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バス停二駅分

作者: 羽生河四ノ
掲載日:2023/08/23

 埼玉県に住んでいます。国際興業バスの路線のある所に住んでいます。最近知ったんですが、国際興業バスはコクバと慣れ親しんだ人たちの間では言われているそうです。愛称とでも言いますか。それで私ももうそれなりに長い事国際興業バスさんの御世話になっておりますから、この話では親しみを込めてコクバという愛称で呼ばせていただきたく思います。


 これは、この今からするこの話は、今年の夏の話です。まだ夏ですけど。まあ初夏の頃の話だと思ってもらえるとよいかと思います。残暑が厳しい現在とは違って、夜になると若干涼しくなる時があったりして、あの頃はまだ過ごしやすかったし、今年の夏がこんなに厳しいものになるとは思ってもいませんでした。そんな時期の話です。


 その当時の私というのは何かこう、夏というもの、これから来る夏というものに対しての準備というか、追い立てられているというと、乱暴かもしれませんが、何かこう、あったんです。夏というものに対しての感情。大き目感情の事です。例えば、スマホで見るGooglechromeのディスカバリーに、ダイエットに関しての情報が出てくるような。そういう事です。


 だから、いつも二駅先のバス停まで行って、そこから歩いて家に帰るというような事をしていたんです。手前のバス停だと近いんですけども、うち、我が家、うちの集合住宅のある所から、先のバス停二つだと、程よく距離があって、まあ、それ位はした方がいいのかなあ。ディスカバリーでもなんか色々と出てくるしなあ。なんて。


 だから、いつも二駅先のバス停まで行って、そこから家まで歩いて帰っていました。コクバは、他のバス会社はどうだか知りません。乗ったことないので。でもコクバには、IC定期券というものがあって、例えば、230円区間であれば、それで全部乗れます。みたいな制度があるんです。その定期券を買う際、suicaを持ってコクバの営業所に行って、用紙に、ここからここまで、浦和駅から田島団地まで、みたいなのは書きますけども、でも、それが230円区間の間であれば、田島団地より先に行ってそこで降りても別にいいんです。そういうのです。


 うちの近くの集合住宅で降りても、二駅先で降りても、それが230円区間の内であれば、大丈夫。追加料金は取られない。仮に240円区間まで行って降りても、差額の10円がとられるだけ。IC定期様様だなあ。っていう感じ。


 だから、二駅先まで行って、そっから歩いて帰っても大丈夫なんです。二駅前でもいいは良いんだけど、ちょっと家までの距離が近すぎるし、車の行き気が気になる。だったら二駅先まで行って、歩道がある所を歩いて帰ったらいいじゃない。あとはまあ、私の貧乏性みたいなのがあるでしょう。二駅前で降りるのは損してる気がするみたいなのが。貧乏性ですね。


 そんな事を今年の初夏やってたんです。ディスカバリーが夏を知らせてきた。夏になると毎年出てくるけど、ダイエットの情報が出てくる。夏を予感させる。じゃあ、まあ私も無理しない程度の事はした方がいいのかなあっていう気持ちになる。家に帰っちゃうともう何もしなくなる。家に帰るまでにやれることがいいなあ。浦和駅から家まで歩いて帰るか? いやそれは面倒だ。無理。無理は続かない。無理じゃない程度の事。


 じゃあ、些少だけど、二駅分歩く? それなら出来るかな。まあ出来ない事はないんじゃない。心の中での言い訳というか、理由付けも出来る。kindleで本を読んでたら降り過ごしちゃったことにしたらいい。


 私って埼玉に来た以前は千葉に住んでいました。その千葉では日々の色々なストレスから読書をしてたんです。多少ね。読書家なんて言うつもりはないです。でもまあ、新刊も買ってたし、ブックオフにも行ってたし、ゲオも、ワンダーグーとか、千葉鑑定団でも本を買ってたし、そう言う所で色々と本を買っては読んでました。ですが埼玉に引っ越したくらいからどうもね。本とかあんまり読まなくなったんです。でも、最近kindleで、kindleのおかげで、読書とまた友達になったんですね。本と。再会して。で、コクバのバスとか、JRとかで、隙間時間っていうんですか。そういうのをkindleに当てたら、これがもう、隙間にピタッとハマったみたいな感じになって。私とkindle。


