだ?」

「北仙丈?聞いたことねえな」


レギュラー3人がご到着か。

有泉、幡野、桑島。3年が抜けた今、諏訪原とともに主力となる2年生レギュラー。


「有泉、幡野、次の攻撃で出す。準備しておけ」

「ええ?!俺たちが出るんですか?」


説明もなく連れてこられた3人は、状況がわかっていないのだろう。

面白い。事前情報なしでこいつらがどこまでやれるか。試すか。


「なんだ?不服か?」


諏訪原が二人に顔を向ける。


「諏訪原?!なんでお前が試合に出てんだよ?」

「どういうことだ?ただの遊びだって言ってなかったか?」


試合用のユニフォームを着た諏訪原に、有泉と幡野が怪訝になっていく。


「桑島はオレの隣でよく見ておけ。向こうのピッチャーを」

「どういうことですか?なんで……」


怪訝な表情でマウンドに目を向けた桑島が、息を吞んだのがわかる。

投手の桑島なら、ここにいる誰よりも不動静真の実力を推し量ることができるだろう。

ああいう投手と自分を見比べることも、いい勉強になる。


「お前ら、負けたら全員、反省文だぞー。しっかり勝ってこい」



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