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心優しいサイコパスおじさん、転生現代ダンジョンで自由に排除してたら才能あふれるJKに弟子入りされた件  作者: 時田唯
第一章

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第52話 狂人

 数刻前。新規ダンジョン”雪原氷山”深部に見合わない、複数の男の姿があった。

 薄い金髪を梳いた男に、筋肉質な戦士風の男。それに小太りな魔術師風の男だ。


 配信グループ、ナンバーズ……既に契約解除されているため”元”ナンバーズの八崎が広大な雪景色を前に、年甲斐もなく鼻息を荒立てる。


「うおお、すげぇ! なんだよ深六、お前こんなすげぇダンジョン隠してたのかよ、早く言えよ水くせぇな!」

「へ、へへ、それほどでも……」

「明日の朝は俺等の話題でいっぱいだな! あのクソ社長め、今ごろ後悔してもおせぇぞ?」


 八崎がバンバンと深六の背を叩く。

 まるで子供だなと九条も呆れつつ、気持ちは分からなくもないとついにやついてしまう。




 新規ダンジョン”雪原氷山”の情報は、事実だった。

 それも並大抵のダンジョンではない、日本でも四カ所しかないS級ダンジョンの派生迷宮。その情報をいち早くライブ映像に収めたとあれば、全国から取材が殺到するに違いない。


 政府がひた隠しにしている迷宮、暴かれる――明日のトレンドは、決まりだ。


 これぞ真の平等だ、と九条はほくそ笑む。

 不運の後には幸運がなくてはならない。自分のように地道に冒険を重ねてきた者にこそ、チャンスは舞い降りるべきなのだから。


「なあ九条、さっそく配信開始しようぜ! SNSにも書いてゲリラ配信だ!」

「まあ待て、八崎。まだ配信は早いよ。……僕等がいるのは、まだ雪原の入り口だろう? それに、凪の平原の入口からそう離れていない」


 九条達が配信を開始すれば、迷宮庁も異変に気づくだろう。

 公安の連中が出張ってきて面倒なことになる。


「そうならないよう、もっと深くまで進んでから配信するんだ。まずはボスを映し、戦闘の様子を生配信。その後、迷宮庁の連中が駆けつけるまでに逃げおおせるのが一番美しいと思うけど、どうだい?」

「おお、さすがだな九条! おい深六、よかったなぁ俺達についてきて。お前もこれで英雄だぞ?」

「そ、そうかな……ボク、パパに認められるかな……」

「当たり前だ。ああ、これで俺も、昔バカにしてきた奴らを見返せる……!」


 笑う二人を、相変わらず低俗な連中だなと九条は見下す。

 もっと広い視点で物事を見ればいい。このダンジョンの情報が公開されれば、親や同級生なんか相手にならないくらいの再生数が稼げるはずだ。

 さらに新ダンジョンにしか出現しないアイテムを入手できれば、相応の収益――おそらく一千万はくだらないだろう。


 そうすれば、自分達を切り捨てた事務所にも。

 自分達を辱める原因となった、あの陰気なリーマンにもお返しを出来るというわけだ。


 感情を煮えたぎらせながら雪原を進み、九条達はやがてフィールド中央に佇む氷山にたどり着く。

 中央に開いた洞窟へと足を踏み入れながら、ふと、九条は疑問を抱いた。


「気になるんだが、雑魚モンスターが出てこないな」

「あ? そういえばそうだな。せっかくなら新モンスターを見てみたいんだけどよ。ドロップアイテムも気になるし」

「既に、誰かが倒している……? まさかな」

「何言ってんだ九条。じつは先に誰かが根こそぎ倒した後、ってか?」


 はは、と八崎がのんきに笑い、氷山の洞窟。


 だが入ってすぐに、……三人は足を止める。

 目の前に広がるのは、地下へと続く巨大な縦穴――その壁際に張り付くように繋がる、石造りの階段だ。


「……地下への、螺旋階段?」

「ヘンだな。普通のダンジョンなら、一階一階きちんと迷宮になってるはずだが。もしかしたら、エクストラダンジョン、ってやつか?」

「可能性は高いね。元々”凪の平原”は様々な派生ダンジョンの入口にもなっている」


 配信映えしそうだ、と九条達は壁伝いに螺旋階段を降りていく。


 いいぞいいぞ、と八崎が頬にしたたる汗をぬぐいながら、いやらしく笑い……。

 汗?


「熱いな。ここは雪原ステージのはずだが」

「ね、ねえ。何かヘンじゃない……?」


 気づけば九条もうっすらと汗ばみ、外套をインベントリに収納する。

 それでも地下へ進むほど熱気は強まる。まるで火山の火口に近づいているかのようだ。


 気づけば全員、口を閉ざし――九条は、胸騒ぎを覚える。


 ……このまま、進んでいいのだろうか?


