トラブル対処はお手の物
胸糞と子供にちょっと冷たい展開ですが、この後報われるようになっているのでご安心を。
「入り口で待ち合わせだけど、まだ来てない様ね。」
そう言って、レイアは入り口近くの柵に馬車をつなげて、御者台から降りる。
「悪いわね。付き合ってもらっちゃっ て。」
「いいってことさ。契約したし、急ぐ旅でもないしね。」
待つこと、30分ほど。二人で他愛もない話をしていると、チンピラ風の男と、小学校高学年くらいの男の子が歩いてくる。
「てめえが取り立てちんたらしてっから、待ち合わせに遅れちまったじゃねえか。」
「スミマセン!!」
オイオイ、児童虐待で児相に通告するぞ。
チンピラが男の子に怒鳴り散らしながら、こちらに近づいてくる。おそらく、あれが待ち人であり、レイアの顧客だろう。
「スミマセン。 お待たせしてしまって、こいつがとろいもんだから。お前も謝れ。」
チンピラがレイアにひいこらしながら、男の子の頭を無理やり下げさせる。
「いえ、こちらも商売ですから。これが封印石、100万ルクになります。ところで、この封印石は滑りやすくなってますし、封印台に設置する前に空気に触れると劣化しますから、メンテ袋は本当にいらないのですか。流石にただとは言いませんけど、セットなら1万ルクになりますが。」
「いいです、いいです、こいつにチャチャっと、封印台に設置させますから。」
「じゃあ、せめて、 封印台の近くで受け渡ししましょう。」
「それもいいですよ、さっさと取引、終わらせてしまいましょう。」
卑屈な割にやたら急ぐな。何か、隠したいことがあるのか。
「さ、これが代金の100万ルクです。こら、お前、ぼさっとしてねえで、さっさと受け取れ。」
そういうと、男の子が持っていた袋二つのうち、一つをひったくり、レイアに渡すと、男の子に封印石を受け取らせようとする。
レイアは、お金を確認した後、慎重にメンテ袋から、封印石を取り出すと、男の子に手渡す。
「滑りやすいから、気を付けてね。」
レイアが男の子に注意を促すが、男の子にとっては、封印石は背丈の半分ほどの大きさもあり、抱え込むと前が見えなくなるほどだ。重いのか、封印石を持った男の子の足元がふらつく。
「おせえんだよ、クソガキが。」
チンピラは、男の子の背中を蹴飛ばす。
「あっ!?」
案の定、男の子は、そのはずみで封印石を落としてしまう。パリンという音を立てて、ものの見事に封印石が割れてしまう。
「おっめえ、何してくれてんだよ。」
更にチンピラが男の子を蹴飛ばそうとする。レイアの顧客とはいえ、もう限界だ。
「そこらへんにしたらどうですか。」
俺は、 男の子とチンピラの間に出る。
「あぁ!?てめえ、レイアさんの護衛だか、なんだか知らねえが、なんのつもりだ。オレがこいつをどう扱おうと、関係ねえだろ。」
「ええ、なんの関係もありませんよ。封印石が壊れたのも、渡した後に落とした、この子のミスですし。」
この子が脅されていることは明らかだし、チンピラがこの子の背中を蹴飛ばしたのも原因だが、この子が封印石を落として割った事実に変わりはない。理不尽だが、どういう責任が生じるかわからせてあげた方がいいだろう。
こっちの様子を見て、更に苛立ったチンピラが吠える。
「だったらなんだってんだ!?」
「俺は、子供に責任を押し付けて素知らぬ顔をしている大人が嫌いなんだよ!」
そう、これは単なる私情。
「へー、だったら、なんだ。その責任を大人さまのお前が取ってくれるってか。そうじゃなきゃ、こいつを奴隷商に売り飛ばす。」
俺は、チンピラを無視して、レイアに尋ねる。
「レイア、いくつか聞かせてくれ。この子を奴隷商に売るといくらになる。」
「その年頃の子供だと、200万ルク位かしらね。」
「ふむ、この村は、大体、何世帯?」
「前回来たときは100世帯くらいだったけど、一年経っているから多少は前後するかも。」
「ありがとう。おい、君は名前、なんて言うんだ?」
今度は男の子に話しかける。
「ライ。」
「じゃあ、ライ。オレはまさだ。村の人から全部でいくら取り立てた?」
「よく覚えてない。」
「じゃ、金貨でいうと何枚ずつだ?」
「2枚ずつもらったよ。」
「レイア、封印石をいくらで仕入れた。」
「70万ルクよ。」
「ふむ。」
チンピラがしびれを切らして、すごんでくる。
「何、ごちゃごちゃ言ってんだよ。責任取るのかどうか、はっきりしやがれ。」
「じゃあ、こうしましょうか。私がこの子の代わりに賠償します。」
「じゃあ、100万ルク払いな。 」
「いえ、私が払うのは70万ルクです。」
「ああ!足りねえんだよ。」
「3割は、過失相殺です。封印石が壊れた一因は、あなたがメンテ袋を買わずに、ライの背中を蹴ったからでしょう。 」
「そんなん受け入れられるか!?」
「そうですか、村人は封印石の代金が100万ルクであることをご存知なんでしょうかね?」
「何が言いたい?」
チンピラが相変わらずすごんでくるが、さっきより勢いがない。法廷では、そういう顔をした奴が負けるんだよ。
「来年も、いい取引ができるといいですね。」
簡単な話だ、こいつは封印石代金を中抜きしている。しかも、半分もぼっている。トイチの闇金も真っ青だ。
モンスターに追われながら、30万ルクしか利幅がないのに、購入を代行するだけで100万ルクも儲けていいはずがない。
