上に立つ者の資格
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「裁判官」で検索すると、本作品がトップに出るみたいで、このワードで検索してくれた人がいるかな。
村長宅に戻ると、ライと村長が心配そうに待っていた。
「借金は払っておいたよ。」
「倅のためにありがとうございます。」
ライの代わりに村長が礼を言う。幼い子供の不法行為は、保護者である親権者が責任を持つ。ただ、いずれにせよ70万ルクも払えないだろう。払えるなら俺が本格的に首を突っ込む前にとっくに始末をつけているはずだ。
「ぼく、払うよ。」
ライが健気に言う。
「じゃあ、出世払いにしておくよ。」
出世払いは出世しなければ払わなくていいという意味じゃない。出世に必要な期間が経過すれば払うという意味だ。ただ、ライの場合は遠くないうちに払ってくれるだろう。投資商品を見る目があるレイアも評価しているようだしな。
「ただ、まずは村人の話し合いだな。」
「ほくに任せてくれよ。だから、父さん、村長の役目を今、譲ってくれ。」
急にツッコミに冴えが見られたのもそうだが、ライは今回の件で思うところがあったようだ。男子三日会わざれば刮目してみよ、意気込みが違う。
「村長の役目にこだわりがあるわけではないから構わないが、村人が認めないと今と変わらんだろう。」
「それも認めさせてみせるよ。ちょっとまさの名前借りるけどいいでしょ。」
「俺は構わんが、無茶するなよ。」
いくら成長したからって、決闘して怪我でもしないか心配だ。少し関わっただけだが、既に親のような気持ちになっている。
「ちょっとした無茶くらいするさ。ぼくと村を救ってくれた人みたいにね。」
まあ、あれも余裕を見てだったけど、ライから見れば無茶だろうな。
「よし任せよう、これは男と男の約束だ。」
「わかった、武神様の名の下に誓うよ。」
そう言うと、ライは村長宅を出て行った。
「重ね重ねありがとうございます。ライもあんなに立派になっ て。」
あなたがしっかりしていれば、とは言えない。彼も村の運営に精一杯だったんだろうし、いくら立派な地位でも子供がぐれて家裁のお世話になる例なんてごまんとある。
夜になってもライは帰ってこない。説得に時間がかかっているんだろう。
そこで、もう一泊、村長宅に泊まらせてもらうことにした。
「レイアもすまないな。本当は封印石を売り渡して、帝都に帰る予定だったんだろう。二日も付き合わせてしまって。」
「ウフフ、十分元が取れるから大丈夫よ。旦那様も褒めてくれるわ。」
レイアは本当に徹底している。さて、明日どうなるか。
今日は、電波青年が夢に出てこなかったのでゆっくり寝ることができた。
次の日、広場に赴くと、既にライと村人たちが集まっていた。
「さあ、結論を聞かせてもらおうか。」
「まさ、ここの村長になってよ。そしたら、依頼料の500万ルクも払う。」
「は?」
どうしてそうなった?