 いや、いいに決まっている。

 新ダンジョンの情報は値千金。世間から捨てられた”ナンバーズ”の名を再興し、九条という男の名を世間に知らしめるための金脈を目の前にして撤退するなど、馬鹿のやること。


 なのに。

 この妙な胸騒ぎは何だ、と違和感を覚えながら、三人はついに最下層へと到達する。


「っ……!」


 地底の底。地獄の釜のようにぐつぐつと熱を吹きあげるのは、一面に広がる――マグマの海。


 そしてその中央に座して動かぬ、巨大な岩石の塊だった。


「はは、何だこの岩。山みたいにでけぇな! 素材でも取れんのか?」

「……気にはなるけど、溶岩のなかにあるね。近づくのは一工夫いりそうだ。深六、きみの”レビテーション”で溶岩の上も飛べるかい?」

「できると思う。ただ、耐熱防御スキルは持ってないから、溶岩の上だとダメージを受けるかも……」

「十分だ。まずは、あの岩を調べよう。もしかした、ボスへと続くギミックかもしれない」


 地下の仕掛けを解き、ダンジョンボスと相まみえたら、今度こそ配信開始だ。


 視聴者は度肝を抜かれることだろう。

 話題が話題を呼び、多くの同接が集まるに違いない。一万、二万……もしかしたら、十万。


 負け犬。犯罪者。社会の底辺。

 屑共に罵られた”ナンバーズ”は、今から新たに世界へ羽ばたく。

 不公平な均衡が正され、ようやく、自分は正当な評価を受けるのだ――


 確信しながら、深六に補助スキルをかけてもらおうと考えた、その時。


「ね、ねえ。……いまあの岩、動かなかった?」

「あ? んなことより早くレビテーションかけろよ、バカ」

「でも今、なんか、地震みたいのが……」


 八崎が舌打ちし、九条が呆れながら溶岩に佇む岩を眺め、



 ずず、と。



 巨大な岩盤が盛り上がり。

 ぎょろり、と。

 ただの岩に存在するはずのない”目”が開き、地響きとともにその存在が立ち上がった。


「「「……は?」」」


 呆然とする三人の前で、巨大な岩石がゆっくりとせり上がる。

 溶岩の熱をものともせず、ずしん、と四本の巨足をたて、のっそりと起き上がったのは――岩ではない、巨大な怪物。


 あえて形容するなら、亀に近い。

 だが、甲羅にあたる部分はごつごつとした岩肌に覆われ、頭部にはサイの如き雄々しき角をそなえ。

 なにより、並の生物とは比較にならないほどの、非現実的な巨体――学校の校舎が歩き出したかの如き威圧感は、既にモンスターというより災害のごとき存在感を示していた。


「っ……!」


 九条とて、B級ライセンスを所持する狩人だ。

 自信はあった。

 大抵のボスであれば、倒せない相手はいない、と。


 だが。

 だが、これは――……ダメだ。


 人間が相手にして良いレベルの怪物を、はるかに超えている!


「八崎、深六、逃げるぞ! こいつらは僕等が戦っていい相手じゃない!」


 九条の判断は早かった。

 配信を捨てる惜しさはあるが、命あってこそ。

 数字を取れても死んでしまっては意味がない。


 その点において、九条の判断は正しかった。


 しかし――


「何言ってんだ九条! こんな山場を逃すわけねぇだろうが、はやく配信回せ!」

「なっ、馬鹿か八崎! 今すぐ逃げるんだっ!」

「ざっけんなよ! ここで逃げたら、俺等が来た意味がねぇだろうが!」


 八崎がボスの巨体を崇めるように両腕を掲げ、ぎゃはは、と下品に笑う。


「こんな大物だ、ちょっとでも配信すれば何万、いや何十万って奴らが見るだろうよ! そしたら俺を裏切ったアイツラだって思い知るに違いねぇ……ああそうだ、ナンバーズなんてちゃちなグループなんかどうでもいい、俺が求めてたものはここにあった……!」


 この時を待ち望んでいた。

 恍惚とした表情を浮かべながら、戦斧を構える八崎。


 その瞳は完全に正気を失い、狂ったように輝いていた。



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― 新着の感想 ―
八の人、銃なんか捨ててかかって逝っちゃったベネットみたいな顔してたんだろうなぁ…。
こんばんは。 急にトラブル→まさかなぁ…?と思ったら、やっぱりあの阿呆共のせいじゃないか(呆れ) 死ぬなら他人を巻き込まず自分たちだけで死んで、どうぞ。
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