表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/44

ピッチャーの名前    【諏訪原視点】


●常永 諏訪原



「速い」


バットを振ることもできず、見送った1番打者を責めることはできない。


「自慢するだけはあったか」


あの男の兄自慢を本気にはしていなかった。野球のことを何も知らない男に、からかい半分でお灸をすえてやろうと思っただけだったのだが……

兄だというあのピッチャー、球速もコントロールも申し分ないどころか、高校生であれだけ投げられる投手は全国でもそうはいないだろう。

隣からガタリと大きな音が立つ。

面倒くさげだった池田コーチが、いつの間にか隣に座っていた。


「あのピッチャーの名前は?」

「不動静真、1年生です」


記録員がメンバー表を確認して伝えると、コーチが身を乗り出す。


「1年か。……いいピッチャーだな。もったいない。あんな弱小校にいていい人材じゃない」


北仙丈のピッチャーを池田コーチが食い入るように見つめている。

常永のピッチャーにさえ、ここまで熱心に視線を向けているのを見たことがない。

池田コーチはピッチングコーチだ。投手を見る目は、誰よりも厳しい。


「カメラとスピードガン持ってこい。ああそれと……」


コーチが後ろに控えていたマネージャーに声をかけた後、近くにいた1年の肩に手を置いた。


「レギュラー何人か連れて来い。ああいう投手の球を打てる機会、そうそうないからな」


1年が困惑した表情になりながらも、レギュラーを呼びに立ち上がる。


「そんなにですか?」

「バッターボックスに立てば、お前らもわかる」


浮き立つコーチに、記録員が訝しむようにマウンドの北仙丈ピッチャーを凝視する。

常永の野球部には全国から集めてきた投手が何人もいる。

打てる機会がないということは、うちにいる投手ではあの球を再現できないということだ。150の速球を投げる投手もいるというのにだ。


「いろんなタイプのピッチャーのボールを経験するに越したことはないからな。特にあのピッチャーは……、わかるか?諏訪原」


コーチが俺に水を向けてくる。


「メジャーの投手を彷彿とさせますね」

「わかってるじゃないか」


投手の投球フォームというのは、選手によって違いがある。体格や目指すスタイルによって変わってくるからだ。

ほとんどの高校生投手は、日本のプロ選手に近いフォームになる。体格的に自分に合うフォームを見つけやすいからだ。

身長が190近くはあるだろう不動静真の体格は、メジャー選手に近い。メジャーのフォームに近くなるのは必然ではあるが……

高校球児でも全国にいけば、メジャーの投手のようなフォームで投げる高身長の投手がいないこともない。

だが、あんなに完璧なのは見たことがない。ああした速球を意識したフォームの投手は、ほとんどがコントロールが悪く、活躍できてないのが現状だ。なのに、北仙丈のピッチャーはあのスピードで制球力もいい。


「ああいう豪快に見えて綿密に理論建てたフォームで投げる投手を高校野球で見られるとはなぁ。指導者は誰なんだ?向こうには監督の類はいなさそうだが……」


池田コーチの視線の先にある北仙丈のベンチには、やる気のなさそうな教師がぽつんと一人座っているだけだ。

ただの責任教師だろう。野球経験すらあるかわからない。


「諏訪原、お前もバッターボックスに立ってこい。いい勉強になる」

「俺はもともと出るつもりだったのに、止めたのはコーチですよ」

「……下手なのとやって怪我でもしたらと心配したんだ。親心だよ。親心。あのピッチャーのコントロールなら故意でない限り大丈夫そうだからな」


投手に関しては厳しい目を持つ池田コーチが、お墨付きを与えるほどのコントロール。

興味がわいてきたよ。

あの弟が自慢するだけのことはあったというわけだ。


そうこうしているうちに1回の攻撃が終わっていた。

点どころか塁に出ることもできずに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