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文学系

すずはイカれた大富豪

作者: 七宝

 すすばイカれた女だった。

 いつも両肩に小型のキツツキを乗せていて、両こめかみを掘削されていた。


 深夜2時、飲み過ぎた俺たちは閑静な街を歩いていた。すずは隣で寝ながら歩いていた。


 ブォン、とバイクの音がした、その時だった。すずが目を覚まし、「殺してやるケドね!」と言って走り出したのだ。


「ちょ待てよ」


 俺タクもすずを追って走り始める。


「ちょ待てよちょ待てよちょ待てよ」


「あばばばばばばばばばばばばばばををををををををををを〜」


 両こめかみを耕されているせいで真っ直ぐ走れないすず。叫び声も震えているようだった。


「見ツケたああああああああ!!!」


「な、なんだこの女ァ!」


「ゲボラゲボラゲボラゲボラ」


 ヤンキーに16時間分のアルコールを吐き切ったすずはとてもスッキリした顔をしていた。


「ちょ待てよ」


「ゲボラ」


「チェ」


「ゲバラ」


「焼肉のタレ」


「エバラ」


「すき焼きのタレ」


「⋯⋯エバラ?」


「帰るぞ」


「ウニ!」


 なんとか説得して俺タクたちはその場を離れた。ヤンキーは死んだと思う。


 それからしばらくして、街灯のない暗い路地を歩いていた時のことだった。


「殺してやるケドね!」


 またすずが走り出したのだ。この暗さでは足音を頼りに追うしかないので、俺タクはわざとすずとタイミングをずらして走り始めた。ちょ待てよ⋯⋯


「もう我慢出来ねーんだよ! おめーのせいでこっちは限界なんだ!」


 男が怒鳴っていた。


「うっせーな無理なもんは無理なんだよ!」


 もう1人、違う男がいるようだった。


「喧嘩やめなよ!」


 すずの声だ。目の前にいるのに見えない。なぜこの街はこんなに暗いんだ。


「誰だてめぇ! 殺してやる!」


 なんで!?


「オラァァァァ!」


 ザクッ、と音がした。


「すず!」


「なに?」


 あれ?