封印石の正規の値段が100万ルクだとバレれば、このチンピラはこの役目から引き摺り下ろされて、もっと安く、他の者が引き受ける事になるだろう。
一方で、何もしなければ毎年100万ルクも儲かる話を、200万ルク程度の奴隷取引の代わりに、こいつが手放すわけがない。
「てめえ、脅す気か。てめえがバラさねえって保証もねえだろ。」
「そもそもこの話、 私自身に1円の得もないのにそんなことするわけないでしょう。バラすつもりなら、何も言わずに他の村人に告げるだけですよ。」
「じゃあ、70万ルク、すぐ払ってもらおうか。」
「それはできません。私に手持ちはありませんから。」
「はあ!?話にならん。」
「レイア、モンスター倒したお礼、今もらっていいか?」
「いいわ。」
「じゃあ、こうしましょう。明日までに払えなければ、あの馬車を馬付きで差し上げます。」
そう言って、二頭引きの、レイアの馬車を指し示す。
「明日までに払われても、払われなくてもあなたに損はない。これでどうですか?」
「明日までに逃げねえって保証もねえだろ。」
「疑り深い人ですね。なんなら、コントラクティアも交わしましょうか。」
「おう、だったらそうしてもらおうか。」
「まさ、コントラクティアはここじゃ使えないわ。」
レイアが心配そうに呟く。
「大丈夫だと思うよ。ちょっと、さっきの取引の契約書もう一度、見せて。」
そう言うと、レイアは契約書を馬車の荷台から取り出して見せてくれる。
知らない言語で書かれているが、癖で字を指でなぞりながら追っていくと、封印石を毎年100万円で売り渡す旨と、その受け渡しは使者でも可能なこと、レイアの主人とこの村の村長が自身の意思で署名していることがわかる。
「ほう、これは便利だ。魔法で読み取ることができて、しかも誰が署名したか明確だ。」
「ええ、文字を知らなくても契約できるし、個人の魔法痕跡が残るから偽造は不可能よ。それに、署名時の異常も読み取れるようになるから、脅して契約すると必ずバレるわ。」
日本にもこれがあれば、 二段の推定なんていらなくなるのに。
「よし、これならいけそうだ。コントラクティア!」
力ある言葉に応じて、 新たな契約書が浮かび上がる。
「え!」
貴重なレイアの驚いた表情が見られる。
文字が読めなくてもなんとかなるとは思ったが、意味までわかるならほぼ確実と踏んだ俺の予想通りだ。
「コツがあるんだよ。後で教えてあげる。」
契約書は日本で腐るほど見たが、俺が作るのは慣れた和解条項を基にしている。内容はこうだ。
1 甲は、乙に対し、本件解決金として70万ルクの支払義務があることを認める。
2 丙は、乙に対し、前項の債務を連帯保証する。
3 甲及び丙は、乙に対し、連帯して、第1項の金員を明日の正午限り、支払う。
4 丙は、乙に対し、前項の債務の担保として、馬車 (二頭の馬付き)の引渡義務があることを認め、同馬車を明日正午限り、引き渡す。
5 甲及び丙が、乙に対し、連帯して、明日正午限り、第3項の金員の弁済の提供をしたとき、乙は、丙に対し、第4項の債務を免除する。
6 甲、乙及び内は、本契約条項に定めるもののほか、甲乙間、乙丙間に何らの債権債務がないことを相互に確認する。
丙の署名欄には俺の名が、既に記されている。乙はチンピラの分、甲はライの分だ。
ちなみに、甲乙丙はこちらの世界の言葉に置き換わっている。
自分は、甲乙丙丁戊までしか見たことなくて、詳しいことはわからないが、元は陰陽道からきていると思われるこの言葉が、こちらの世界では何が使われているか興味がある。
だが、まずは目の前のこいつだ。
「じゃあ、チンピラ。ここに指を置いて。」
「チンピラじゃねえよ。ジャンだ。」
「名前なんてどうでもいいから。とりあえず指置いて。」
「ちっ。」
チンピラが舌打ちしならが、契約書に指を置くと、乙の欄が光り輝いて ジャンの名前が浮かび上がる。
「じゃあ、次はライの番だ。」
「でも、ぼく、70万ルクも払えないよ。」
「大丈夫。信じられる大人もいる。」
本当は、子供が無条件に大人を信じられる世界が理想なんだが。
ライが、恐る恐る契約書に指を置くと、同様に甲の欄にライの名前が浮かび上がる。
「じゃあ、これで契約成立です。明日の正午にまたここで落ち合いましょう。それまでにお金は用立てておきます。」
「おう、逃げんなよ。」
そうすごんで、ジャン、じゃなかった、チンピラは何処かへ消えていった。
「レイア、すまないな、勝手に馬車を担保にして。」
「それは構わないのだけれど、私から70万ルク借りて、そのまま支払ってしまえばよかったんじゃないかしら。」
「それだと、ライが責任を取ったことにならないだろう。子供であっても、落とし前はつけさせる。」
それを聞いて、ライがびくっとする。子供に優しいばかりじゃ、成長は促せないからな。
「そう、でもお金の当てはあるの?」
「それはこれからだ。ライ、村長のところに案内してくれるか?」
「わかった。」
裁判ってのは、法廷も大事だが、その前に勝負がほとんど決まると言っても過言ではない。
さて、本番のための仕込みに行きましょうかね。
文中に出てくる条項は、あんまり正確じゃないので、真似しないでください(小説から真似る人、いないかな)。




