なんとかせんと 【不動静真視点】
●不動静真
大地は日常的にからかわれてるようじゃ。それで喧嘩になったら、悪いのは怪我させた大地ということにされてまう。
大人というのは、騒ぎ立てる親がいるほうの味方になるからのう。
先生は事情を知っていても大地の味方はしてくれん。大人は頼りにならん。オレがなんとかせんと。
オレが大地の同級生と話付けるっちゅうこともできるが、それだとオレのおらんところでいじわるされるだけだしのう。
……大地がからかわれんようにするしかないのう。
周囲から何か一つでもすごいと思わせることができれば、からかわれることもなくなるじゃろ。
大地に特技を作るとして、何がええじゃろな。
格闘技は加減できんでやりすぎてまいそうじゃ。チームプレイが重要なサッカーやバスケは揉めそうじゃのう。
……野球はどうじゃろう?球を投げて打つ。一対一のサシの勝負に近い。勝負は一瞬。大地の気性に合っとる気がするの。
ボールをうまく投げられるようになってきとるしええかもしれん。
「決まりじゃ!」
大地はオレの真似すればできるんじゃ。
バカになんてさせん。
それには、まずオレが見本にならなあかんな。
ボール一つ投げるのだって正しいフォームで投げんと。
オレがおかしな投げ方や打ち方をすると、大地はそれを真似してまう。
「勉強せんとなぁ」
この辺には教えてくれるような大人はおらんけえ。自分でどうにかせんといけん。
まずは情報集めからじゃ。
「じいちゃん、ネットで調べものしたいんじゃ」
仕事から帰ってきたじいちゃんに、早速、頼みに行く。
「……使ってないパソコンをあげるから好きに使いなさい。部屋に持っていってあげるから」
じいちゃんが、オレと大地の部屋に設置したパソコンはやたらデカかった。
パソコンの電源を入れる。
投球フォームで検索をかけると、ズラズラと文字が並ぶ。
とりあえず上から見ていくかの。
投球フォームといっても、色々あるんじゃなぁ。
参ったのぉ。大地に合うフォームは、どれなんじゃろ?
投手だけでもフォームが何種類もあるのに、内野手と外野手でも投げ方が違うんか。
フォームの前に、ポジション決めんとあかんな。
ピッチャー、キャッチャー、それから内野手、外野手。
……やっぱり、派手なのがええのう。みんなに注目されるポジション。
野球の花形といえば、ピッチャーかホームランバッターといったところかのう。
「……投手じゃの」
守備は、投手じゃ。
投手の中でも、注目度が高い投手に育てたいのう。
注目度が高いっちゅうたら、速い球が投げられる投手じゃろうな。
160キロ越えの球を投げる投手は、世間の話題になりやすい。
日本一。いや、世界一速い球を投げたら、みんな注目するじゃろ。
……世界一速い球を投げる大地。……ええかもしれんのう。
今現在、世界一速い球を投げるのは誰なんかの。調べてみるかのう。
……アメリカの選手なんか。
……動画ある。
やっぱり、世界最速記録を持ってる投手はかっこええのぉ。
このフォームを真似したら、速い球が投げられるんかのぉ。この選手の投球フォームを真似を……
「速くてようわからん」
なんかヒントはないかのぅ。
この投手の投球フォームを分析しとるブログがある。
世の中、いろんな趣味を持っとる人がいるもんじゃのう。
……ええと、蹴りだし?回旋?腕だけじゃなく、下半身の使い方も重要なんか。
一連の動作の連動性と速さが、肝のようじゃのう。
球ぁ投げるだけで、ここまでぎょうさんやることあるんかぁ。
「たいぎいのぉ」
思った以上に大変そうじゃ。
じゃけんど、やらんと。
思い立ったら吉日じゃ。
「じいちゃん、動画を撮影できるカメラを持ってたら貸してくれんか」
「……古いビデオカメラでいいか?」
「スローモーション撮影できる?」
「さあ?説明書も渡すから自分で調べなさい」
まずは自分が習得せんと、大地に教えることはできんけえのう。
見様見真似じゃああかん。教えるなら、自分自身が実践できるくらい深く詳細に理解する必要がある。
自分のフォームを撮影して、世界一の選手のフォームと比較しながら修正して覚えていく。
投げられるようになったら、大地に教える。
この方法しか思いつかんけぇ、これで行くしかない。
「兄ちゃん」
大地に呼ばれて振り向くと、眠そうな顔をした大地が布団に潜り込むところだった。
「ワシ、先に寝るけえ。おやすみ」
「もう、そんな時間か。おやすみ。大地」
実践するのは明日じゃな。とりあえず、キャッチボールの投げ方から。それから世界一の投手の投げ方を覚える!
それで大地に教える。
そうすりゃあ、大地は超一流選手にだってなれるんじゃ。
世界一速い球を投げる投手の誕生じゃ!
「……兄ちゃん、なんでワシのこと、じっと見とるんじゃ?」
大地は何も心配せんでええ。
「任せろ!大地!」
「何をじゃ?」




