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心優しいサイコパスおじさん、転生現代ダンジョンで自由に排除してたら才能あふれるJKに弟子入りされた件  作者: 時田唯
第二章

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第87話 マザースフィア2

 A級ダンジョン”海底水晶洞”ボス、マザースフィア分裂体――その実力はB級中位。

 いまの綺羅星には荷が重いが、それでも、モンスターとの戦闘のコツは先生より何度も聞いている。


 モンスターは、ゲームに登場するプログラムのようなもの。

 行動にはパターンがあり、きちんと見切れば格上相手でも勝てるだろう。


 装備したてのメリケンサックを構え、綺羅星は浮遊するボスへにじり寄る。

 まず対処すべきは、敵の攻撃用爆弾”アタックスフィア”だ。


 一歩、二歩……じり、っと近づいた所で、ボスが反応。

 周囲に漂わせた小型の星爆弾が、びゅん、と弓なりの軌道を描いてこちらに迫る。


 綺羅星は視認せずとも”察”し、するりと左へ回避。

 ダンジョンに存在する全てのものは、例外なく魔力を宿す。

 それらを察する”察”は、きちんと読めば敵を見ずとも軌道を予測することすら可能だ。


 真横を過ぎ、背後でカーブするアタックスフィアを”察”で警戒しつつ、ボスへと迫る綺羅星。

 当然、ボスも守備用の爆弾”ガードスフィア”をコントロールし壁として展開。


 直前でざざっと足を踏ん張り、急ブレーキ。

 体重を無理やり移動して横に飛び、集合したガードスフィアにフェイントをかけつつ、懐へ。

 先程、迷宮庁の後藤がしていたように拳に力を込め、ボスの胴体目がけて思いっきり、


「せいや――っ!」


 振り抜き、ゴイン、という鈍い音が――


「いっ……か、堅ぁっっ!」


 思わず手首を振り、悲鳴をあげる。

 堅い!

 ぜんっぜん効かない! コンクリートを殴ってるみたい!


 後藤は一撃で外郭にヒビを入れてたのに、綺羅星では分裂体ですらダメージを与えられない。

 どうしよう。先生は勝てるって言ってたけど、攻撃が通らないんじゃ話にならない。


 手の甲をさすりつつ、綺羅星はちらりと、影一を観察。

 先生の得意武器は地雷と弓だ。

 けど今回の敵は地雷は効きにくそうだし、弓も、堅い外郭には通じにくいのでは……という疑問は、



 ブウウウウウウ――ガリガリガリガリ――



 ボスにまたがる影一の手に握られた、歪な音を立てながら削岩する――大型ハンマードリルを前に一瞬で解決した。

 ど、ドリル使ってる!?


「~♪」


 鼻歌を歌いながら、日曜大工のようにスフィア外郭に穴を開ける影一。

 心なしか、マザースフィアも恐怖のあまりガタガタ震え、慌てた周囲のアタックスフィアが影一に殺到。


 当然、穴開け作業をしていた影一に直撃。

 爆音と煙が舞い上がり、え、大丈夫なの? と目を見開くが……


「……~♪」


 影一は傷一つ負わず、作業を続けていた。

 その全身を包むのはいつもの背広姿……ではなく。

 さっき不運にも爆死した男が装備していた、白銀色の鎧を身につけていた。


 ば、爆発耐性鎧ホワイトアーマー……ちゃっかりネコババしてる……!

 上半身鎧に下スラックスの男が、ふんふんと鼻歌を歌いながらドリルをグリグリと回転させる工事現場は、異様の一言。

 でもちゃんと効率的なのが恐ろしい。


「死ぬ前は敵の的、死んだ後は私の鎧。一石二鳥、一粒で二度おいしい。貴重な資源は、骨まで有効活用してこそ狩人です」


 うちの師匠怖い、怖すぎる……絶対、真似しないでおこう……。

 と、綺羅星が冷や汗を流してる間に削岩作業が終わったらしく、影一は開けた穴に小石を投入して脱出。


 直後、ドウン!