 だから、最近はもう移動中はずっとkindleってるんです。初期の頃は車窓を眺めるのもいいよ。そういう余裕も必要だよ。なんて思ってましたけども、いやあ、ダメですね。一文字、二文字、ちょっと。ちょっと始めるともう、止められない。やめられないとまらない。それはなんか飛行機が飛び立つ時に似てる気がします。飛んでおいてすぐに着陸は出来ない感じに。コクバのバスが来るのを待ってる間、ふとスマホを出す。kindleを起動する。読んでる本の読んでた所が自動で出てくる。読んじゃう。バスが来て乗り込んでも読んじゃう。目的地に着くまでずっと読んじゃう。


 だから、二駅先のバス停まで行ってしまって、そこから歩いて帰るのも、これのせいにしたらいいじゃんと。精神衛生的な観点から。どうして目的地のバス停で降りないんだ。いやkindleのせいで。そういう理由付けがあると、いいじゃないか。ダイエットの為って言うとちょっと恥ずかしいけども、でもそれだったら仕方ないなってなるかなあ。なんてね。


 で、そんな感じの事を始めてすぐ、すぐの頃でした。あ、別に誇るつもりも自慢するつもりもないんですが、二駅分歩いて家に帰ってる時はスマホは見てません。所謂歩きスマホ、今はそれも言い方が違ったりするのかな。歩ホとか言うのかな。まあ、いいや。そういうことはしてません。しないと決めてます。そんなに褒められたことじゃないでしょうけど。あるいは、そうやって常に情報を収集しようとしている人、自分はぶつからないと絶対の自信がある人からしたら、時間を無駄にしていると思ったりするかも知れません。私は無理なんです。だってすぐに没入しちゃうんです。一個の事、二個いっぺんに出来ないタイプなんで。だから、歩いている時はスマホは見てません。車に轢かれます。だから、だからっていうか、その代わりに、周りの事を眺めるようにしている。しました。風景です。コクバでしなくなった車窓を眺める奴のまあ、代替えだと思ってもらえるといいでしょうか。


 二駅先のバス停から、家までの間の風景。途中畑もありますし、学校もあるんです。交番もあります。あとコンビニもありますし、スーパーも。あと家。それから、私の家みたいな集合住宅も。えーっと、マンションであったり、あと、まあ、アパートであったり。


 そう言うのをまあ、眺めながら、勿論まじまじと見たりはしません。そういうのって不快に思う人もいらっしゃるでしょうから。あくまでもなんとなく。なんとなく眺めるのがいいかなと。しっかりと記憶にとどめておこうとする事よりも、なんとなく見たり聞いたりしたものの方が、不意に思い出したりとか、ありそうじゃないですか。そういうのって。


 帰り道。夜。家までの、自分が住んでる所までのバス停二駅分。車も通りますし、人もいます。自転車で脇道から出てくる人も当然います。でもまあ、悪くないでしょう。そういうのも。


 そういうのも悪くないなって。こういうのも悪くないなって。思いました。


 最初に見たのはいつの事だったのか、そういう新定番を始めてから一週間くらい経ってからの事だったのかな。よく覚えてないんですけども。


 そこにはアパートがあったんです。いや勿論アパートあればマンションもあります。家もあります。いっぱいあります。全部そうです。田舎の話じゃない。私本籍地は秋田で、田舎の出身なんですけども、田舎はね、田んぼとか畑とかで家が無いところもそれはあります。秋田なんてあれです。人が住んでいる所よりも自然がある所の方が多いんじゃないですかね。熊とか鹿の方が人口よりも多そう。


 でも、これは埼玉の話ですから。埼玉の浦和、浦和駅からコクバが走ってるエリアの話。それはもう人もいるし、自転車もいるし、車も走ってるし、家もあるし、マンションも立ってるし、アパートも。


 そのアパートの一室。の、ベランダ。私はよくわからないんですけども、洗濯が干せるベランダがついてるのはアパートっていうんでしょうか。それともそれはもうマンションなのか。よくわかりませんけども。とにかく規模としてはアパートみたいな。そういうのがあって。二駅分遠いバス停から家までの道程の間に。


 そのアパートの二階、三階だったかな。のベランダがあって。単に物干しざおだけ設置できるのとは違う。室外機がぶら下がってるだけのとは違う。洗濯ものが干せる。ベランダがついてる。アパートの二階だったか、三階だったかの一つに。そこで、人がね。居たんです。そこに。ベランダに。


