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兄貴はいつも俺の味方でヒーローだった  作者: みの狸
第二章

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中坊     【桜宮八尋視点】


●桜宮 八尋



地元ののんびりとした高校に入学したのは正解だった。

素行の悪い連中はいないし、成績ばかり気にしてギスギスしていることもない。

野村と揉めたこと以外は、至って平穏な日々。


「桜宮くん、隣のクラスの女子が門のところで桜宮くんのこと待ち伏せしてるよぉ。モッテモテだねぇ」


教室を出たところで、クラスの女子が報せに来てくれた。

平穏ではないか……


「あ~、教えてくれてサンキューな。裏から帰るとするわ」


モテモテねえ。正直、勘弁と思っちまう。

なぜかオレに興味持つ女は、厄介なのが多いんだもんなぁ。彼氏持ちだったりさぁ。高校に入ったばかりで、これ以上面倒はごめんだ。

こういう日は、旧中の部室に行って、のんびり音楽でも聴くかぁ。人の寄り付かない場所は気楽でいい。

その前に、小腹も空いたし、なんか買っていくかな。


「ビーフシチューコロッケ、2つ!あ、やっぱり3つ!」


今日は部活がない日ではあるけど、もしかしたらオレ以外も来てるかもしれないし余分に買っとくか。

高校から旧中学校まではそう遠くはない。10分も歩けば着く距離だ。ただ、その10分が面倒で利用者は、野球部と音研部くらい。廃校の一画という、人気のない寂しい場所だが、校庭では野球部が練習してるから、孤独感みたいなものはない。程よく、活気があって静か。

最高な場所、……だったんだけどなぁ。



「っうぅぐ!!」


目の前で人が倒れる。


「ヒィイ!っやめっ!……待っ!!」


明らかにうちの生徒ではない男4人が、旧校舎の前で逃げまどっている。

その男たちを追う金属バットを持った大男。


「……イノシシ殺しの……不動が?……なんで、こんなとこにいるんだよぉぉ……」


イノシシ殺し?なんか物騒な異名だな。まあ、似合ってるか、あの中坊には。

金属バットで肩を叩きながら不動大地が、男たちを追い詰めていく。


「こん場所を荒らすもんは、ワシの敵じゃ。そん手足、使いもんにならんようしごうしちゃる!」


言い終わらないうちに大地が、男の一人を回し蹴りで吹き飛ばす。


「っぅぐぅ!!」


転がりながら地面に倒れた男を、仲間たちが立ち尽くしたまま目で追う。


「待っ!……やめっ」

「手ぇは使わん。足だけで処理したる」


金属バットを振りおろしながらいうセリフじゃねえよなぁ。すぐにもう一人に蹴込みを入れ、地に伏させると、最後に残った男を捉え後ろ廻し蹴り。

やべえ。見かけ通りに強い。


「ひいいぃぃぃ」


恐怖の悲鳴を上げ這いずりながら、見慣れない男4人がこっちに逃げてくる。


「た、助けてくれ!!」

「ええ~?オレに言うのぉ?」


うちの生徒ではないガラの悪そうな男たちが、オレに助けを求めてくる。勘弁してよ。


「なんじゃぁ、仲間か?」


大地がオレを睨みつけてくる。

金属バット持っている姿が野球少年にはまったく見えねえな。


「どう見ても違うだろ!見忘れたのかよ。この前、道案内してやっただろ!」

「…………おう、あんちゃんか」


覚えていたようで、オレを見る目つきが変わる。

危ねえ。オレまで蹴られるところだった。


「何でこんなとこで喧嘩してんだ?」


荒事は余所でやってくれよ。オレみたいな事なかれ主義には刺激が強すぎる。

大地がくいっと首を向けたが、そこには、誰もいない校舎の玄関があるだけ。


「そん奴ら、泥棒じゃ。入口の扉壊して、中に入ろうとしちょった」

「はあぁ?マジか?警察呼ぶわ」


何してくれてんの。こいつら。市民の義務を果たしてやる。

スマホを取り出し通報しようとすると。


「違っ!泥棒なんかじゃ!」


すっかり大人しくなった男たちが、オレの足に縋りつき涙目で否定してくる。


「野村が言ったんだ!たまり場にするのにいい場所があるから使えって!」


野村?こいつら、野村の知り合いか?