 とマザースフィア分裂体が内部から大爆発を起こし、ぶすぶすと青い煙をあげながら消滅した。


「爆発スキルを扱うとはいえ、内部から爆破されればひとたまりもないでしょう。掃除完了です」

「早っ……」

「そちらの調子はいかがですか、綺羅星さん」

「ええと……っと!」


 我に返りつつ、綺羅星は背後から迫るアタックスフィアをかがんで回避。

 立ち上がり、ジグザグに走ることで敵を巻きつつフェイントを仕掛け、二撃目を加えるが、返ってくるのはやはり岩石を直に殴るような痛みだけ。


 ダメだ、思考をリセットしよう。

 私の手持ちの武器――チェーンソーは効果が薄そうだし、メリケンサックも威力不十分。

 インベントリに収納してるアイテムには、攻撃力バフはあるけど……。


 あれ、これ詰んで……?

 いや。影一は「いまのあなたなら倒せる」と言った。

 先生は嘘をつかない。なら、試していない活路があるはず。


 ――こういう時は。


 敵から大きく距離を取り”察”。

 まずは相手の行動を観察する。

 氷竜戦を思い出せ。我を忘れず、相手の行動をきちんと観察すれば、思わぬところに活路が……あれ?


「……よく見ると、含んでる魔力量が、違う……?」


 ボスの攻略法を見つけたわけではないが、敵から飛んでくる”アタックスフィア”に違和感。

 赤い金平糖のようなそれは現在、複数の星型個体が絡むように浮遊してるが、よく見ると……


 魔力を豊富に含んだものもあれば、中身のないモナカのようにスカスカのものもある。

 ……もしかして。ダミー?

 けど、直接触れて確認するのは怖いし……そうだ。


「先生も使ってたし……よっ、と」


 綺羅星が拾ったのは、先程爆死した男が手にしていた耐爆装備の大盾、ホワイトシールドだ。

 なるほど。

 人間って死ぬ前も、死んだあとも有効活用できるんだ……と、先生と同じことを考えた綺羅星は左手で盾を構え、魔力を宿していないアタックスフィアのひとつに体当たりを仕掛ける。


 がつ、と鈍い音はしたが爆発はなし。

 大元の”マザースフィア”と違い、分裂体は保有魔力が少ない。それを補うための、ダミーか。

 ということは……?


 綺羅星は盾に身を隠しつつ、ボス周囲を漂うガードスフィアを観察。

 案の定、ガードスフィアにも魔力を宿した個体と、そうでない個体がいて。


 さらにその奥――よく見ればマザースフィア分裂体の外郭すらも、マーブル模様のように。

 魔力の厚い部分と、薄い部分がある……?


「……あ」


 そうか。見つけた。理解した。これは……学校の教室だ。


 教室のなかに漂う、入り交じった魔力の強弱。

 虐めっ子、無関心な子、虐められっ子。

 その三種が混在し、微妙なパワーバランスを作っている、そんな空気があの星型のモンスターに詰まっている……


 なら、綺羅星がやるべきことは一つ。

 強い奴を回避し、弱点をつく――強きにへつらい、無関心なやつは流し、弱いやつをいじめていじめ、執拗に死ぬまで徹底的にいじめ抜く。弱点を突くとは、そういうことだ。


 ……弱いものいじめなんて嫌だけど、相手はモンスターだし。

 仕事のため。平和のため。正義のためなら仕方ないよね?


 言い訳を重ねながら赤い舌を出した綺羅星は、盾を前面に構えて再突進。

 集合するガードスフィアのうち、魔力の薄いスフィアにあえて突っ込み――盾を両手で振り抜き、強引にスフィアを払う。


 迫った。ボスに。最短距離で。

 ボスが慌てて、魔力を集中。

 見える。綺羅星が仕掛けようとした攻撃にあわせ、身体の一部を硬化させるのが。


 ぎゅっと拳を握りしめ、綺羅星は殴るモーションを敵に見せながら……

 魔力で硬化させた部分をわざと殴らず、着地。

 続けて地を蹴り、素早くスフィアの下に潜りこみながら足元に渾身のアッパーカットを解き放つ。


 敵が顔面ガードしてるなら、腹を殴れ。

 弱いところをネチネチと、バレないように、執拗に責め立てろ――



 さあ、いじめの時間だ。

 たっぷりと虐めてあげる……!



 マザースフィア分裂体に、ミシリ、と亀裂が走った。


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― 新着の感想 ―
おぅおぅそれで普通のJK名乗るのはもう無理ありすぎやでお嬢さんwww
尋常ではない仕上がりの片鱗を見ました。 綺羅星ちゃん、順調に登ってますね……師の境地に至る大階段を……。
自分のイメージするサイコパスと違う なにかもっと人間らしい邪悪ななにかだ
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