変化球 【久慈正樹視点】
●久慈 正樹
ゴッ!
「っぅ!!!」
「ん?なんじゃ?」
静真が振り返り、ミットを抱え膝をつく俺の惨状に気づく。
「取り損ねたんか?」
静真ぁ、呆れたように呟いてるけどなぁ。お前の弟が……
いや、ここは冷静に、冷静に……
「大地ぃ、……外角低めのストレートってサインだしただろぅ。今、投げたの外に変化したぞ?!」
無理に捕球したせいで、手が痛ぇんだけど。
「ふふん、すごいじゃろ」
「すごいとかそういうことじゃねえ!」
褒めてねえのに、うれしそうな顔をすんなよぉ。確かに、ちょっとすごかったけどさぁ。
「……なんだ?あの速さで曲がった?」
「うそだろ。今のが変化球?」
「弟、まじで静真と同じ……、いや、もしかしたら、速さなら静真より速い?」
先輩たちがどよめいているが、今の球を褒めないでやってほしい。大地が調子に乗る。
「大地は、最近、変化球にはまっとるからのう。投げたかったんじゃろ」
静真、兄として大地に言うことあるだろ。大地の気持ちを代弁するんじゃなくてさぁ。
「サイン無視して変化球はやめろ。俺はそこまで器用じゃねえんだよ」
大地にははっきり言わないとな。オレは静真と違って甘くない。厳しくいくからな。
「久慈は我がままじゃのう」
「……大地、お前っ……」
大地のキャッチャーが務まる気がしねえ。
「じゃあ、大地、今度は内角低めにツーシームじゃ」
静真がバットを大きく振って、大地を挑発?する。
「内角低めのツーシームじゃな。すごいの投げたる」
静真のいうことは、素直に聞くんだよな。
大地がグラブを引き寄せ、踏み込む。
内角低めのツーシーム。
カキンと音がして、ボールが弧を描いて飛んでいく。
「ああ!何で打つんじゃ」
飛んでいったボールの軌跡を目で追いながら大地が不満を口にする。
「打つじゃろ。要求通りに球が飛んで来たら」
涼しい顔で静真が一塁に走っていく。
なんだろうな。この兄弟……
「久慈がキャッチャーだと調子でんの」
ふてくされた大地が、オレのせいにしてくる。
オレのせいじゃないだろぉ。絶対にぃ。




