知らない天井
このサブタイトルは早く決まりました。
「知らない天井か。」
アニメの名言にも使いやすいものと使いにくいものがあるが、今のは使えるシチュエーションが限られている分、逆に使いやすい方だろう。
身体中が痛むが、動けないほどではない。上半身を起こすと、もふもふ尻尾がゆらゆら揺れていたので、思わず手で掴む。
「みぎゃ」
可愛らしい悲鳴がする。しっぽの根本を辿ると、ロウとの対戦を観戦していた獣人のようだ。咄嗟に手を離す。
「なんてことするんだ!けが人とはいえ、許さないぞ!」
尻尾を隠しながら、その獣人がプンプンして言ってくる。
「すまんな。実家の猫を思い出した。でも、そいつは尻尾を自由に触らせてくれたぞ。」
「ミーア族は家族と恋人にしか尻尾を触らせないんだぞ。しかし、お前強いな。ロウ様に勝つなんて。なんなら恋人にしてやってもいいぞ。」
確かに、俺は猫好きだが、強さだけを基準に恋人にされてもな。
「クリミア。嘘いっちゃダメ。ミーア族にそんな風習ないでしょ。尻尾を触られるのが苦手な子が多いのは確かだけど。」
そう言いながら、レイアが部屋に入ってくる。
「よかった、起き上がれて。」
安心したように、レイアが俺の顔を覗き込んでくる。
「ああ。気絶する直前に、聞こえたんだが、看病してくれたようだな。ありがたい。」
「ロウ様の元に連れてきたのは私だからね。これくらいは当然よ。」
「まあ、義務なら仕方がない。」
「ただ、ロウ様に初めて勝てるかもしれないと思ったのも確かよ。」
「まあ、負けちまったけどな。」
「何言ってるの、どんな力だろうと、勝ちは勝ちよ。」
「俺が納得いってないからな。あれで勝ちなら、代理で勝っても同じだ。」
「もう、まさは強情なんだから。」
「それも俺の取り柄の一つだよ。」
元気になったついでに他愛もない会話をレイアとしていると、扉が開いてもう一人入ってくる。
「おい、おまえ。もう一度あいつを出せ。今度こそ、あいつに勝ってやる。」
ロウだ。起きたばかりの俺になんて頼み事だ。
「せめて怪我が治ってからにしてくれ。それにお前にはまだ名乗ってもらってないぞ。俺が勝ったからその権利はあるんだろう?」
さっきと言っていることが違うが、いいんだよ、細けえことは。
「おっと、すまなかったな。これだけいい勝負は久しぶりだから興奮しちまった。オレはロウ、ここの帝王をしている者だ。さっきのお前とレイアに対する非礼も詫びよう。」
なんか、急に礼儀正しくなったな、こいつ。いいか悪いかは別にして、強い奴には礼儀を通すんだろう。
「俺はまさよしだ。まさと呼んでくれ。」
「まさ、それでいつになったらあいつを呼んでくれるんだ?」
「呼ばねえよ。さっき呼んだのは成り行きだ。必要もないのにあんな化け物を呼べるか。」
「なら、どうやったら呼んでくれる。なんなら引き換えに、クリミアを嫁にして、この国の大臣にしてやってもいいぞ。」
さっきのレイアとの会話で知ったことだが、クリミアは元々、ロウに見込まれて、この国の首相を務めているらしい。レイアも、城の御用商人でもある主人に付いて来ることが度々あり、知り合いらしい。
「何言ってるんだ。俺は裁判官で、政治家なんてするつもりはない。」
「私からも言わせてください、ロウ様。大臣はいいとしても、クリミアと結婚させるなんてやめてください。」
焦点は違うが、レイアも反対してくれるらしい。
「ん、まさはやっぱり裁判官なのか、どおりで強いわけだ。」
ロウが納得したような口ぶりだが、俺の頭に疑問符がつく。
「なんで、裁判官が強いんだ?」
「法廷の喧嘩に乱入して、治めるのが裁判官の仕事だろう?強くなくちゃ務まらんだろうが。」
話を聞いてみると、ロウの世界では、法廷で喧嘩して勝った者が勝訴する仕組みで、勝負が決したと裁判官が判断した時点で、乱入し、両者をぶん殴って、喧嘩を止めるらしい。そして、ロウはそこの廷吏をしていて、後始末をする係だったようだが、暴走する裁判官を止めるのにいつも苦労していたらしい。元の世界でも一定の実力が求められる職であったようで、ロウはこちらの世界に来てさらに才能が開花したみたいだ。ただ、そんな世界で裁判官はやりたくねえ。
「まあ、裁判官の話はいいとして。さっきの話だが、クリミアとの結婚は遠慮するにしても、大臣の職は受けることにするよ。神様が結局は勝者だし、あいつの頼みも聞いてやらないとな。」
「詳しくは聞かないが、この国にとどまるなら、結構。また再戦の機会もあるだろう。」
ロウは、満足顔だ。一方で、クリミアは不満顔だ。
「むう。なんで、私の結婚は受けてくれないの。こんな良縁ないのに。」
その隣でレイアも安心したような顔をしているのはなんでなんだろう。
ここからラストまで駆け抜けていきますが、内政もの中心になります。




