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心優しいサイコパスおじさん、転生現代ダンジョンで自由に排除してたら才能あふれるJKに弟子入りされた件  作者: 時田唯
第二章

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第98話 臆病

 太陽の昇る前。薄暗い部屋のベッドに転がしたスマホを、城ヶ崎は寝転がりながらじっと見つめる。

 整った鼻梁に、宝石のような瞳。

 母様から美しいとよく褒められる、愛らしくもきれいな顔に秘めた感情は……あの男に対する、抑えがたい不満だった。


(間違ってる。絶対に間違ってる)


 あの時の会話を、頭のなかで何度も何度も繰り返し――冷静に考えれば考えるほど、おかしなことだらけだという確かな証拠を発見した。


 たとえば、ダンジョンへの高校生の参入。

 彼は、将来的なダンジョンという脅威に備えるための下地作りと話していたけど、迷宮庁の公式ホームページによれば高校生の参入は『基礎体力向上のため』と、ハッキリ書かれている。

 最近はアスリートでもダンジョンでレベルを上げるのは常識だし、健康と成長のためなら納得できる。

 間違っても、予備兵みたいな扱いでダンジョンに入っているわけじゃない。


 それに迷宮庁は、狩人不足を訴えているけれど……

 SNSによれば、迷宮庁が己の利権を確保するための建前だと訴える人が沢山いるし、税金を国民から取るための体のいい言い訳だと話している人も沢山いる。


 そもそも……ダンジョン自体、じつは大して危険なものではないのでは? という説もある。


 モンスターは基本的に、ゲートクラッシュが起きなければダンジョンから出てこない。

 そのゲートクラッシュも、いまの日本ではまず聞かない。

 つい先日も、大規模ゲートクラッシュの予兆――鳴度8.3のダンジョン警報が出たけど、すぐに取り消される事件があった。あれは迷宮庁による警報実験だという説が濃厚で、そんなイタズラをする程度にはひまな組織なのだという意見もある。


 つまり。ダンジョン、なんていう脅威は、本当は実在しなくて。

 影一普通の話していたことは、全部嘘。

 でも綺羅星さんは性格的に真面目だから、彼の語る陰謀論に染まってしまったのだ。

 うちの母親もよく言っているじゃないか、貧乏だから世間のニュースに騙されるのだ、と。


 ……だから、彼女は私が守らないと。

 彼女を救うのは”友達”である私の義務だから……。


 寝転がりながら拳を握りしめた時、携帯のアラームが鳴った。

 ふあ、と寝付きの悪い頭を抱えつつ、制服に着替えて食卓に向かう。


「おはようございます、お嬢様。……最近、夜更かしが過ぎるようですが」

「すみません。寝付きが悪くて、じいや。……ところで、お母様は?」

「本日から出張にございます。なんでもお友達と海外旅行に行かれるとか」


 できれば母に相談したかったけど、仕方がない。

 私だって高校生、いずれ大人になるのだし、きちんと自分で決断できるようにならなきゃいけない。


 今日は……影一さんに謝罪するという名目で、綺羅星さんと再度、話し合いをする機会を、設けた。

 自宅に来るようお願いし、了承を貰っている。

 考えてみれば、友達を家に招くのは人生初だ。ちょっと、緊張している。


 それでも、人と人は話し合うことで仲良くなれる。

 それが人間の知恵だと、信じている……と、城ヶ崎は朝食のミニトマトを口にしながら寝不足の頭を揺らし、


「……?」


 視界の端を、何かがよぎった気がした。

 食堂から玄関へと続く入口に、ゆらゆらと。

 糸を引くような……何かしら?


「じいや。いま、何か見えませんでした?」

「はて。私には何も」


 気のせいだろうか。疲れているのかもしれない……と、城ヶ崎は丁寧に朝食を終え、じいやに皿を下げさせ。

 歯磨きをし、いつものように髪と服装を整え、玄関へ向かおうとして、


 ……?


 気になって――というか、甘い匂い?