「大丈夫なのか? 刺されてないのか?」


「刺されてるよ」


「えぇ!?」


「殺してやるケドね!」


 すずがそう言って暴れ出した。音しか聞こえないが、恐らく2人を殴っているであろうことは分かった。


 2分後、すすが言葉を発した。


「コイツら佃煮にして食おう!」


 まだ飲むつもりなのかと仰天した。


「内臓は全部消しゴムにしてやろう」


「ちんちんはドラクエの攻略本にしてやろう」


「目玉はブルーハワイにしてやろう」


「明日は天気にしてやろう」


 歩きながらすずは予定を書き記していた。こんな真っ暗なのに。


「死は救済。人間のふるさと」


「ワンピースは作者取材のため休載」


「私のいとこは来年も9歳」


「ピンク色の街、えっちシティ」


「よろチクビ」


 いつの間にか背後にいたえっちシティの広報の人の呟きを聞きながら家に到着した。


「ハラショー!」


 すずはそう叫ぶと雪駄を脱ぎ捨て、家に上がって電気をつけた。


 明るくなったことですずの姿がはっきり見えた。そうだった、札束の甲冑を着ていたんだ。だから刺されても無事だったわけだ。


「さ、佃煮作⋯⋯あれ? 材料がないお?」


 すずが困った顔でキョロキョロしている。


「おいてめぇ。さっきボコした2人組、どこやった?」


「俺タクは知らウオ」


「じゃあ佃煮は明日にするか〜」


 そう言ってすずはその場で横になってイビキをかきはじめた。


 両こめかみから血を流して眠るその横顔はまるで芸術のようで、写ルンですを買いに行かずにはいられなかった。


 コンビニ15軒とコンボニ4軒を回って帰ってくると、すずがいなくなっていた。


 ぶりぶりぶりぶり。


 トイレの方から音がした。まさか⋯⋯


「おーいすず、入ってるのかー?」


「殺してやるケドね!」パリン


「おーい! どこ行くんだおーい! すずー!」


 扉を叩きながら呼んだものの、返事はなかった。


 裏から回り込んでみると、窓ガラスが割れていた。便器には青紫色のうんちが直立しており、なにやらブツブツ言っているようだった。


 耳をすましてみると、うんちがチューチュートレインの歌詞を呟いていることが分かった。


「EXILE、好きなの?」


「ZOOです」


「うんこが喋んなよ」


「すいません」


 俺タクは窓からトイレに入り、扉の鍵を開け、また窓から外に出て玄関から家に入った。


 けど、普通に鍵開けた時点でそのままトイレから出ればよかったわ。


 とりあえずお茶を飲む。お茶さえ飲んでいれば万事上手くいくからだ。


「ハラショー!」


 玄関からすずの叫び声が聞こえる。こんな夜中3時44分に出す声量じゃないのに。


「伊勢海老と伊勢海老買ってきたにょ!」


「おほっ(^ω^)」


 俺タクはあまりの嬉しさに飛び上がった。


 直後、熱い鈍痛が体を襲った。

 2メートル飛び上がった俺タクは、そのまま地面に叩きつけられ、内臓を強打したのだ。


 無限にゲボが出続け、肘からは栗ようかんが生えてきて、ケツからは折れたあばら骨が1本ずつ順番に出てきた。


「佃煮でいい?」


 痛くて返事ができない。


「佃煮にするよ!」


「あ、ああ⋯⋯」


 本当は焼きで食べたいけど、声も出ないしそもそもこんな状態で海老食えないわ。


「すずは大富豪だった」


 え? 唐突な自分語り? なにゆえ?


「会った全員が「世界一可愛い!」と思わず言ってしまうような顔をしていて、胸はλ(らむだ)カップあり、お尻もなんかキュートで、この国の社長の6割と結婚していた」


 ウィキペディア読んでる?


「好物はペプシのかき揚げ、フライドポテトの刺身、フライドポポポのぬか漬け、ポポポーポ・ポーポポの腕毛である。嫌いなものは佃煮だ」


 あ、治った。


「あ!!!!!!!!!!!!!!!」


 すずが突然叫んだ。


「どうした?」


「チューした!」


「(゜▽゜)?????」


「キーちゃんとツーちゃんがチューしたの!」


「????(^ω^)????」


「キーちゃんとツーちゃんが! チューし⋯⋯」バタン


 言い終わらないうちにすずはその場に倒れた。今度はイビキをかいていない。


〈じゅっぷ、じゅっぷ、ベロンチョ、ベチョベチョ〉


 すずから変な音が聞こえる。駅にいる変なジジイの口から出ている音に似ているが、口が動いている様子はない。


 近づいてみると、頭の位置、というよりキツツキから聞こえているようだった。


 キツツキを掴んですずの肩から外そうとするも、こめかみに刺さったクチバシがなかなか離れない。


 仕方がないので反対側のキツツキを引っ張ってみるも、離れない。


〈ベロベチョゾボボ、ゾッチョッチョ〉


 音がどんどん激しくなる。もしかしてコイツら、すずの脳みそを啜ってるんじゃないか?


〈ベロシ、ベロシベロシ、ズョッ〉


 両こめかみの両キツツキを掴んで全力で引っ張ってみると、ついに引っこ抜けた。


 キツツキを放ってすずの安否を確認したところ、すでに死んでいた。


〈ベロゾツォ、ザピリモス〉


 後ろでキツツキがディープキスをしている。


〈ヌッチョヌッチョヌッチョヌッチョ〉


 パイズリを始めるキツツキ。


〈あたたたたたたたたたたたたたたたた〉


 百裂拳を放つキツツキ。


 俺タクはすずのこめかみに物干し竿を通し、外にぶら下げた。再来週にはスルメになってることだろう。

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