そこは絶対に外せない
イメージ的にはゲームに出てくるやつ。持ってる物はアレンジしてますが、一からデザインする人って凄いよね。
仕込みを終えた俺は、ライに封印石の設置場所まで案内させる。
レイアも一緒だ。
封印石は、森奥深くの台座の上に設置されていた。
封印されたモンスターを少しでも遠ざけたいという心理だろう。
ただ、肝心かなめの封印石にヒビが入り、今にも割れそうだ。
監視もおかずに、このまま封印が解けたらどうするつもりだったのだろう。
リスクはなるべく考えないようにする、人間心理の悪い癖だ。裁判に来る案件は、他人から見れば、普通そんなリスク考えて行動するでしょう、というものも多いが、当事者視線からするとこんなものなのだろう。封印石が割れても、対処のしようもないしな。
「新しい封印石も壊れちゃったのに、どうするの?」
ライが不安そうにオレに問いかける。
「こうするんだよ。」
俺は手に持った杖をヒビの入った封印石に叩きつけると、封印石はパリンと小気味良い音を立てて割れた。
「何してるんだよ。そんなことしたら!?」
「借金返済期限まで時間ないし、ちんたら待ってらんないよ。」
封印石の割れた箇所から煙のようなものが吹き出してきて、1箇所に集まって形を成していく。
封印石の中に封じられていたモンスターだろう。
「レイア、確認だ、封じられていたモンスターはなんだ。あと、素材と討伐証明の部位だけ教えてくれ。」
「サイクロプスという一つ目の巨人鬼よ。顔の一つ目が素材、持ってる木槌が討伐証明部位、肉は食べられないわ。」
「顔と木槌以外は粉微塵にしてもいいってことか。」
「ええ、できるなら、といったところかしら。」
煙が段々と具現化していく。大きさは、ざっと5メートルといったところか。確かに、これを粉々は無理そうだ。
「なんでそんな軽口叩くだけの余裕があるのさ。逃げようよ。」
ライが、今にも倒れそうな面持ちで声をかけてくる。
「どこへだ。それに新しい封印石を割ったのは、お前だ。責任からは逃れられないぞ。」
「古い封印石割って、実際に封印を解いたのはあんたでしょ。」
「ああ、だから責任取るのに付き合ってやる。」
「だめだ、完全にイカれてる。お姉さん、あんたならなんとかできるでしょ。なんの手立てもなしに封印石を売りに来ないでしょ。」
「確かにそうね。使い捨ての道具だけど、ここから緊急脱出することはできるわ。でも、無駄遣いは趣味じゃないの。」
「あいつは頼りにならないし、お姉さんだけが頼りなんだ。」
「そう?私、投資商品を見る目はあるのよ。」
後ろから不穏な言葉が聞こえる。助けてくれなんて言えない。むしろレイアには付き合ってもらって感謝したいぐらいだ。
商人見習いとはいえ、プロを名乗る以上、プライドを持たないといけない。情けをかけて損を被ったら、それは商人として失格だ。
ただ、目の前で窮地に陥った人間を、プライドにかこつけて見捨てる奴は人として失格だ。
そして、俺は今、窮地になど陥っていない。
だから彼女の選択は正解なはずだ。いや、オレが正解にしてみせる。
目の前の煙は、既に一つ目の顔を形成し、分厚い緑色の胸板と、3メートルはあろうかという木槌が徐々に現れてくる。
杖での殴り合いは、リーチの差で負けそうだ。そうなると飛び道具で勝負するしかない。
「おい、ライ、俺に応援の一つでもよこしてくれないのか。」
「こんな時にそんなことできないよ。」
「こんな時だからこそだ。」
「じゃあ、勝ってよ、まさ。」
「おう、任せろ。」
覚悟完了。ショタコンの気持ちがわかる気がするな。
俺は、杖を奴の胸板に向けて、想起する。イメージは大砲だ。もう、奴は膝まで具現化し、一つ目はこちらを睨んで今にも動き出しそうだ。
「レイア、風を飛ばす魔法はあるか。」
「風を飛ばす魔法?そんなのでいいの?普通は、ウサギに飛ばして、気絶させるくらいにしか使えないわよ。」
「それで十分だ。そいつの呪文は。」
「エアブラストよ。」
「わかった。」
ついに、足の先まで具現化し、サイクロプスは右手の木槌を振り上げる。あれに当たったら、死にはしないだろうが、痛そうだ。
だが、遅い。
「エアブラスト!!」
オレは、照準を定め、力ある言葉を放つ。
「な!」
ライが驚きで目を見開く。奴の胸板には、直径1メートルを優に超える風穴が開いていた。そして、そのまま真後ろに倒れる。
ズン!!
心臓が頭とかにでもない限り、即死だろう。モンスターが、動物と同じ構造しているかは知らんが。
「ほら、言ったろ。任せろって。」
「そんなの信じられるわけないじゃない!?でも、本当にやっちゃった。まさは一体何者なの。」
「異世界の裁判官さ。」
「異世界の裁判官って、強いんだね。」
こうして俺は、日本の裁判官の誤解を生みつつ、一仕事を終えたのだった。
さて、ここから仕上げといきますかね。
数少ない戦闘シーン。自分に緊迫した殴り合いの描写とか無理っす。




