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公爵令嬢の幸せな夢  作者: IROHANI
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6.5、ワタクシの物語2~ヒロインはグロリア~

 グロリア・キルッカに転生したと気付いたあの日から、ワタクシの新たな人生が始まった。数日、様子を見られながらベッドで過ごしている中で、今後をどうしていくのかを再び考えていたワタクシは小説の内容を思い出そうとしていた。


 ヒロインのグロリアは、公爵家の次女に生まれたのに周りからはないがしろにされていた。父は跡取りになる長女ユリアナにばかり関心を持ち、次女のグロリアには興味無し。かと思いきや、末っ子は可愛いのか三女アマリアは甘やかして我儘も許していた。母も同じで、特にアマリアには甘くて好き放題させていたようだった。そんなのだから家の使用人達もきっとグロリアは適当に世話をすればいいとでも考えたのだろう。実際に今の状況がそんな感じなのだから、小説でもそうだったのだと思う。


「あの小説は全部読めなかったのよね……」


 悔やむべきは完読出来なかった事だろうか。今となっては読む事が出来ない小説のあらすじや感想コメントなどを何とか思い出しながら整頓していこう。


 グロリア・キルッカは家族や周りから虐げられていた。王家主催の舞踏会にも連れて行ってもらえず、ひとりぼっちで暗い部屋で過ごしている。三姉妹での格差は大きく、完璧な姉からは見下されて我儘な妹にはすべてを奪われながらもまっすぐ立つことができていたのは、優しい婚約者のおかげだった。しかし、その婚約者にも裏切られ絶望の淵に立たされる。

 そんな中、我が家に隣国の王太子と北にある辺境伯家から縁談が舞い込む。浮かれた妹はどちらも自分宛だと思い込み、隣国の王太子妃になるのは当然自分であると主張。いい噂の無い粗暴な田舎者の辺境伯など愚鈍な姉のグロリアにお似合いだと無理矢理に嫁がせる。

 そこでもグロリアは、社交界の花である妹が来ると思っていた辺境伯に「君を愛することはない」と言われるも、屋敷で共に暮らすうちに彼女の優しさや慎ましさに惹かれて愛され愛し合う仲になる。

 一方、隣国に嫁いだ妹は、そこでも我儘し放題で問題ばかりを起こす厄介者として離宮に閉じ込められてしまう。自分がこんな目にあっているのは姉のグロリアのせいだと思い込み、暗殺者を送り込むも計画は周りにばれており失敗。隣国と我が国の王家に見捨てられて処刑される。

 愛する娘を奪われた公爵家は怒りで謀反を企むが、こちらも失敗。連座で一族すべてが処刑に決まるが、心優しいグロリアのおかげで公爵家の者達以外は助かり、何とか減刑された公爵家一家は平民にされ落ちぶれていく。

 グロリアは辺境伯に愛されて本来の自分を取り戻しその美しさと優しさから聖女と称えられ、この国の至宝と呼ばれ幸せにすごしましたとさ。めでたし、めでたし。


「うん、確かこんな感じだったはず」


 自分なりにまとめたけど、大体はあっていると思う。感想コメントにも、二人の関係が切なく甘くてキュンキュンするってあったし、番外編は隣国と自国の王太子が実はグロリアに思いを寄せていた話らしい。

 第二王子は姉と結婚していたから、一緒にざまぁされちゃって可哀そうだよね。もしかして謀反を起こしたのも第二王子を王位につけるためだったりして……。

 あ、ちなみにグロリアの元婚約者は姉の愛人になって、あっさりと捨てられていました。まぁ、姉に騙されていたみたいだし、一応は幼馴染でもあるらしいから助けちゃおうかな?

