事後報告 【不動静真視点】
●不動静真
祭りの手伝いを終え、休憩所で和泉先輩と屋台の飯を食っとると、大地たちもやってきた。
屋台で買ったらしき、大量の食べ物を持って。
「兄ちゃんは、なに食べとるんじゃ?」
「明太海鮮焼きそばじゃ。なかなかうまいぞ」
今日みたいに暑い日は、さっぱりした味付けのもんがええ。
「辰海、それ買ったかのう?」
「いや、買ってない」
「今から買いに」
「まずはそれを食べてからにしい」
大地たちがテーブルに並べた屋台飯が冷えてまうじゃろう。
「大地、辰海、これも食べていいぞ。差し入れでもらったんだ」
「だんだんじゃ」
「おお!やったぁ。いただきます!」
和泉先輩が紙の手提げ袋から出した食べ物を並べていくと、小さいテーブルは食べ物であふれる。
祭りはええのう。地元の祭りでも、手伝いしとると差し入れで腹が膨れる。
あっという間に買って来た屋台料理を食べつくした大地と辰海が、和泉先輩の差し入れを食べだす。差し入れもすぐになくなりそうじゃ。育ち盛りじゃのう。
「そうじゃ、日曜日、北仙丈野球部の部員集めてくれんか。試合することになったけえ」
大地が肉巻きおにぎりを頬張りながら妙なこと言うて来た。
「なんで大地が野球部の試合を決めてくるんじゃ」
「成り行きじゃの」
どういう成り行きで、そうなるんじゃ?
「どこと?」
副キャプテンの和泉先輩が興味を示す。練習試合の相手を見つけるのに苦労しとるようじゃからのう。藁にも縋りたいのじゃろ。練習試合は歓迎だが、まともな相手でなければ許可は下りんけどの。
「なんといったかのぅ?辰海、覚えちょるか?」
「忘れんなよ。南海大常永だろ。今年の山梨代表」
「そこじゃ」
聞き間違いか?南海大常永と聞こえたが……
「南海大常永?!どういうことじゃ?!」
「本当に南海大常永なのか?なんで南海大常永がうちとなんか試合してくれんだ?」
和泉先輩と顔を見合わせ、大地ではなく辰海に顔を向けると、モダン焼きを咥えたまま困った顔になる。
辰海が校名を間違えて覚えているわけでもなさそうじゃ。
どういうことなんじゃ?
「あかんか?」
大地がしょんぼりとしてしまう。
「あかんわけじゃないけどのう。なんでじゃ?南海大常永校は、今年の甲子園出場校じゃぞ?」
こっちが練習試合を申し込んでも断られるだろう。差がありすぎて。
どうしてうちの野球部と練習試合をしてくれるんじゃ?
「常永の野球部員らと、ちいっと揉めただけじゃ」
「なにしとんのじゃ」
揉めたって、どういうことじゃ。数時間の間に、なんでそないなことになるんじゃ。
「……常永と試合か。こんなチャンス、そうそうないし、出来るならやりたいが……」
和泉先輩が悩ましげに腕を組む。
「3年が引退して、北仙丈野球部には、現在5人しかいない」
部員が足りてない上に、3年まで引退してしまっとるからのう。今は5人。2年が2人、1年が3人。試合をできる人数には程遠い。試合をしたくてもできないのが現状なんじゃ。
「ワシと辰海も野球部いうことにして出たるけえ」
大地が助っ人を買って出る。大地が持ってきた話なら、責任は取ってもらわんとな。
「それでもあと2人必要だな。3年の先輩に声をかけてはみるけど期待しないでくれ」
そうは言うものの、和泉先輩の顔は期待に満ちている。3年生も1日くらいなら付き合ってくれる可能性は高い。
南海大常永と練習試合ができるというのは、それだけ魅力がある。
「おう、ここにいたのか」
祭りの手伝いを終えたキャプテンたちが、オレたちを見つけ、こっちへとやってくる。
南海大常永との試合のことを話したらどんな反応をするだろうか?




