申込みにちょっとした決意を込めて
総アクセスが200、ユニークアクセスが100を超えました。毎日、アクセス解析を見ながら、一喜一喜してます。一人でも読んでくれる人がいたら喜びしかいないので。
ちょっとお話がぐだってきたのと、セットのお話なので、二話連続投稿です。
「レイアさんは、稀人や魔法に詳しいのですね。」
再度、馬車が動き始め、その御者台に乗せてもらった俺は、隣に座っているレイアに話しかける。
「ええ、旦那様に古今東西の知識を叩き込まれましたから。」
旦那様というのは、レイアは既婚者で、夫のことなのだろうか。メイド服らしきものも、その旦那の趣味?いやいや、独身で仕事服の可能性もワンチャン、というか、コスプレさせる日本が異常なだけで、そっちの方が本来の姿だろう。
そういえば、アキバメイド喫茶「MOE」のポイントカード溜まっていたのに、使わずにこっちに来ちゃったな。あれも証拠品として押収されて、写真撮影報告書化されていると思うとはずいな。
話を続けていくと、どうやら旦那様は、レイアさんを雇ってくれている、名のある商人のことだとわかった。ちょっとほっとした。
そういった会話でこちらの世界の常識とレイアさんのプライベート情報を仕入れていると、突然、レイアさんが切羽詰まったような表情になる。
なんだろう、お花摘みだろうか。俺も魔法練習がてら、雉撃ってこようかな。ちなみに、俺はよくデリカシーがないといわれるが、小便ですか?と聞かないだけの常識はある。と、そんなことを考えていると、レイアさんが、その表情を崩さないまま、話しかけてくる。
「ところで、不躾なお願いなのですが、まさ様の私に対する敬語をやめていただくことはできますか。ロウ様と同じ稀人の方は、こちらが敬うべき存在ですので。」
裁判官は上級国民ではないのだが、どうやらこちらの世界の稀人という立場は違うようだ。
「私も、自分の国では一般人なのですが。ただ、レイアさんが望むなら、同時履行の条件下なら構いませんよ。」
「ドウジリコウ?単語は分かりませんが、私も、ということですか。」
「そうです。名前に様も不要です。わがままではありますが、この世界で初めて会ったのも何かの縁、レイアさんとは対等でありたいのですよ。」
「そんな、畏れ多いです。」
「お願いします。そうしていただかないと、距離をとられているようで、かえって傷つくのですよ。 レイアさんは、勿論、本物の敬意を込めて接してくださっていると信じていますが、無意識のナイフを忍ばせた敬意など、誰も望まないでしょう。」
それとは違うけど、形式的なマナーに拘って、かえって先方の神経を逆撫でする人っているよね。慇懃無礼というか、性格なのかな。
「わかりました。まさ様が、そこまでおっしゃるなら…。でも、なかなか勇気が持てないのです。」
「じゃあ、せーの、の合図で、名前の呼び捨てから一緒にやりましょう。」
元々、モンスターのいる草原を一人で駆け抜ける勇気を持った女性だ。思い切りはいいのだろう。
俺が持ちかけると、レイアさんは覚悟を決めた顔をする。そこで、俺が合図する。
「いきますよ、せーの!」
「まさ!」 「レイア!」
「ふふふ。ロウ様と同じ稀人の方を呼び捨ててしまったわ。」
今のは名前を呼んでみたかっただけ!のような恋人のやりとりみたいでよかったな。な、なんなら、抱きついてもいいんだぜと言ってやりたかったが、セクハラ、ダメ絶対。
加害者本人の意識が、ちょっと触っただけというものでも、被害者には仕事を続けられなくなるだけの精神的ダメージを与えることもあるし、本人と会社に不法行為に基づく数十万円、数百万円単位の損害賠償責任が生じる。
大体、悪意はなかったという弁解をよく聞くけど、それって、自分のことを悪意なくセクハラできる人物ですって自己紹介してるのと一緒で、ブレーキない自動車だから安心してね、って言ってることと同じって気付かないのかなぁ。
ところで、そのセリフを吐いたうちのセクハラ部長も飛ばしてほしい。異世界ではなく、豚箱に。セクハラ罪ってまだできないのかな。
さて、セクハラ部長のことは置いといて、レイアは、ハードルの高い名前の呼び捨てをクリアしたから、あとは自然と固さが取れていくだろう。
ただ、今の関係は危ういな。 レイアは、俺を通じて同じ稀人のロウという存在を見ている。今はいいかもしれないが、俺とロウという奴がもし対立した場合、現在のレイアとの関係も崩れてしまうだろう。
「俺からも、レイアにお願いがあって。」
「なに?まさ。」
やべ、美人からの呼び捨ては破壊力が高いな。
そういう時は、素数じゃなくて、憲法前文の一節を頭の中で諳んじる。
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。
よし、落ち着いた。それでも、顔が少し赤いのを悟られないように、俺は早口でレイアに話しかける。早口と大声は法律家の必須スキルだ。ただ、契約する時とか、大事な話はゆっくりするのがコツだ。でも、俺にはこの時、そんな余裕はなかった。
「俺と契約を結んでくれないか。レイアが俺に知識を授けてくれる代わりに 俺がレイアの護衛としてレイアを守るという内容の。」
できれば、護衛ではなく、レイアの騎士として、終期を何れかの死亡時に設定したいくらいだぜ。
「契約?今回は、成り行きで護衛をお願いしたけど、こっちの世界の知識なら無条件でいくらでも教えるし、無償で奉仕するわ。それに契約なんて堅苦しくない?」
メイドの奉仕!?一瞬気持ちが傾きかけるが、俺がレイアに望んでいるのはそういうものではない。
「さっきも言ったように、レイアとは対等でありたいんだ。ないとは信じたいけど、周りの状況や気持ちの変化によって、今の関係を無条件に維持し難いこともある。それでも、今の関係を将来にわたって保証すること、それをお互いに宣言することに意味があるんだ。 それを形にすることを蔑ろにしたり、拒んだりすることの方が、俺は相手を軽視しているようでイヤなんだ。」
きっと、これも俺のわがままだ。親子だって、友達だって、契約で関係性が縛られているわけではない。でも、夫婦はどうだろう?恋愛関係になくたって、大事な人と契約関係を結んだっていいじゃないか。
でも、レイアが結婚を望むなら、俺は、ごにょごにょ…
話が逸れた。
それに、話を聞いて分かったことだが、この世界は日本以上に人の命が軽い。いつ亡くなったっておかしくないのだ。
人との関係性を、形に、言葉に、約束に残す。それはおかしいことなのだろうか。
今回、ちょっとクサいかなぁ。
あと、文中に出てくる憲法前文は内容はいいのに、全体の語調はどうにかならないかな。