 みたいなのに勘づき、屋敷の地下。普段はシアタールームとして扱っている一室に、足を踏み入れる。


「…………あ」


 見つけた。

 うっすらと銀色の渦を巻く、小さなゲート。ダンジョンの入口を。




 ――通常、ダンジョンを発見した場合まず迷宮庁に通報する。

 可能であればゲートに立ち入り、入口の形状および最初のモンスターを撮影して撤退。そのデータから迷宮庁はダンジョンの難易度をランク付けするが、撮影が怖い、難しいと感じたなら立ち入らず報告するだけでもよい。


 城ヶ崎はゆっくりと、ダンジョンに足を踏み入れる。

 一面に広がるのは、水族館のような……海の底のような背景。

 まだ出来たてのダンジョンらしく、中央に広間がひとつあるのみ。


 そこに浮かぶのは……なんとも可愛らしく弱そうな。

 星型の、金平糖のような物体がふよふよと、一匹だけ浮かんでいた。


 なんだ、大したことなさそう……と、ホッとした城ヶ崎は、その姿をスマホに撮影し――待って。


 ……SNSの話が本当なら、迷宮庁はダンジョンの脅威を不当につり上げていることになる。

 そして城ヶ崎は、これから綺羅星に「ダンジョンの脅威は迷宮庁の嘘、影一に騙されている」と訴え、彼女を目覚めさせるつもりだ。


 そんな自分が、ダンジョン出現の通報をするのは、理屈に合わないのでは?

 それに……

 あのモンスター、どう見ても弱そうだ。

 ふわふわ浮かびながら、周囲に小さな星型の石を並べているだけの……放っておいても無害そうで。


 ――私でも、簡単に倒せそうな気がする。

 本当に怖いモンスターなら、ダンジョンのこんな浅い場所に出てこないだろうし。

 なにより。

 私がここで怖がってしまったら、あの影一普通という男の指摘通りになる気がして、腹立たしい。


 私だって高校生。まだ子供だけど、大人まであと一歩。

 自分の意思を信じ、判断する――勇気と覚悟だって、ときには必要なはず。


「……じいやには黙っておきましょう。それで明日にでも、私一人で退治します」


 城ヶ崎には今、綺羅星の目を覚まさせるという大事な大事な役目がある。

 ダンジョンなんて後回し。

 いえ。二度と、ダンジョンなんていう、汚らわしく野蛮なものに友達を関わらせてはいけない。


 よし、と城ヶ崎はダンジョンを抜けたのち、いつものように玄関口で待たせていた運転手に挨拶をしながら、今日もまた一日いい日にするぞと気合いを入れた。


*


「綺羅星さん。ダンジョンで生き残る秘訣は、なんだと思いますか」


 昔の話だが――とあるダンジョンを攻略中、影一に尋ねられた綺羅星はすこし考え、ナイフを握った。


「恐れずに戦うこと……ですか?」

「それも時には必要ですが。もっとも大切なのは、むしろ臆病であることです」


 らしくない台詞に、首をかしげる綺羅星。

 影一は至って真面目な顔で、眼鏡の鼻を押し上げながら続ける。


「ダンジョンに必要なのは、勇気や覚悟ではありません。まずいと思ったら身を引く臆病さ。そして正確な情報です。専門家が常に正しいとは言いませんが、餅は餅屋。病人を見つけたら、誰だってまずは医者を頼るでしょう?」


 話を聞いた綺羅星は、思わず、笑った。だって……


「そんな馬鹿なことする人、いないですよね?」

「います」

「え」

「ダンジョン配信が一般化した弊害かもしれませんが、私にも出来る、と勘違いしてモンスターに自ら襲いかかり、返り討ちにあうケース。ダンジョンでの事故上位を占める典型例です。――おかげで、面倒な人間を処理しやすいとも言えますが」


 正しい情報を元に、正しく恐れよ。

 自分の知らないものに、迂闊に手を出すな。


 それがダンジョンの基本だと真面目に語られ、綺羅星はこくりと真剣に頷いた。


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― 新着の感想 ―
あー
承認欲というのは社会の中の人「間」であるかぎり誰でも持っているもので、結局は、自己承認でどれだけ満足できるかが鍵なのでしょうが、本作では、他人にちやほやされる事でしか承認欲を満たせない人々をステレオタ…
やったね城ヶ崎ちゃん、花火になれるよ! 妹屋も近々風見鶏ってお供を連れて合流してくれるし、あの世まで一緒に逝ってくれるお友達がいてよかったね!
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