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裁判官がもし異世界に転生したら  作者: のりまき
ヴィレッジ編
15/31

心の機微というのは難しい

つなぎのお話で、サブタイトルどうするか悩みました。

朝起きると、村長に村人を全員集めてもらう。


村長は、昨日こそ俺らが持って帰った巨大な木槌と鬼の生首にギョッとしていたが、それからずっと俺がモンスターを討伐したことに恐縮しっぱなしだった。


「この度は、倅がご迷惑をかけて申し訳ございません。」


「いや、俺が勝手に巻き込まれたことだし、モンスター討伐は契約だ。」


しばらくするとゾロゾロと村人たちが集まってくるので、皆に伝える。


「村に封印されたモンスターは俺が討伐した。村との契約に従って、500万ルク支払ってもらいたい。それを記したコントラクティアもここにある。」


仕込みというのは、モンスター討伐報酬を確認することだ。素材はすぐに現金化できるとは限らないので、その報酬を借金返済に充てるつもりだったのだ。村長宅には、以前、冒険者に依頼するためのコントラクティアが残されており、封印されたモンスターを討伐した者に500万ルク支払う旨が記されていた。俺は討伐前にそのコントラクティアに署名していたのだった。


「なんでそんなもん払わないといかんのだ。村長とお前が勝手にやったことだろ。」


村人の一人が叫ぶ。500万ルク払えと言われて、素直に払えるほどこの村は豊かではないのだろう。


「村長はこの村の代表として、コントラクティアに署名しているし、俺はこの村のために脅威となるモンスターを討伐したんだ。」


本当はこの村のためというのは主目的ではないのだが、結果的には合っているので問題ないだろう。


「そんな頼りない村長は村の代表として認めねえ。それに討伐するんだったら、もっと早くやってくれ。」


ソーダ、ソーダと、周りからも賛同の声が上がる。


確かに、村人は30年間、封印石を買い続けてきた上に、今はぼったくり価格の200万ルクを支払ったばかりだ。村長は、チンピラに中抜きされているのを知っていたみたいだが、ライを半ば人質にされて何も言えなかったようだ。ただ、村長がもう少し上手く立ち回っていれば、出費を抑えられただろうし、彼らに同情の余地はなきにしもあらずだ。


さて、どう説得するかと思案していると、村人の一人が叫ぶ。


「そんなに言うなら、決闘しろ。」


「決闘?」


レイアに聞くと、トラブルは決闘で処理することが通常であり、代理を立てることも可能なようだ。村長が尊敬されていないのは、自身で一度も決闘に立ったことがないためのようだった。


俺は、村人の挑発に乗らずに足元に置いていた木槌を手に持つと、ブンと、素振りで一振りする。


風圧で、近い場所に立っていた村人の何人かが尻餅をつく。


「つべこべ言わずに払うのか、払わねえのか、どっちなんだ!?」


同情の余地があるとは言ったが、村長が、封印石を仕入れて村を脅威から救っていたのは確かだし、高値なのはぼったくっていたチンピラのせいだ。それに、モンスターを倒してもらって感謝の一つも言えない村人の方が、義理を欠いているのは確かなので、強気に出る。決闘と騒いでいた村人も顔が青ざめている。


「まさ、それってカツアゲ。」


そうすると、隣にいるライから、まさかのツッコミが入る。ちなみにこの世の中にカツアゲなど存在しない。単なる恐喝だ。最高刑は懲役10年で、貴重な10代をシャバで過ごす権利を放棄したいと言っているようなものだ。ただ、オレはアラフォーだから許される(主張自体失当)。


それにこれは正当な権利行使だ。違法性が阻却されることもある。そもそも決闘で言うこと聞かせるか、脅迫で言うこと聞かせるかなんてどっちもどっちだろ。


「まささん、すみません、私が不甲斐ないばっかりに。」


村長から謝罪される。ただ、彼から謝罪される理由がない。


「村長さん、それは間違っている。俺は契約を守らない奴は嫌いだが、義理を欠いた奴はもっと嫌いだ。正義が自身にあるなら、力がなかろうと、それを貫くべきだ。」


「まさ、木槌振り回してからのそのセリフは、"おまいう”だよ。」


ライは、モンスター討伐に立ち会ってから吹っ切れたのか、気弱ショタから、ツッコミショタにランクアップしたようだ。


俺は、コホンと咳払いをして誤魔化してから、


「ともかく、村長さんはこの村を守るためにやってきたことだろ。胸を張っていい。」


「ただ、200万ルクを払ってすぐに500万ルクも払えんのです。」


そのことはモンスター討伐報酬のコントラクティアを交わす際にも村長が気にかけていた。俺だって、契約とはいえ、事実上、履行不可能なものを強制するつもりはない


「そこは分割で構わない。年間100万ルクの5回払いでどうだろうか。ただ1回目はすぐに払ってもらう。」


200万ルクずつ払っていたのが、100万ルクに値下がりし、5年間という先の見えるものになったのだから、 破格の条件だろう。


「それで構わないな、皆の者。」


村長が村人に問いかける。


「100万ルクに値下がりしても、今すぐってのはなあ。」


村人たちの表情を見ると、不満そうだ。


モンスター討伐までは200万ルクを支払わざるを得ない状況で、渋々払っていたのだろうが、そのモンスターが討伐された以上、生命の危機は過ぎ去っているので、金が惜しくなっているのだろう。これは討伐報酬のコントラクティアがあるというのと、時間がないという理由で、村人の気持ちを蔑ろにし、根回しを怠った自身の責任でもある。


村人にとってはどうせ払わないといけない金だが、こちらが義理を欠いている以上、契約を盾にして急かすのは卑怯だろう。決闘で勝負をつけてもいいが、それではあの電波青年の依頼を蔑ろにすることになる。


「わかった、明日まで時間をやる。それまでに話し合ってきてくれ。レイア、一緒に来てくれないか。」


村人に話合いの猶予を与えたが、そうすると、借金返済の期限に間に合わない。そうであれば、またレイアにお願いするしかないだろう。


彼女にはもう頭が上がらない。


お金が絡むと人って変わるよねってお話です。

借金素直に返してもらえるかどうかも義理人情次第だったり。

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