脳筋に小判
ついに総アクセス数が900を超えました。
ドキがムネムネ、もりがゆめゆめ、だいぶ動揺しております。
最終話まで、今回も含めて5話の予定なので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
成り行きで、街もまだロクに回ってない状態で、大臣になってしまったが、就任してからは、視察によく行くようにしていた。でも、することなすこと、まだわからないので、レイアに相談してみると、
「旦那様に会いに行ったらどうかしら?街の顔役も務めてるから。」
レイアの世話になっているし、その主人には挨拶に行かねばなるまいと思っていたところだから、ちょうどいい。
石畳の通りを進んで、レイアから聞いていた住所を目指すと、ひときわ大きな石造りの商店が見えてくる。三階建てで、入り口さえ広ければ馬車でも入りそうだ。立派なもので、流石に大きさでは城に敵わないものの、綺麗さでは段違いだ。荒れ放題の城壁と違って、白の漆喰で塗り固められている。
レイアが先ぶれを出してくれていたようで、店に入ると主人が迎えてくれる。柔和な笑顔をしているが、一目で相当切れ者である雰囲気が伝わってくる。そして、例に漏れず筋肉モリモリだ。
「やあ、こんにちは、まさ。話はレイアから聞いているが、彼女をモンスターから守ってくれたようだね、私からも礼を言わせてくれ。」
「いえいえ、こちらこそレイアに助けられていますから。彼女、優秀ですね。肝も座ってる。」
「あぁ、孤児という不遇な環境にめげず、よくやってる。でも、やはり女性ということで、大金を持たせるのが心配で…」
主人が、恐縮そうに言ってくる。
確かに、彼女の頭と腕があれば、そうそう遅れをとることはないだろう。でも、絶対はない。多勢に無勢や、薬などの絡め手を使われれば、危ういし、相手が有罪になろうとも、取り返しのつかないことになりかねない。そして、そのリスクの可能性がある美貌と大金。
美貌を変えることはしたくないからせめて、金の方をどうにかしよう。折角、魔法があるのだし。
「これも聞いているかと思いますが、私は稀人で、こちらの取引事情に疎くて…私の世界にあった制度なんですが、手形というものはありますか。」
「手形?それはなんですか?」
やはり、存在しないようだ。主人の協力があれば、現代の手形制度を作るのは訳ないだろう。だが、そこに魔法によるアクセントを加える。
まず、商店が銀行を兼ねて、お金を預かる。預金者から譲り受けた手形を持ってくれば、だれでもどの商店でも預金者の手形に記載した金額をおろせるようにして、手形で取引ができるようにするのだ。現金がいつでもおろせるように、手形制度が定着するまでは満期白地手形のみ発行できるようにしておこう。そして、月一で手形を発行した商店と、手形の支払いをした商店とで清算をする。いずれにせよその時に現金を動かさないといけないが、現場の取引ごとに現金を動かすよりはリスクが少ない。ただ、手形だけだと、正当に譲り受けたものかどうか判断ができない。そこで魔法の登場だ。コントラクティアを応用して、自由意思で振出人と受取人が署名しないと、手形が無効になるようにする。流通性は阻害するが、受取人からの裏書譲渡も無効にしておこう。詐欺はその場で防げないが(商人を名乗るなら騙される方が悪い)、強盗相手には効果があるだろう。金をおろせなければ、金額が書いてあっても、ただの紙切れだ。商品が盗まれたり、腹いせに殺されたりすることはあるだろうが、一番強盗にとって扱いやすい現金が手に入らなければ、リスクに見合わないとして、敬遠されていくだろう。ついでに、後日、詐欺とわかれば、その時点で支払停止も可能にしておこう。参加商店が多くないとメリットが少ないが、手数料が手に入ったり、流通が促進されたりすれば、参加商店にも得があるから、すぐ普及するはずだ。大臣権限で、参加した商店の税金も安くして普及を後押ししておこう。
手形が広まっていけば、そのうち創造二段階説とか、河本フォーミュラとか提唱されるのだろうか。想像するだけで、胸熱だ。
また、特定の商店に支払が集中して、資金不足が発生することを避けるために相互に資金を融通し合う制度も提案しておこう。現代だと中央銀行のお仕事だが、そこまで社会が成熟していないからな。しばらくしたら、預金を消費寄託化して、手形の満期まで運用を可能にすることや、手形の裏書譲渡の解禁も検討することにしよう。
俺がそうやって概要を説明すると、まだこちらにない制度だというのに、主人は一瞬で手形制度の全容やそのメリット、今後の展望を悟った様子だった。
「それはいい、これで一商いできそうだ。」
商売というものは、一番手がリスクの対価を得る。おそらく主人は、そうやって商店を大きくしてきたのだろう。リスクが大きかろうと、頭が切れればそこまで大やけどはしない。
「まさ、近くの村で稼いできたと聞いているが、さっそく預けていかないか?」
ほら、きた。さすがレイアの主人で、抜け目のない人だ。
その後、主人のお店を皮切りに手形の導入店は順調に増えていき、その結果、取引量は倍増し、経済発展に大いに寄与した。
ところで、本題のレイアの方はというと、お金を数えるのが好きということで、手形は使ってもらえなかった。キャッシュレスが進んだ日本でも現金派の人はいるから、仕方ないか…
せめて大金を扱う際には、俺を呼ぶように伝えると、「それもありがたいけど、どうせ一緒にいられるなら、デートのお誘いが良かったな…」と拗ねた表情で呟かれた。
それを聞いた瞬間、また異世界にぶっ飛ぶかと思った。やばい、これだけ動揺したのは初公判以来だぜ。
後日、改めてデートのお誘いをしたところ、満面の笑みで承諾してもらえたが、その後の話は恥ずかしいから、要旨の告知でいいだろう。とにかく、レイアが可愛かったとだけ言っておく。
話を戻すと、手形の方は、魔法のおかげで善意取得の問題が起こることはめったになかった。問題となったとしても殴り合いで勝った方が権利者として認められるようだ。どうやら商人も腕っぷしがよくないと勝ち残れないらしい。
どこまでも脳筋なやつらだ。
経済学はちょっとかじっただけです。
電子化で手形法どこまで残るかな…




