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心優しいサイコパスおじさん、転生現代ダンジョンで自由に排除してたら才能あふれるJKに弟子入りされた件  作者: 時田唯
第二章

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第96話 合流

 Re:リトライズ取締役――剛翼星雄は、緊張を孕んだ顔で黙していた。

 状況は芳しくない。

 玉竜会から雇った面子は全滅。先方からは違約金の支払いを要求され、眼前には迷宮庁の監査が迫る。


 それだけならまだマシだが、問題は先日雇った連中のトラブルだ。

 迷宮庁職員に直接、引き金を引いた……玉竜会と剛翼の繋がりは当然秘匿しているが、万が一、相手側の金庫番が口を割ろうものなら剛翼は破滅だ。


 そんな未来など起こりえない、と楽観視するほど彼は甘い性格はしていない。

 失敗の原因が、己にあることも理解している。




 ――ひとつは、風見鶏の言葉を信用しすぎたこと。

 ヤツは影一を尾行し、単独で”迷宮水晶洞”の素材集めに向かったと連絡してきたが、実際は迷宮庁が関わる大規模クエストだった。


 ――二つ目は、業務内容を玉竜会に一任したこと。

 ハッキリ言わせてもらうが、仮に風見鶏の報告がなくても状況を確認すれば、迷宮庁による大規模クエストが別途進行していることは分かったはずだ。

 にもかかわらず正々堂々だの、ライフルを放つだの……!


 クソ、状況判断も出来ない馬鹿どもめと苛立つが、それも含めて自分の責任だ。

 みっともなく、アイツが悪い、と他責したところで事態が好転するわけでもない。


「…………」


 最適解は、わかっている。

 夜逃げだ。

 配信業も斜陽。玉竜会もしょせん烏合の衆。

 資産の移動も終えているし、あとは己の身ひとつで脱出すればいいと分かっている。分かっているが――


「くそっ……頭では分かっているが……っ!」


 気に入らない。

 心底から煮えくり返るような怒りが、彼をその椅子に縛り付ける。


 相手がマフィアや国家といった、一個人で太刀打ちできない化物なら分かる。

 尻尾を巻いて逃げたところで、仕方ない、と胸のうちに収めることができる。

 だが。

 今回してやられた相手は、ただの掃除屋。

 あんな冴えないおじさんに一泡吹かされ、追い詰められている――その事実がどうしようもなく、剛翼の身体を呪いのように縛り付けるのだ。


「これだから、人間の感情というヤツは……俺自身も含めてっ……!」


 剛翼の父親はうだつの上がらない底辺サラリーマンだった。

 常に上司に媚びをうり、己の実力を高めようともせず後輩にまでバカにされ、へこへこと頭を下げる毎日。

 それでいて自宅では偉そうに振る舞い、何より――剛翼がいい結果を出せば出すほど、卑屈に責め立てる人間だった。


 ――お前は、一番にはなるな。

 ――他人に勝つな。他人より偉くなると、他人を虐げる人間になる。だからお前は、勝ってはだめだ。

 普通を目指せ。

 何の変哲もない、優しい男になるんだぞ――そう言われ続けてきた剛翼は、だからこそ家を飛び出し、金と力を求めた。


 普通の、どこにでもいるリーマン像を脱却するために、だ。


 ……だからこそ。

 あんな、いかにも普通そうに見える男を前に、尻尾を撒いて逃げるなど――!


「アイツは普通の元リーマンじゃない。それは分かる。ヤツと戦うことは無意味で無価値、馬鹿のやること。だが、だが――」


 他人を虐げるために産まれた、剛翼が。

 いかにも普通を装っている人間に負けるのだけは、認知の歪みだと知りながら、抜け出せない。


 身体の傷は、時間をかけて癒やせばいい。

 金は、失ってもまた稼げばいい。

 が、心は違う。

 心に背負ったトラウマは生涯を通じて己を苛み、あの時ああしていれば良かった……と夜な夜な後悔に魘される。


 そんな人生に価値はあるか?

 否。

 殺せずともいい、あの男に少しでも傷を与え、己の心を満たしたうえで逃げなければ。

 少なくとも、引き分けだと思える程度にやり返さねば、納得がいかねぇ……!


「だが、方法がない……何なんだ、あいつは……?」


 が、玉竜会のお墨付きであった三人をいなされた事実は無視できない。

 ヤツは断じて、平凡なB級狩人ではない。

 下手すればA級、或いはS級に匹敵する……


「ダメだ。直接狙うのはリスクが高すぎる。何か、弱点は……」


 ヤツの家族。あるいは親戚。

 友人関係でも構わない、何かひとつでもあれば――




「あの、社長。お客さんが来てるみたいっスけど……」

「風見鶏ぃ――――!」

「うわ、なんッスか社長いきなり」

「よくものこのこと顔を出せたな、この愚図! 貴様のせいで全て台無しだろうがぁぁっ!」


 っていうかお前、今までどこほっつき歩いてやがった!?


