マウンド 【不動静真視点】
●不動 静真
先攻か。
投手としてはありがたい。いきなりマウンドに上がるのは、プレッシャーがある。
試合に出るのははじめてというわけじゃないけどのぅ。投手としてマウンドに立つのははじめてじゃけえ、緊張する。
ストライクが入るか、打たれないか、そんな不安がどこからともなく湧いて来る。
期待に応えられなかったら……
「あっちで投げてるのが、常永のピッチャー?思ってたより速くない。……あれなら打てるかも?」
辰海がお気楽なことを言っとるのぅ。1番バッターだというのに緊張せんのじゃろうか?
大地の友人なだけあって、辰海は度胸が人並外れとる。
「2軍の投手だな。充分速いが、まあ、静真や大地と比べたらな」
反田先輩まで。
「兄ちゃん以上のピッチャーなんぞおらんけえ」
……大地は、こんな感じで諏訪原たちに吹っ掛けたんかのう。まいるのぉ。
「2軍投手とはいっても、常永で投手をやってるんだ。見くびってると痛い目に合うぞ」
久慈が諫める。久慈は頼りになる。
「ん~、そうなのかなぁ。ま、バッターボックスに立てばわかるか」
辰海はだんだん大地に似て来とるの。
「練習試合だからな。勝ち負けより楽しんできたらいいさ。今日は野球の楽しさを知るのが目標みたいなもんだ」
「キャプテンがそういうなら、楽しんで来よ」
ヘルメットをかぶった辰海が、軽い足取りでバッターボックスに向かう。
「キャプテンは甘いなぁ」
久慈が笑顔を浮かべる。
大地と辰海以外は、南海大付属常永に勝とうとは、はなから思っとらん。相手の実力をよくわかっとるからのう。
今日の試合で、今後の課題が浮き彫りになれば御の字じゃ。
練習メニューを作るのに役立つ。今日は自分たちの実力を知る試合じゃけえのう。
1番バッターの辰海が、バッターボックスに立つ。
緊張はしてないようじゃのう。
1球目。
辰海のバットから音が鳴る。白球が三遊間を抜けていく。
「おお!ほんとに打ちやがった」
「初球打ち!」
「やるのう」
辰海は瞬時の反応が飛び抜けとるとはいえ、初球を見逃さずに打つとはのう。
度胸も飛び抜けとる。
「辰海なら、あのくらい打てる」
大地が自慢気にふんぞり返る。うれしいんじゃの。
2番久慈も、つまったがセカンドの頭上を超え、ぽてんヒット。
2塁、1塁に走者がでた。
「おお、いけそうじゃねえか?」
反田先輩がうれしそうに身を乗り出す。
3番鞍掛キャプテンは、三振。
4番和泉副キャプテンの打球をセカンドが捕り、ショートに送球。二塁で久慈がアウト。
ファーストに送球。一塁で和泉先輩がアウト。
463のゲッツーを決められ、1回の攻撃は終了。
点にはならずか。
やはり、そう甘くない。打たせはしても点は取らせない。
それが強豪校というものなんじゃろう。経験がオレたちとは圧倒的に違う。
これから知っていくことになるのじゃろうのう。強豪校の強さを。
「覚悟せんとな」
ベンチを出て、マウンドに向かう。
早くなりかけた鼓動を、大きく息を吸って抑え込む。
顔を上げ、胸を張る。強気でいかんと。
相手が誰であれ、勝つ気で行く。
「オレは日本一のピッチャーじゃ。誰にも打たせん」
自分を騙せんようじゃ、バッターも騙せん。
マウンドに立ってる時は、オレは日本一のピッチャーじゃ。




