目を覚ましたら、そこは
何番煎じかの転生ものですが、楽しんでいってください。
「ん、ここは?」
俺は、気付くと草原の真ん中の木の根元に座っていた。
「確か、夜間当番で緊急逮捕状にハンコを押して…その後、どうなったんだっけ?」
ボーッとする頭で、ゆっくり記憶を辿ってみる。
「そうだ、当番が終わって、裁判所を出ると、髪を振り乱した女性に包丁で刺されたんだ。」
よくも旦那を、とか言っていたから、俺が緊急逮捕状を出す前に逮捕された被疑者の奥さんだろう。
包丁の刃体の長さが12センチ以上あったから、現行犯だな、とか思っていたら、その時には刺されていた。
DV夫の件だったら、刺した奥さんをむしろ救ってあげてた方だし、実際に逮捕したのは警察だし、何なら自分が出したのは緊急逮捕状だから、逮捕された時点では自分は無関係なのになぁ、などと益体のないことを考える。
その後の記憶はない。 即死でなければ、病院に搬送される記憶があってもいいものだが…
起訴状に死亡確認時の病院と時間を書かれるのが通常なのに、即時同所で死亡させ、などと書かれてしまうのだろうか。
そんなことよりも記憶がない以上、仕方がない、現状の確認をしよう。迷ったら目の前の記録に立ち戻る、裁判官の鉄則だ。
ざっと周りを見渡したところ、建物は何もない。あるのは目を覚ました所にある木と草原だけだ。
さらに自分はなぜか法服を着ていた。 令状当番で、庁舎内に待機していたから、法服を着ているはずもないのに。そもそも刺されていたなら、着ていたとしても法服は治療のために脱がされていただろうし、死亡していたなら、服どころか、解剖のために体まで切り刻まれていただろう。
「奇跡的に助かったのだろうか。」
殺傷能力の高い鋭い切っ先の包丁で、身体の枢要部である鳩尾を深く一発。その後も何回も身体の枢要部を刺されていた。
だとすれば、出血性ショック死に真っしぐらだろう。速攻で確定的殺意が認定されそうな状況を無駄に思い出す。
そうすると、現世で助かった可能性も皆無に等しい。
傷はどうなっているのだろう。
刺された記憶のある腹部の辺りを法服の上から触ると、
「い”って”~」
治ってなかった。
生きていることは確認できたが、その場合、傷も治っているものではないだろうか。
今度は法服の下から、直接、腹部を恐る恐る触ってみる。
パックリ穴が空いている感触がする、いわゆる刺創というやつだ。
なぜか血は出ていないようだが、このままにしておけば、助かった命も現時点をもって死亡確認だ。
せっかく助かった命。
いずれかの場所に飛ばされ、その目的を遂げなかったものであると、殺人未遂に認定落ちさせてやる。そのためには…
「どうすればいい!?」
とりあえずパニクって周りを見渡してみると、杖が落ちている。
現世じゃ、鈍器くらいにしかなりそうにない、ファンタジー小説に出てくるような、先がグルグル丸まったものだ。
ところで、突然だが、現世では自分も似たような状況を描いた小説を読んでいた。
死んだと思ったら、 異世界に飛ばされていた、いわゆる転生ものというやつだ。
傷口が痛み出してパニクっていたことと、記憶の混乱から、その杖をひったくるように掴んで、こう叫んだ。
「ケアー」
あ、噛んだ。この仕事、しゃべってばかりなのに、噛み癖は治らんな。
ちなみに、自分は、F〇ではなく、ドラ〇エ派だ。でも、なぜか、今はこの回復魔法が使える気がしたんだ。
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