 どうしてそれを見た。見つけた。見えたのかと言えば、動いていたからです。それ。その人が。ベランダで。ジャンプ。ぴょんぴょんと。ベランダで。人が。夜。夜と言っても深夜じゃないです。街灯もあるし。街灯。秋田に比べたらあるでしょうね。だから、見えた。見た。目がね、視線が動くものに反応したんじゃないかなって。思うんですけども。


 カーテンは閉じられてました。いや、あれ、カーテンなんてついてなかったかも。その部屋の窓には。えーっと、暗い。暗かったのは覚えてるんです。


 最初見た時、暗い中でなんか居るなあ。って多分そういう感じで思ったんじゃないかな。あの時。


 その隣の隣の部屋のカーテンはしまってました。でも部屋の中が、中に、電気がついてたんで。だから、明るかったんです。でも、そのジャンプ、ぴょんぴょんと跳んでる、人がいる。ベランダは暗くて。部屋の電気もついてなかったし。消えてたのかな。でもカーテンもついてなかったような。ついてたんだったかな。


 暗いベランダの、アパートの二階、だったか、三階だったか、の真ん中だったか、左側だったか、右側だったか、の一つの部屋のベランダで、ベランダに人が居て。人です。暗かったけど、でも、真夜中じゃないし、埼玉ですし、浦和からコクバが走ってるエリアですし、夜中になっても真っ暗にはならないです。ならないんです。だから、見えたんです。


 真っ暗なベランダの、部屋にも明かりがついてない。ベランダの、ベランダに。人が居て。それがぴょんぴょんと跳ねてて。ぴょんぴょんって。ほんとに。その場で。ただ、ぴょん、ぴょんって。


 最初に見た時は何してるんだろうな。ってそういう感じでした。確か。そんなに深く考えてなかったって言うか。家に帰ってからの事を考えてましたし。洗濯しなきゃとか。明日の準備もしなきゃとか。


 次の日も、二駅先のバス停まで行って、そこから家まで歩いたんです。昨日の事なんて忘れていたんじゃなかったかなあ。だから、同じアパートの、昨日と同じ、ベランダ、部屋が暗い。電気がついてない。カーテンはどうだったか、どうだったかなあ……。


 同じ部屋のベランダに、また人が、同じ人だったと思います。シルエットが同じ、同じでしたから。いや確証があるわけじゃないんですけど。ちらっと見るだけ。視界に入っただけですから。まじまじと見るのもねえ。あっちが私の視線に気が付いたりするかもしれないでしょう。だから、ああ、で、とにかくそれが、その人がいた時、昨日の、前日の事を思い出したんですね。また、人がいる。ぴょんぴょんしてる。何しているんだろうなあ。真っ暗な。ベランダで。部屋の電気つけたらいいのになあ。って。


 その次の日もその人は、いました。夜。ベランダに。真っ暗なベランダに。ベランダで。ぴょんぴょんぴょんって。してて。毎日してるんだなあ。って思ったんです。あの人毎日ベランダでぴょんぴょんしてるんだなあって。何してるんだろうなあって。


 あ、


 カーテンはしてなかったんですよ。カーテンは無かったんです。無かった。真っ暗な部屋で。カーテンのない窓に、ベランダの窓に、街灯の光が反射してました。カーテンはしてなかったんです。


 その次の日も、その人は、ベランダにいました。ぴょんぴょんと。いつもと同じです。跳ねてました。その日もそれをこう、見ながら、見て、視界に入ったんで。だから、見てたんです。そしたら、その日だったかな。次の日だったかな。次の日も、勿論その人はベランダにいて。ぴょんぴょんと。してて。


 いつだったか。次の週だったかな。よく覚えてないんですけど、玄関っていうか、その、アパートの一階っていうか、何だろう。人が出てきたんです。そのアパートから。ゴミを手に、ゴミ袋を手に持ってました。燃えるごみの日だったかなあ。明日、あ、次の日が燃えるごみの日だったんだ。


 私はなんとなくずっと視界にぴょんぴょんと、跳ねる人を、いやだってぴょんぴょんと跳ねてますし、視界に入るじゃないですか。それを見てたんですけども。アパートの一階の所に人が出てきて、だから、それに目が行ったんですね。ゴミ袋を手に持ってました。その人が、男の人だったと思うんですけども、その人とね、なんか目が合っちゃって。目が、それで、その人、ゴミ袋を持ったまあ、私の事をじっと見てて。


