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裁判官がもし異世界に転生したら  作者: のりまき
帝都編
21/31

誰かのために

テンポ感出てるかな。

2話連続投稿です。

俺が杖を振り上げて猛然と走り寄っているというのに、ロウの野郎は余裕面だ。


「稀人だからと、今のをかわせないような弱小者になぜオレが名乗る必要がある?自分の価値は、自分の実力で示せ。」


「うるせえ。強いだの弱いだので人を測ってんじゃねえ。それに人定するのはこの俺だ。」


余裕面かましていたロウは、そのセリフに一瞬反応するが、それを気にする間もなく俺はそのままロウに殴りかかった。


「よし、クリーンヒット」


人とはいえ、あの膂力を持った稀人だ。猪モンスターを爆砕した威力でも死なないだろうと、全力で殴りつける。


「その程度か。」


ロウは、顔面に杖がぶつかったというのに、何もなかったようにピクリともしない。そして、そのまま俺に殴り返してくる。


「ぐぁ。」


先ほどのリプレイのようにまたもや俺は壁に叩きつけられる。


「レイアが優秀だと言っていたから期待してたんだがな。あいつのつよさを見る目も落ちたか。」


呆れた様子でロウがため息をつく。


ブチっ!!


俺はいい…裁判官は人に恨まれて、憎まれ口を叩かれるのには慣れている。


が、世話になって契約も交わした大事な人が虚仮にされるなんて、ホント頭きた。さっきのと合わせてトリプル役マンだ。


「俺を馬鹿にするのはいいが、レイアを巻き込むんじゃねえ。」


確かにレイアは強さに憧れを抱いているし、俺が稀人だったってだけで、大勢の中から俺を選んでくれたわけでもない。


ただそれでも…力の強さだけで俺を評価してくれたわけでもないことはわかるんだ。それを、コイツは…


「ほう、だからと言って、お前に何ができる?」


確かにこれじゃ、言葉だけの軟弱野郎だ。奴に目にもの見せてやる。


「後悔すんなよ、エアブラスト!」


今度は一つ目モンスターを貫通したエアブラストを叩き込む。巨人の胸板を貫いた威力だ、流石に無傷ということもあるまい。


「ん、何かしたか?」


だが、ロウの周りに風が巻き起こるだけで、奴には何も起こらない。おかしい、軌道は完璧だったはずだ。


「聞いてなかったのか。オレに魔法は通じない、有名な話だぞ。」


「聞いてないよ~。」


思わず、往年のギャグを口にしてしまう。

視界の隅のレイアも、若干しまった、という顔をしている。美人のそんな顔を見られるだけで、儲けもんと思うしかない。


どうせ楽しみが減るからあまり情報開示するなと言っていたが、魔法が効かない件は有名過ぎて隠す意味もなく、例外だったってとこだろう。


だが、困った。

物理も効かない、魔法も効かない。どうすれば?


「もう手札は終いか、じゃあ、そろそろ終わらせるか。」


ゆっくりとロウがこちらに向かってくる。


直ちに正解を見つけなくては。択一は得意だ。


物理でもダメ、魔法でもダメなら…


魔法を使って物理で殴るだろう。


「グラスホッパー!」


俺が叫ぶと足に力が漲るのがわかる。そのまま、地面を蹴る。景色が変わる。瞬く間にロウの目の前に躍り出ると、その勢いのまま杖を振り下ろす。


ロウが一瞬、びっくりした様子を見せるが、俺はロウを素通りして、杖は空を切ってしまう。


「ほう。今のが当たっていれば、血くらい流せたかもな。」


俺がかけた魔法はいわゆるバフってやつで、身体能力をあげるものだ。相手にかからないなら、自分にかける。名前がアルコールなのは、アルハラ部長がアルコールがあればなんでもできると言っていたからだ。まあ、俺はアルコールの勢いで告白したら、玉砕したけどな。


あと大事なのはこっちなんだが、俺好みのものは、魔法のイメージをアップさせ、効果を底上げするようだ。


だが、攻撃が当たらないんじゃ意味がない。足だけのバフで、バランスが悪過ぎるせいだろう。


「なら、これでどうだ。アレキサンダー、レッドアイ!」


今度は、全身に力が漲ってくるのと同時に、目からは血が流れ出る。なりふりかまってられるものか。


もう一度、地面を蹴る。今度はレッドアイの効力で、周りがよく見える。古の大王の力で、体勢もキープできる。


これでどうだ!?


「くっ」


初めて、ロウの余裕面が歪む。顔面には叩き込めなかったが、防御した腕に杖が当たって、アザをつけることに成功する。

だが、アザ程度では奴を倒せないだろう。血すら出ていないのだから、押しまくるしかない。


そのまま、オレは、ロウの周りを縦横無尽に走り回って、めちゃくちゃに口ウを殴りつける。 ロウは防御を固めて防戦一方だが、決定打は与えられない。


そうこうしているうちに、ロウがこちらの攻撃を見透かすようになってきた。


「攻撃が単調だな。」


こちらの世界で初めて戦闘というものを経験した俺と、毎日陳情という名の喧嘩に明け暮れているロウとは、戦いの技術に雲泥の差があるのだろう。


攻撃が読まれて当たらない。さらに、驚異的な回復力で、当初与えたダメージもこの戦闘中に治ってしまっているようだ。


それなら…


一気に攻めるしかない!


「これで決める!XYZ!」


ラストワードを口にすると、自分の限界が引き出されるのを感じる。


正に全身全霊をもって、俺はロウに向かって杖を振り下ろした!


次話、決着。

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