表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裁判官がもし異世界に転生したら  作者: のりまき
ヴィレッジ編
16/31

契約の履行とは、こうあるべき

ごね得って許されるべきではないと言われてますけど、実際にごねられると面倒ですよね…

交渉学は詳しくないけれど、正当な手段として整理されているものなんでしょうか。

「レイア、すまないが、村への債権を買ってくれないか?」


「ええ、いいわ。」


「確かに、村人たちが本当に契約してくれるかわからないし、5年先まで払ってくれるか分からないから、迷うのも無理はない」


「だから、いいわよ。」


「って、そんなあっさり!?」


「今更ね。」


ウフフ、と笑われてしまう。


「でも、よかったのかしら。全額とは言えないまでも素材の前払いもできるし、分割払いの債権の買取だと、額面より低額になっちゃうけど。」


「それで構わない。村人たちが、モンスター討伐の責任を最後まで持つ形にしたいし、金額の点は、分割払いのリスクを考えれば当然だ。350万ルクでどうだろう。借金返済分があるから70万ルクは前払いにしてもらいたいが。」


「そんなに安くていいの?この村との往復だけでこれまでと同額の儲けが出るから助かるけど。」


「俺が余計なことをしなければ、もっとずっと先まで商売できたんだ。これくらい当然だ。」


「村の安全にも関わることだから続けてきたけれど、自分の生命の危険もあるし、相手の足元を見るみたいだったから、むしろありがたいわ。前払いも色をつけて100万ルク払うわ。」


「ありがとう。残額は村人たちの約束を取り付けたらってことで。そのコントラクティアを結ぶついでにさっき言ったコツも教えるよ。」


そういうと、村への500万ルクの債権を350万ルクで買い取ること、100万ルクは先払いで、債権が確定したら残額250万ルクを払うこと、村人たちが契約に応じなかった場合、レイアとの契約を解除し、先払いした100万ルク分、素材買い取り価額から差し引く内容のコントラクティアを交わした。


「魔法のコツはイメージだ。」


「イメージ?」


そう、この世界に飛んだ直後の魔法で中途半端に怪我が治ったのは、できると無根拠に信じていたが、呪文がニアミスだったことと、自身が現代の医療技術を受ける姿を想像していたのがそれを補ったためと考えられる。言い換えると、呪文は媒介で、魔法の結果を正しく想像することと、自分が呪文を唱えればそれができると信じることが大事だ。猪モンスターへの魔法が失敗したのは、呪文が全く違っていたのと、現実に炎を飛ばしている場面を見たこともなかったから、イメージの補完が間に合わなかったためだろう。


その点、コントラクティアについては、日本で契約書はごまんと見ていたし、こちらの世界の実物を見せてもらった上で、唱える呪文も完璧なら成功すると思っていたから、予想通りのドンピシャだ。


俺がそういった説明をすると、レイアは不思議そうな顔をして言ってくる。


「でも、私は旦那様がコントラクティアを唱える様子を何度も見てるけど、未だに自分では使えないわ。」


「それはおそらく第一級商人しか使えないという思い込みが邪魔をしているんだろう。」


今までできなかったことをできると信じることは意外と難しい。身体能力をさほど必要としないのに、最初は自転車に乗れないことと似ていると言えるだろう。周りでできる人が限られているなら尚更だ。


その点、稀人は魔法のない世界から来ているため、まっさらだ。従前どおりできないと思えばそれまでだし、転生したことをきっかけにできるようになったと思えれば、意外とすんなりいくものだ。


ただ、魔法の位階を超えられるのはそれだけでは説明がつかないが、神様のおまけだろう。致命傷になりかねない傷を放っておいたのも俺の魔法で治せると確信していたからだろうし(でも、奴の場合、死んだらまた生き返らせればいいと考えていた可能性も否定できないが…)。


