裁判は誰が為
ついに1000PVを超えました!おー、パチパチ!
皆さまのおかげです。
完結まであと4話。
今回は胸糞ともちょっと違うお話ですが、刺激的な場面もあるのでご注意を。
大臣になってから、こちらの世界情勢の一端を垣間見て、手立ては打った。だが、問題の解決は一朝一夕にはいかない。陳情をこなして、まずは基本的なインフラを整備していくほかあるまい。そもそも、そのための統治機構が未熟すぎる。
時間が経ったのと、社会レベルを振り返っていると不安になり、最初に立ち寄った村に再度、顔を出すことにした。一応、村長だしね。
村に着くとちょうど、俺が立てた木槌の前に人が集まっている。
ライもいたので、事情を聴くと、ジョンという男と、アランという男の妻ソニアが性交したようなのだが、男たちの間で、それが強姦だったのか、合意の上だったのかが問題になってるようだ。ソニアの方は、強姦だったと証言しているらしいが、相手のジョンは否認している。
なお、この世界では、妻側の不貞が非難されることはない。より強い男になびくのは当然という発想だ。その代わり、結婚してないと、成人女性は強姦されても訴え出ることはできない。結婚していてかつ、夫が代理することで初めて訴えられるようになっているようだ。
弱い立場の女性は、強い男性の庇護があって初めて性的自由を手にする。日本では信じられないことだが、法律は地域、時代で変わるものだ。法律を創っても、すぐには人の意識は変えられないが、ゆくゆくは変えていかねばならないだろう。ただ、日本でも、不貞は津々浦々存在し、性犯罪も絶えないことから、上から目線で一方的に避難できる立場ではない。ベストはなく、常にベターを目指すしかないとの神の言葉をかみしめる。
話を戻すと、木槌を先ほどの二人の男が向かい合って押し合っているが、木槌はびくともしない。二人が疲れ果て、動かなくなったところで、ライが翌日に繰り越すことを宣言する。
ふと目をやると、フードをかぶった一人の女性が心配そうなまなざしで動かなくなった男を見つめている。アランではなく、ジョンの方をだ。
何か事情がありそうだな。
ライの方を見ると、あいつも何か悟ったようだった。
結婚どころか恋愛すら知らない年ごろだろうに。
ライは、夜、妻ソニアにこっそりと事情を聞きに行く。アランはDV夫で、ジョンとは合意がなかったと言わされたが、ジョンを愛してる。でも、ジョンはアランに勝てないだろう、と。
フードをとった彼女の顔には酷い痣があった。
翌日、木槌はアランに傾き、倒れた木槌がアランの片方の腕を押し潰す。
片手では、女性もメンツも守れない。
その後、ジョンとソニアは結ばれた。
アランは、身を持ち崩し、強盗へと身をやつすが、そこでも下っ端だ。
目には目を、歯には歯を。裁判は公平で、厳格だ。
木槌が倒れる瞬間、ライの顔を見たが、恐ろしいほどに無表情だった…
アランへの処遇が正しかったのかはわからない。結果的にソニアが報われたように見えるが、裁判の結果によってDVの過去がなくなるわけでもないし、アランの片腕がその代償として等価なのかもわからない。裁判官を天職と仰ぐ俺でさえ、悩むことがある。というか、悩んでばかりだ。俺は神様ではないのだから。
でも、司法制度は近代国家ならどこでも備わっている社会インフラだ。古代社会ですら、その原型をとどめている。誰かが社会の歯車になって、その悩みを引き受ける。そう考えて、俺は今までやってきたんだ。
ライは性格上、裁判官に向いていると思う。年齢は気にかかるが、年の功より亀の甲、使いようによっちゃ、亀の甲羅が役に立つときもある。あれを使うと防御力がアップするからな。もうそろそろ、ライを正式村長にしてもいいだろう。出世払いの70万ルクも今回、返してもらったことだしな。
ちなみに、ライは俺から聞いた話を基に、村の名前をガベル・ビレッジと名付けたそうだ。他村の揉めごとを引き受けると同時に、観光名所として名を馳せているようだが、あいつも誰に似たのやら、ちゃっかりしてるな。
ちなみに恋愛も知らないませがきと馬鹿にしていたが、
ライにはすでに婚約者がいるそうで、俺から村長と認められたら結婚するそうだ。
その後、器のちっちゃい俺は、ライに先を越された腹いせに、
この国の結婚可能年齢をライより上に設定するかどうかで、
真剣に悩むのだった。
でも、結婚したらちゃんと祝福するつもりだ…たぶん。
予告した村の再登場のお話でした。
このお話の後日談「ライの結婚式前夜」を短編としてあげました。
https://ncode.syosetu.com/n7009ip/
後書きの、さらに下の方にあるリンク
「・第27話「裁判は誰が為」のサイドストーリーはこちら」
からも跳べますので、ぜひこちらもよろしくお願いします。




