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不動静真


●不動静真


両親はあまりいい親じゃなかった。

オレには優しかったけど、大地に対しては、いつも怒っていた気がする。

人より不器用な弟は、人より出来の良さを誇っている両親にとって耐え難い存在だったのかもしれない。

大地が何をしても、しなくても、両親は怒るだけだった。

大地はオレ以外とは、ほとんどしゃべらなくなるし、言うことを聞かなくなってしまった。

一人でふらっとどこかにでかけてしまう大地に、両親は大喧嘩の末、別れを決めた。

両親は大地を捨てた。

だから、オレは両親を捨てた。大地の手を取った。

大地にはオレが必要で、オレには大地が必要だと思ったから。



●静真 小学4年


じいちゃんの住む山梨の田舎は、観光地が近くにあって移住者が多い。

よそもんが多いからか、あまり干渉されんけえ気楽じゃ。

じいちゃんもオレらには干渉して来ん。興味がないんじゃろうな。

小さい診療所で医者として働いてるじいちゃんは、ほとんど家にいないし、家にいる時は自室にこもってしまう。

大地を引き取っていいと言ってくれたのはじいちゃんだけじゃったけぇ、感謝しとるが、どう接したらいいか戸惑う。

言えば必要なものは買うてくれるし、やってもくれる。充分じゃとは思う。

ただ、これでええのかわからん。

大地はあまり気にしとらんようじゃけど……

大地はじいちゃんがいることに気が付いとらん時があるくらいじゃからのう。




「静真ー!また、明日なー」

「また、明日ー」


友人の久慈と別れて、家路を急ぐ。大地とはいっしょに登校はするけど、帰りは別になる。

小学生の一学年差は大きい。授業は増えるし、やることも増える。寄り道せずに帰っても、大地より帰りは遅くなる。大地を一人にするのは心配じゃけど、学童は大地に合わんしのう。

早足で家に続く道を歩いとったら、大地を見つけた。

だだっ広いだけの空き地で、大地が一人でボール遊びしとる。ボールを投げては拾いに行く。繰り返し、繰り返し。

まるで犬じゃのぅ。


「なにやっとん?」


声をかけると、大地がぱっと顔を上げた。


「遠くまで投げれるようになったで」


大地がちょっと得意げに口の端を上げ、ボールを放り投げる。前より長い弧を描いて落ちていく。


「いちいち取りに行くの面倒じゃろ。壁に当てたらええのに」

「壁、どこにあるんじゃ?」


この辺の家は、生垣がほとんどで壁当てできそうな壁がない。


「そうじゃの。じゃったら、オレとキャッチボールじゃ」


壁より、ええ。オレも楽しいけぇ。


大地がオレに向かってボールを投げる。

ボールがゆっくりとバウンドせずに胸元に飛び込んでくる。

おお!届くようになっとる。大地の奴、本当に投げる練習したんじゃなぁ。


「もう一度じゃ!」


グラブを拳で叩いて催促すると、大地が大きく腕を振り上げる。

飛んできた白いボールが自分のグラブに収まる。

感動じゃ。


「よぉし!来い!」

「なんで下がるんじゃ!そがい離れたら届かんけぇ」


大地がどこまで投げられるようになったか、試したいんじゃ。

大地なら届く!


「あんな近くで届かないんだってよぉ」

「トロくせえ」


通りがかった大地の同級生が、聞こえるように笑い声を立てる。

意地の悪い奴らじゃの!懲らしめてきたほうがええかのう!


「兄ちゃん、どうかしたんか?」


大地の奴、気づいとらんのか?

いや、気づいとらんふりしとるだけか……

嫌みに慣れ過ぎとるのかもしれん。大地はそういう言葉が耳に入らんようになったのかものぅ。

なんでちょっと人より成長が遅いだけで、そんな目に合わないかんのじゃ。

無性に腹が立ってきた!

ここは、兄貴として大地を守ってやらんとの!



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