「まさがモンスター倒す場面を説明したら、強い人に村長になってもらいたいって。」
昨日と違って、村人たちが期待の眼差しで見てくる。時間が経ったら落ち着いてきて、考えが変わったようだ。電波青年やレイアの話からすると、元々、力のある者が尊敬を集める時代ということもあるのだろう。
「稀人だし、わからなくはないが。」
この国のトップも稀人の強さを買われたんだろうしな。
「俺はこの村に常駐できないぞ。」
「それでもいいよ、稀人が村長って箔がつくから。それを証明できるものは何か残しておいてもらいたいけど。」
「それに俺を推すなら、規則には従ってもらうぞ。」
「もちろんそのつもりだよ。あの木槌を見て、表立って文句言える人はいないよ。」
規則はただあるだけでは無意味だ。正義なき力は暴力なり、力無き正義は無力なりという言葉があるが、規則も同じだ。規則を作らなくても自主的に行動できるなら規律は守られるし、規則を作らなければいけない状況なら、強制力がなければ、守らない者が頻発し、規律が乱れるだろう。
あの時は村人も踏ん切りがつかなかっただけで、木槌を振るったのも効果があったんだな。
「わかった。ただ、お前たちの信任を得て村長になるんだから、信頼が崩れたと思えば、俺は村長を降りるし、村人で村長を託せる者が出てきたら、この地位を譲る。それまでよろしくな。ただ、すぐ発つことになるから、村長代理はライに、村長代理補佐を父親の元村長に頼むことにする。」
そう皆に宣言すると、ライにこっそり話しかける。
「ライ、ちょっと手を出してくれ。」
「ん?なに?」
「ジャッジ…」
俺が、ライの手を握って、つぶやくと魔法の力が発動する。
初めてのオリジナル魔法だが、うまくいったようだ。俺の存在意義がかかっていて、イメージもばっちりだからな。
ライが、キョトンとしているが、説明はこの後だ。
今度は、村人から少し離れた地面に俺は杖を向ける。
「エアブラスト!」
ドゴーンと、衝撃と砂埃が立つと、1メートル四方ほどの大穴が開く。村人がポカーンと口を開けて見ているが、オレは淡々と作業を進めていく。その穴に、木槌の根本を突き立て、足で地面を蹴って踏み固めていくと、一回、一回、ドン、 ドンと、すごい音が鳴り響く。
「よし。もし村で争い事が起こったら、自分の主張を叫びながら、この木槌を押し合え。傾けた方の主張を正しいものとして扱う。審判するのは村長代理のライだ。」
少しは村長らしいことをしようと思って言ってみた。決闘に毛が生えた程度だが、多少は裁判の形になっているだろう。
イカサマだけどな。
俺が踏み固めたこの木槌は、かの有名な聖剣のように、稀人ではない者の力では抜こうとしても押そうとしてもびくともしない。勝敗は、俺が木槌を動かせる魔法の力を与えたライの胸先三寸ということだ。ガベルの使い方としては大いに間違っているが、それも脳筋らしくていいだろう。
あとは近代裁判のイロハを、ライに教え込めば下手なことにはならないだろう。
一応、この裁判にも意味がなくもない。時間をおくことと、体力を消耗することで冷静になり、トラブルを解決しやすくなることと、まだ弱小のライの権威づけという意味がある。
「あとは、モンスターが封印されて手付かずの森を開拓すれば、依頼料を払っても余裕ができるだろう。じゃあ、任せたぞ。」
ライたちに伝えるべきことを伝えて、依頼料初回の100万ルクを受け取ると、そのまま村を旅立った。
ちなみに、ライにその100万ルクの出所を聞くと、昨日、レイアにやられてのびていたチンピラの懐からくすねてきたそうだ。詐偽取消しの対象にはなるかもしれないが、中抜きされていた金であろうと、盗めば窃盗だ。ただ、俺が滑り込ませた70万ルクはそのままにしてきたようだし、これまでずっと搾取されてきたことを思えば、許される範囲だろう。こっちの世界に来てから、どんどん日本の裁判官としての倫理が崩れていく気がするが、郷に入っては郷に従え、だ。
法服の黒は何にも染まらない色と言われるが、何もかも混ぜ込んで染まった色と揶揄されることもある。人によっては、それも誉め言葉だろう。ライもしばらくしたら清濁併せ吞む立派なリーダーになるはずだ。
そんなことを思いながら、俺は次の目的地、帝都へと向かう。
だが、俺はこの時知らなかった。
その後、争いごとが起きたら木槌の立つガベル・ビレッジへ向かえと言われるほど、この村が国中に名を轟かせるようになることを。
これにてガベル・ヴィレッジ編は終了です。
今回、ちょっと説教臭かったかな。一応、この村はもう一回出てくる予定です。




