38.5、ワタクシの物語4~神の愛し子グロリア~
十五歳になり、王立学園に入学する事が決まった。この学園には三年間通い、それぞれが自分に合った専門的な授業を受ける事ができる。貴族としての基礎的な知識は幼少期から家で学ぶので改めて学ぶ必要はないのだが、うちみたいな公爵家のように裕福な家ばかりではないので、下位貴族や平民などが学べるように基本授業に組み込まれている。クラスを分けて基本授業はそこで受けるのだが、残りの授業は自由に選択することで各々が必要とする授業を取る。
どうせクラス分けなんて上位貴族、下位貴族、商家出身や平民ぐらいで分けられるんでしょう。ワタクシは公爵家なので王族や上位貴族がいるクラスになるのよね。
「アマリアと同じなんて嫌なんだけどな」
こればっかりはしかたがないことだけど、嫌なものは嫌なのだ。学園でも自分は可哀そうな子だと演じてワタクシを追い込もうとするのかもしれない。いや、絶対にするでしょう。意地悪な姉に健気な妹をアピールして、周りにはメソメソと泣きついていい子ぶるに決まっている。そのくせ、影では姉を虐める傲慢な妹。三年生にはユリアナも居て、可愛い末っ子を虐める次女を注意する正義の味方にでもなるのかしら。
「第三王子もいるのよね」
学年は一つ上なので会うことはないかもしれないけど、生徒会長とかしてそうだし側近になる人達もいる。宰相息子、騎士団長息子、魔術師団長息子とかよくあるざまぁ小説に出てくるよね。嫡男ではないけど、第三王子の側近に居た気がする。そこに平民特待生ヒロインがいて、悪役令嬢がざまぁされるのよ。
「この場合は、悪役令嬢はユリアナね」
この国には王子ばかりで王女はいない。だから一番身分の高い令嬢は、元王女の娘で筆頭公爵家の長女ユリアナ。他国の王女がいればそっちになるかもしれないけど、確率的にはこっちが高い。でもユリアナには婚約者もいるから、ここは第三王子の婚約者である侯爵令嬢の方があっているのかもしれない。
それとも、嵌められたワタクシが悪役令嬢になってしまうのかしらね。そうなってもワタクシなら逆ざまぁで大逆転ね。だってワタクシは……。
「聖女なのよ」
皆に愛される王国の至宝、この物語のヒロインである聖女グロリア。
ヒロインはワタクシだと決まっているのだから、こんなことを考えているなんて時間の無駄よ。時間は有限なのだから、有効に有意義に使っていかねばならない。ワタクシと同じクラスに在籍するこの方々のように、選ばれた特別な存在はそのような無駄に時間を過ごすことなどしないのだ。
聖女のワタクシは特別な使命を持った少数精鋭のこの特殊クラスに在籍している。みな、何かに打ち込むようにそれぞれが行動しており、声を掛け合ったり交流することはなかった。特別な貴人を守るのは当然なので、まわりには専属侍女や護衛、王国騎士団の精鋭達まで配属されている。
「当然ね」
ヒロインであるワタクシが世界の中心に居るのも当たり前。自分がヒロインであると勘違いしている平民女も、逆転勝利できると信じ続ける悪役令嬢も、自分中心な馬鹿で愚かな姉妹もワタクシをヒロインたらしめるスパイス程度でしかないのだ。三年後のあの舞踏会が本当の物語の始まりになる。
「しょせんそれまでは序章にすぎないの」
まぁ、可哀そうなあんた達にはこの序章のヒロイン役ぐらいは譲ってあげるわ。
「真の主人公は真の物語に登場する」
だからそれまでは、真のヒロインであるワタクシが優しく微笑んで見守ってあげましょうね。
学園で過ごす三年間など、あっと言う間に過ぎ去っていった。特に変わった出来事なんて無く、しいて言うのならユリアナとアマリアからの嫌がらせが鬱陶しかったぐらいである。
ユリアナは学年も違うし、卒業までの一年間を我慢すればいいだけだった。でもアマリアは同い年で三年間同じ、さらに第三王子の婚約者である悪役令嬢を味方に引き込んだのか、彼女やその取り巻き達の嫌がらせが加わった。
教科書や授業に必要な道具を隠されたり捨てられたり、噴水に落とされそうになったり、水をかけられたこともあったわね。定番の階段から落とされるイベントが無かったのは助かったわ。さすがに命を狙われるようなイベントは起こしたくなかったけど、階段から落ちるふりをしてあいつらを卒業パーティーで断罪してやるのも面白かったかもしれない。婚約者達に泣きながらすがるけど、悪役令嬢達は見向きもされず捨てられるの。アマリアは悪事にだけはずる賢いから逃げ切るけど、憎しみで顔を歪めてワタクシを再び地獄に落とそうと企むに違いない。
あんな醜悪な妹と血が繋がっているなんて、神様はなぜアレをワタクシの半身としてお生みになったの?
神の愛し子である聖女グロリアの半身には相応しくないあの女はもうすぐ断罪される。己の罪を自覚することなく、のうのうと生きているゴミ達を早く処分してしまいたい。
「物語は始まったわ」
そう、偽物の序章は終わり真実の物語が幕を上げたのだ。