「ま、待ってください社長、俺マジで働いたッスよ!? てゆーか俺の仕事、尾行だったじゃないッスか!」

「お前がきちんと見てれば、迷宮庁の大規模クエストがあることくらい分かっただろうが!」

「そ、そりゃあないっすよ! 俺ダンジョン前までしか見てないッスし……」


 ぐっ……確かに、ダンジョンの中まで監視しろとは言ってない。

 というかダンジョン内までついていったら確実にバレて、影一に警戒されただろう。


「それより社長ぉ、俺マジでいま金なくて、すんません、もうちょっと融通して貰えると助かるんスけどぉ」

「お前はクビだ!」

「えええ!? それ困りますいやマジで。俺他にいくとこもねーし、下手したら迷宮庁に手配されてるかも……な? な?」

「ふざけるな、お前みたいな役立たずなど二度と」

「そこを何とかお願いしますよ社長ぉ~~~~!!! 俺、一生ついていきますからぁ~~!」


 べたぁ~っと土下座し、額を床にこすりつける風見鶏。

 ぐ、と怒りに染まった剛翼の拳が止まる。


 風見鶏はバカだ。見ての通り、死ぬほどバカだ。

 が、剛翼にひたすら頭を下げてくれるのはコイツくらいなもの。

 要はバカだが可愛げのある犬のようなもので、それを知りながら雇ったのも剛翼だ。


 ……まあ、さすがに。

 さすがに! これ以上のバカはしないだろうし、仮にしたとしても大した害にはなるまいっっっ!!!


「チッ……それで? 客とは誰だ。まさか今さら、新規配信希望者とは言うまいな」


 そんな人間がいるとしたら、よほど時勢が読めないバカだが。

 ……何か他の狙いが?


 いいだろう、と剛翼が声をかけ、風見鶏に連れてこられたのは……貧相な女子高生だ。


 お世辞にも配信映えするとは言いがたい、地味めなボブカット。

 陰気さを一身に背負ったような、一見してマイナスイメージしかなさそうな女はしかし、剛翼を見つめるその瞳にどろりとした薄暗い熱を抱え、がじがじと爪先を噛みながらこちらを睨んでいる。


 配信者としては失格だが――

 いい目だ、淀んでいる、と剛翼は己の優位を欠かさないようどっしりと腰掛けつつ、


「風見鶏、玉竜会の連中にもう一度声をかけておけ」

「う、うす! ……え? いや社長、まだやるつも……」

「貴様はうちが潰れたらどうする気だ? 借金、他にもあるんだろう? 面倒みてやれんのうちだけだぞ!」

「は、はいぃ~っ!」


 バカを蹴飛ばした後、改めて。


「待たせたね、お嬢ちゃん。……ただの配信希望ではないんだろう? 話を聞こ――」

「ここ、ちょっとした違法行為もやってるって聞いたんだけど」


 がさ、とJKが小脇に抱えた鞄をひっくり返す。


 三百万が降ってきた。


 ほう、と剛翼は目を細める。

 高校生には大金だろうが、自分にとってははした金だ。……が、その心意気は面白い。


「何が望みかね、お嬢ちゃ――」

「綺羅星善子」


 ぴく、と椅子に乗せた手が震える。


「その女を、何とかしてほしいの」

「……何とか、とは、何かね?」

「何でもいい」


 女はじっと唇を噛み、ただただ怨嗟の声を地獄の底から絞りだす。

 まるで呪いだ、と剛翼は観察する。

 年頃の女とは思えない執着心をこじらせ、確証もないのに事務所で大金を転がす――世間知らずの小娘。

 この金もおそらく親から盗んだ金だろう。出所などどうでも良いが。


 ……にしても、弟子の方か。

 背広男を直接害することばかり考えていて、そちらには意識が向いていなかった。


 リーマン野郎は無理でも、あっちなら?


「……お嬢ちゃんは、綺羅星という女とどういう関係かね」

「クラスメイト」


 ――使える。

 いくら影一といえど、二十四時間、連れの女と連れ添っているわけではないだろう。

 そして彼女――或いは彼女のお友達を利用すれば、遠回しに綺羅星だけをダンジョンに引きずり込み、人質に取ることも出来るはず……。


 お名前は、と促すと、女はうすら寒い笑みを浮かべて自己紹介した。


「鎌瀬妹屋。……あの女を、徹底的にいたぶってやってください」


 底冷えするような低い声は、しかし、今の剛翼には心地良く胸に響く。

 事務所を畳む前に爪痕を残すには良いアイデアだ、と、剛翼は卑屈な笑みを浮かべながら、貧相な女子高生をソファに招き詳細を聞き始めた。



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― 新着の感想 ―
妹屋がここで登場ー! もう、普通の女子高生には戻れないな、この娘。 個人的にはお嬢様はまだ、更正の余地があるので、よかったと思ってる。 しかし、よく考えればわかることだが、「普通のリーマン」がそこに…
沈む泥船に自ら飛び込むとは……
わあ芋ったら自分の死刑執行令状に自分でサインしちゃってるぅ! サンドバッグっていう綺羅星ちゃんの温情が理解できないおバカさんたから、仕方ないかあ。 不幸な……事故だったね……。
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