 第二王子も姉なんかと結婚しなかったらよかったのにね。そもそも、王太子のスペアとかで王家に残るのが普通じゃないの?よくある野望だけ大きいバカ王子で、公爵家にいいように操られていたという可能性もあるよね。その辺は実際にどうだったかはわからないから、今は保留にしておこう。


 ワタクシ好みのざまぁも逆ハーレムもある、愛されドアマットヒロイン……。

 それがグロリア・キルッカ公爵令嬢。


「はぁ……、夢のようね」


 そう、夢で終わせるわけにはいかない。ワタクシの人生がハッピーエンドで終わるためにも、完璧な人生設計を立てねばならないのだ。


「誰にも知られるわけにはいかないわね」


 ベッドから出られるようになったら、さっきまで考えていた事をノートにでもまとめてしまおう。日本語で書いてしまえば、きっと誰にも読む事は出来ない。それとも、別の言語がいいかしら?あえてローマ字で書いてしまうのも面白いかもしれないわ。


「後から読み直すのが大変そうだから、日本語でいいわよね」


 自分の考えに苦笑いをこぼし、目を閉じて夢の中へと沈んでいく。今はこの状態から早く抜け出すのが、きっと最善なのだろう。あぁ、物語の始まりが今から楽しみだわ。


 ワタクシはグロリア・キルッカ。

 ハッピーエンドが約束された、この物語のヒロインなのだ。






 様子見されていたワタクシも、ベッドから出る事が許されて一月程で以前と同じ生活に戻っていた。以前と変わった事と言えば、ワタクシのまわりに侍女達や護衛が増えた事だろうか。


 ちょっと、何これ監視ですかぁ?


 何処に行くのにも付いてきて妙な動きをしないかと見張られているかのようなこの状態に、前世が元一般人なワタクシには耐えられるわけがない。父と母に訴え、何とか侍女を一人だけにして欲しいと頼み込んで一番信頼されているのであろうマリタを専属侍女につけられた。離れた人達からも未だに監視されているような気もするが、あの状態よりはマシであろう。そう自分に言い聞かせワタクシはヒロインへの道を着実に進んでいく。


 まずは人生設計ノートだが、とりあえず覚えている事などをお絵描きに使っていたファンシーなノートに書き連ねておく。意味の分からない落書きばかり描かれているが、こんなのでもまわりからはグロリアお嬢様は天才だとか褒められていたような気がする。今のワタクシの字は前世ほど綺麗に書けるはずもなく殴り書きの歪な字だが、かえってこの方が落書きに紛れ込ませてカモフラージュになるのかもしれない。

 もう少し大きくなれば字もまともに書けるようになるだろう。その時は鍵付きのノートを買ってもらえばいい。

 もしかしたら理由を聞かれるかもしれないが、お姉様の持っている鍵付き日記帳に憧れたとでも言えばいいだろう。自分もお姉様みたいに日記を書きたい、お姉様に憧れているとでも適当に姉をおだてれば、姉も悪い気はしないんじゃない?

 頼まなくても日記帳ぐらいならくれるかもしれないけど、姉は跡取りとしてそういうのも書かないといけないだけなのかしらね。誕生日に母から受け取っていて、高級そうに見えたけど地味な日記帳だったわ。


「できればワタクシにはもう少し可愛らしいノートでお願いしたいわね」

「お嬢様? 何かおっしゃられましたか?」

「ん……なんでもない」


 俯いて小さく言葉を返し、ワタクシは再び落書きノートに目を向ける。幼児の書いたわけのわからない落書きの続きに、適当に丸を並べて落書きをして遊んでいるように見せかける。


 もう少し大きくなってから前世を思い出す方がよかったわよね。


 八歳くらい……いや、六歳くらいになればワタクシにも家庭教師がつくかもしれない。姉はそれぐらいから勉強やら何やらを始めている。

 なら、ワタクシにもそれくらいから?それとも、要らない次女には家庭教師をつけるお金も勿体ないって放置されるという線もありえる。教えられなくても本さえ読めれば何とか知識は得られるだろうし、計算とか数学系は前世の知識で何とかなるから文字さえ読めるようになればいい。

 女性の主な仕事って社交っぽいし、最低限のマナーぐらいはさすがに母が教えるなりしてくれると思う。ほら、母ってば元王女だしプライドとか高そうだし、自分の娘がこんな事もできないなんて恥だとか考えて公爵令嬢としてこれぐらいはってところまでは教育してくれるだろう。


「なるようになる……かも?」


 ぼそっと呟いたワタクシの言葉は誰に拾われることもなく、この広い部屋の空気に溶けて消えて行った。


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