俺の説明に、まだレイアは確信を持てない様子だったので、もう一声かける。


「俺みたいな実例があるんだ。レイアも、すぐできるようになるさ。」


「わかったわ、努力する。」


オレが言ったのは本心だ。レイアは探究心の塊で、商人としての矜持もある。今は、先入観が邪魔しているが、すぐにそれを乗り越えて、実現できるだろう。


魔法の説明を終えると、契約の履行だ。まずはさっきのコントラクティアに従って100万ルクを支払ってもらう。これで、過払いの恩恵がなくとも借金返済の目処はついた。


そのまま約束の村の入り口でしばらく待つと、正午より早くにジャンが姿を表す。オレを逃すまいとの思いからだろうか。


「ほら、契約の70万ルクだ。」


「げ、本当に準備しやがったのか。やっぱりこれっぽっちじゃ足りねえな。」


ジャンが難癖をつけ始めた。確かに、100万ルク相当の馬二匹、モンスターから全速力で逃げて無事な馬車の担保の方がはるかに高価値だ。1日で70万ルクも準備できないと高を括っていたのだろう。


「それに期限は正午だろう。契約違反だ。」


「早くて問題あるわけないだろう。利息付きでもっと早ければ、割り引いてもらってもいいくらいだ。金額も70万ルクとコントラクティアに明記してある。それに金を例え受け取らなかったとしても、弁済の提供さえあれば、担保を免除する旨が書いてある。受け取る以外にもう選択肢はないのにごねてもしょうがないだろう。」


ちなみに、ごねるなら契約直前に行うべきというのが俺の持論だ。相手も早く契約したいから応じる可能性が高い。ただ、ごね過ぎると契約自体がご破算になるから諸刃の刃だ。一方で、契約後にごねるのはお勧めしない。支払う金がないならそうせざるを得ないが、信用を失うだけだ。


「知るか!こうなったら。」


そう言うと、ジャンが、レイアの腕を掴んで首元にナイフを当てる。


「こいつの命が惜しいなら、有り金全部払いな。お前とこいつの分、馬車も全部だ。」


こっちの世界じゃ知らないが、日本で強盗は重罪だ。人を殺せば死刑もありうる。


「た~す~け~て~」


レイアが、不真面目な声で助けを呼ぶ。


俺は、レイアの護衛だが、レイアの流儀に習って、無駄なことはしないこととしよう。


「どうぞご自由に。」


煽るように、俺はジャンに言う。


「あ、お前何つった。」


「だから、どうぞご自由にと。できるならね。」


「お前、オレが腰抜けとでも思ってんだろう。こいつが二度と見られねえ面になっても知らねえぞ。」


そう言うと、ジャンが持っていたナイフを振り上げる。


それが合図だったかのように、レイアは一瞬で、ジャンのナイフを持っている腕を捻り上げると、そいつの鳩尾に肘打ちをかます。


「グフッ!!」


ジャンの体勢がくの字になったところで、レイアは後ろに回って頸部に腕を回して締め上げる。ジャンの背中にレイアの胸が当たってるけど感触楽しむ余裕なんてないだろうなと呑気に考えてると、 ジャンが白目を剥いて、地面にどさっと倒れ込む。

元々扼殺するつもりはなかったのか、息はしているようだ。まあ、正当防衛の範囲だろうし、こいつにはいい薬になったことだろう。


「もう、護衛を頼んでいるんだから、助けてくれたっていいでしょ。」


「いやストレス溜まってそうだから、解消にいいかなと。」


取引を辞めたいと言っていたのはこいつの態度も原因だろう。封印石を渡す時から、ずっとイライラしている様子だったし。余程腹にすえかねていたのか、嬉々としてジャンを絞め落としていた。女一人で、モンスターと出会う仕入れルートに向かわせられるんだ、弱い訳がない。


「もう、素材の買取価格から、引かせてもらうからね。」


「げ、油断するんじゃなかった。」


まあ笑ってるから、ひどいことにはならないだろう。彼女の商人根性には感心させられっぱなしだ。


「さてと。」


俺は70万ルクを気絶しているジャンの懐に無理やり滑り込ませる。


「いいの?向こうから襲ってきたのにわざわざ支払いしなくてもいいんじゃない?」


「まあ、俺は何もされていないし。」


と言うと、レイアに半目でジトっと睨まれる。美人はどんな表情でもかわいいな。


「確かに不法行為の損害賠償請求権も自働債権にはできるし、レイアがいいなら相殺も考えられるけど、ちゃんと落とし前はつけておきたいってのが大きいかな。気持ちの問題だよ。」


ここまでコテンパンにやっつけて、金まで払っているのだから、放っておいてもまた襲ってくることはないだろう。とりあえず、村長宅に戻って、ライに借金の支払が終わったことを告げないとな。



さて、村でのイベントももう少しで終わり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