「野村なんぞ、知らんのう」


大地がぎろりと睨むと男たちがすくみ上る。

まあ、大地は野村のことを覚えてないというか、知らないに等しいよなぁ。前にオレと揉めてるところ見ただけだし。


「野村は北仙丈の1年で!俺は野村と中学がいっしょだったんだよ!その野村に言われてきただけなんだよ!」


必死で弁明する男の姿は、嘘を言っているように見えない。

野村がオレへの嫌がらせに、こいつらをここに寄こしたんだろう。

大事になるとも思わず。

音研部だけがこの旧校舎を利用してるわけじゃない。

この校舎には野球部が部室として使ってる部屋もある。町内会の倉庫としても使われている。

バカをやってくれたな。野村。


「ここを教えた奴にはめられたみてえだな。ここは毎日のように野球部や音研部や教師が来るから、たまり場になんてできねえよ」

「なっ!」


男たちの目に怒りの火が付いたのがわかる。



「どうした?!何事だ?!」


野球部が騒ぎに気づいたようだ。その中には教師もいる。今日は野球部の顧問も来てるらしい。

さて、どうするか。


「扉は壊したのか?」

「壊してない!です!その前に不動が来て……」


……まあ、扉は壊れてないようだし被害がないなら、これ以上、事を荒立ててもな。



「おい!何かあったのか?」


太鼓腹を揺らしながら教師が、こっちにやってくる。

ここは、誤魔化してやるか。


「あ~、すみません。問題ないです。ちょっと知り合いが勝手に来ちゃって、帰るよう話してただけで」


教師が駆け付ける前に大地から金属バットをもぎ取る。


「部外者は入れるなよ。ここは一応、うちの高校が借りて管理してる施設だからな」

「ういーっす」


大地も部外者なんだけど、いいんだろうか?よく練習してるけど。

教師と野球部員たちが校庭に戻っていく。



「はめられただけみてえだし、今回は見逃してやるよ。次はねえからな。ここには二度と来んなよ」

「来ねえよ!不動大地がいると、知ってたら来なかった!」


……大地、こんなガラの悪い連中に怖がられるような奴なのかぁ。


「じゃあ、いっていいよ。あんたらの顔、覚えたし。ここが荒らされることがあったら、即、警察にお前らのこと言うからな」

「荒らさねえよ!……その悪かったな。助かったよ」


オレの言葉に返事しながらも、大地を横目で気にしているのがわかる。大地には決して背を向けず、じりじりと後退していく。


「野村の奴、許さねえ」


距離ができると、男たちが足をもつらせ転がりながら走り去っていく。這う這うの体ってやつだな。

あの男たちは、この恨みを野村に返すだろう。

野村、オレに嫌がらせしようなんて10年早いんだよ。


「なして逃がすんじゃ?」

「お前なぁ。受験生だろ。しかも、野球部に出入りしてる。暴力沙汰はマズいだろ」


不服そうな顔すんな。中坊。

あいつらを教師に突き出すより、恩を売っといたほうが面倒ないだろうからな。

野村に利用されたあいつらに同情はしないが、これ以上の制裁も必要ないだろう。

バカだよなぁ。野村も。人を利用すれば代償がある。世の中、そういうもんだ。


「……大地、なにがあったんじゃ?」


一人だけ残った野球部員が、大地に声をかけている。

似てるな。大地の兄ちゃんか。


「泥棒を撃退したんじゃ」


ああ、兄ちゃんに言っちゃうんだ。


「撃退?」


兄ちゃんがオレのほうを見る。


「ああ、泥棒っていうか、音研部の部室を荒らしに来た連中を、大地が追い払ってくれたんだよ。どうもオレの知り合いが嫌がらせ目的で、連中を寄こしたみたいでさ。悪かったよ。大地を巻き込んじまって。でも大地がいてくれて助かった」


大地がいなかったら、教師に知らせるか警察呼ぶかになっただろう。そうなったら、面倒ごとを嫌う学校側は、音研部の部室を取り潰しただろうからな。


「やりすぎとらんじゃろうな?」

「元気に逃げていったけえ大丈夫じゃろ。のう?」

「おう、大丈夫、大丈夫。あいつらには言い聞かせたし」


大地や野球部に飛び火することは、まあ、ないだろう。


「……そうか、ならええんじゃ。今日は顧問が来てるけえ、大地はもう帰ったほうがよさそうじゃの。詳しい話は帰ってから聞くけえ、気をつけて帰るんじゃぞ」


そう言って大地の兄ちゃんは、野球部が集まっている校庭に戻っていく。

なんだろう?大地の兄ちゃん、穏やかな印象なのに威圧感がすごい。ああいうタイプは怒らせたらヤバい。



「しゃあなぁい帰るかのう。じゃあのぅ、あんちゃん」


大地が伸びをして、門に向かおうとする。うちのいざこざに巻き込んで、悪いことしちまったよなぁ。


「礼もしたいし、うちの部室に寄ってけよ。大地のおかげで、部室が荒らされないですんだからな。お礼に珈琲でも淹れてやるよ」


大地が振り返る。


「コーヒーは好きじゃないのう。肉がええのう」


……に…く?


「肉は飲みもんじゃねえだろうがよ。……仕方ねえ、食べようと思って買った肉屋のコロッケつけてやるよ」

「あんちゃん、ええやつじゃのう。荒んだ生活しとるようなのに」

「荒んでねえよ」


途端に、犬みたいに口角をあげた大地が、後をついてくる。

雑然とした音研部の部室に部外者は入れない主義だったけど、まあ、助けてもらったしいいか。



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