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公爵令嬢の幸せな夢  作者: IROHANI
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4、キルッカ領へ

 王宮にある『転移の門』を使い、わたしは領地へと向かうことになる。『転移の門』とは魔道具のひとつで、名前のとおり転移するために使う。遠方にある領地を持つ貴族の屋敷にはほとんどが設置されており、他には王家が管理する重要な場所にもあった。


「アマリア、あちらでも無理をしてはいけないよ」

「グロリアの事は私達がしっかりと見ているので心配いらないからね」

「ありがとうございます」


 護衛の一人に抱き上げられ、侍女見習いのメーリや数人の使用人達に囲まれて門へと近づく。見送りに来てくださったクリスティアン殿下と第二王子のクラウス殿下に手を振り、わたし達はわずかに光りだした門の中へと吸い込まれるように進む。不思議な感覚がしたのでとっさに目を閉じたがそれは一瞬で消え去り、恐る恐る目を開ければ見たことのない部屋へと着いていた。門からは光が消え、そこに静かにたたずんでいる。みんなが動き出し、わたしも護衛に抱き上げられたままでまわりを見ていると「大丈夫ですか?」と上から声が聞こえた。


「アマリアお嬢様、苦しかったり気持ちが悪かったりなど、お身体に変わりはありませんか?」

「だいじょうぶ。変なかんじがしたけど、すぐに治ったよ」


 笑顔で答えれば、心配そうにしていた顔が緩み安心したみたいだ。メーリも近づいてわたしの顔色の変化をうかがっている。


「大旦那様と大奥様にご挨拶に参りましょうか。その後で念のためにお医者様にも見てもらいましょうね」

「うん。おじい様とおばあ様にごあいさつする!!」


 意気込むわたしをみんなが微笑ましそうに見ている。いろいろなお話を教えてくれる祖父母に会えるのが楽しみだった。


「グロリアも一緒だったらよかったのに……」

「……元気になられたら、すぐにお会いできますよ。アマリアお嬢様はこちらで少しの間お休みして、元気なお姿をお見せできるようにしましょうね」


 こちらに来たのはわたしだけで一緒に行くのだとグロリアは最後まで粘っていたが、母に諭されて王都に残った。手紙を書くと約束をし、ぎゅっとお互いを抱きしめあえば離れたくなかったが、このままでは『転移の門』を使う約束の時間に遅れてしまいそうだと離されてそこでお別れをした。「いってらっしゃい」「いってきます」と言葉をかわし、わたしだけが王宮へ向かったのだ。

 手紙だって書くし、元気になればすぐにでも会えるだろう。なのに、不安な気持ちが晴れないのはどうしてなのか……今まで一緒に居たから、さびしいだけなのか。


「がんばるね!」


 いつまでもメーリ達を心配させるわけにもいかない。まずは元気になること、それがわたしにできることなのだから。






「おお、アマリア。いらっしゃい、待っていたよ」


 部屋に入れば扉の近くでおじい様が待ち構えており、嬉しそうに抱き上げた。頬ずりしている顔はでろでろに緩んでおり、声も弾んでいる。わたし達三姉妹に会うといつもこのように抱きしめて、なかなか離してくれない。まわりも苦笑いで見ているだけだ。そこに穏やかだが強い意志を感じる凛とした声が、おじい様の動きを止めた。


「あなた、このままではアマリアと挨拶できませんわ」

「す、すまんなサンドラ」

「えぇ、久しぶりに会えたのですから仕方がありませんわ。でも、可愛い孫に私も会いたかったのです。アマリア、疲れたでしょう? さぁ此方に座って、おばあ様にも顔を見せてちょうだい」


 おじい様は抱えていた私をソファーに座らせて、ご自身は向かい側に座っているおばあ様の横にちょこんと座った。大きな身体を少し縮めて、微笑んでいるおばあ様の様子をうかがっている。背筋がピンと伸び淑女らしく優雅に座っているおばあ様の真似をして、わたしも背筋を伸ばしてからお辞儀をした。


「おじい様、おばあ様。ごぶさたしております。本日より、こちらにて過ごすことになりました。よろしくお願いいたします」

「えぇ、いらっしゃいアマリア。初めて訪れるでしょうが、此処は我が領内にあるキルッカ家の城になります。あなたのお家でもあるのだから、ゆっくりと過ごしなさいね」

「そうじゃぞ。お前の家なのだから好きに過ごしたらいいんだ」

「ありがとうございます」


 お二人とも歓迎してくださり、そのまま一緒にお茶をいただきながらお話をする。療養に来ているのだからと休むように言われたので、準備が整ったわたしの部屋へ下がることにした。

 わたしの部屋は日当たりがよく窓からは綺麗な庭園が見える。家具なども王都の屋敷にあった物と似ていて、隣にはグロリアの部屋も用意されていた。わたしは今までこちらに来たことはなかったが、父はもちろん母も姉もこちらで過ごしていたことがある。そう、家族がこちらに訪れてくることもあるはずだ。すぐにとはいかないだろうが、こちらで一緒に過ごせるかもしれない。グロリアが来るまでにいろいろなことを覚えて教えてあげよう。いつもは手を引いてもらっていたが、その時はわたしが手を引いて案内してあげるのだ。

 ベッドにもぐりこみ、これからの楽しみを考え目を閉じる。次にグロリアに会えるのはいつだろうか?

 楽しみができたことでさびしさが和らいだ気がする。うつらうつらと微睡んでいき、夢でグロリアに会えたら嬉しいなと思いながら、わたしの意識は沈んでいった。



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