 何でしょう。えーっと、異様な。私を見る目が。驚いてて。ゴミ袋を持ったまま、固まってて。ちょっとそれが、それで、少しして、視線が。視線が、上に。動いたんですよ。上。ベランダ。ベランダに。あの人がいるところに。ぴょんぴょんと跳ねてる。真っ暗なベランダで。カーテンのない。真っ暗なベランダで。夜。


 それから、男の人、そのゴミ袋を持って出てきた男の人の立ってるすぐ横にそのアパートの柱が、柱かな、とにかくなんかあって、そこに、入居者募集中って。看板があって。はってあって。


 その時だったかな。その時だったかなって。私。あ、ヤバいって。思って。あ、ヤバいんじゃないかなって。それが。えーっと、それが。あれが。あれは。あそこは。あの部屋は。あのぴょんぴょんしてる人がいる。あのベランダのあの部屋は。どうしてカーテンが無いのか。部屋が暗いのか。あそこが空室だからじゃないかなって。あの部屋。あの部屋は。あのぴょんぴょんしてる人がいる。ベランダにいるあの部屋は。


 それから、見なくなりました。その次の日も、その次の日も。


 それからもずっと、二駅分。歩いて帰ってましたけど。そのベランダの方は見なくなりました。いや、短絡的にそんな風に考えるのはバカみたいだと思いますけども。勿論勿論。それは思います。でも、ただ、私はただ、二駅分歩いて帰ってるだけなんですもん。それがしたいだけ。夏に。夏に向けてね。ちょっとしたことです。Googlechromeのディスカバリーがダイエットの事を出してきたから。だから、及ばずながら、ちょっとしたことを私も夏に向けてやれたらいいなって。それだけ。それだけなのに、余計な事に、なんか変な事になるのは嫌でしょう。


 だからね、見なくなりました。見なければいい。視界に入らなかったらいいじゃないですか。日によっては帰り道をちょっと変えてみたりとか、そういう事もしました。スーパーに行くから。とか、今日はコンビニに行くから。とか、松屋に行くから。とか。そういう理由で。


 でもね、あれは、いつぐらいだったかなあ。一か月くらい経った、経ってたかなあ。


 スマホのねGooglechromeのディスカバリーに『ゆるジャンプダイエット』っていうのが出てきたんです。なんかいいらしいよって。それが。ゆるジャンプダイエットっていうのはなんかその場でぴょんぴょんとジャンプしたらダイエットに効果的っていうものらしいんですけども。


 でね、それを見た時思ったんですよね。


 ああ、あれは、これだったのかなって。あの人は、ゆるジャンプダイエットをしてたのかなって。そうしたらね。驚いたんですけど、自分でもびっくりしたんですけども。怖くなくなったんです。馬鹿みたいだと思いました。自分の事を。ただゆるジャンプダイエットをしてただけの人を見て、勝手に幽霊だなんて思ってた自分が恥ずかしいって。怖くなくなったっていうかなんとも思わなくなったっていうか。勝手にこっちが過剰に反応してただけだったんじゃんって。馬鹿みたいって。恥ずかしいって。


 だからね、その日、二駅分先で降りて、久々に、その人の事を見てみようと思って。最初は我慢してね。アパートが見えてくるところまで我慢して。で、アパートの前まで行って、パッと、視線を、目をね、上に、そこに、あのベランダに。見たんです。


 目の前にあの人の顔がありました。


 見上げた視線のすぐ目の前に。


 それで、


「ずっとみてただろ」


 って。


 それで、それから、その後はもう、二駅分歩くのもやめちゃったんで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ぴょんぴょんとベランダで跳ねていた人影も視点人物の視線には気づいていて、気づいてからは意識していたのですか。 一方的に見る側だとばかり思っていたら、実は相手もこちらを見ていたというのは、確…
[良い点] タイトルが◎。『駅』が入ってるから駅ホ思い出せて懐かしめですの。 コクバねっ┐('~`;)┌♪ 使っていただけて嬉しやです。 その、ぴょんぴょん跳び跳ねていたベランダの怪しい幽霊(❔)…
[良い点] 種が分かると、ホラー的な怖さは無くなるけど、代わりに「いつも見ている気持ち悪い奴」という評判を得る訳ですか。 やはり挨拶をするのが正しかったのでしょうね。あるいは何をしているか尋ねるか。な…
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