32、アグレッシブ令嬢は自称ヒロイン
学園には原則ひとりの侍従などを連れて行ける。他の手段として生徒として一緒に学園に通わしたり、申請が通れば増やしたりもできる。王家に連なる者には密かに護衛もつくのでクレメッティ兄様やその婚約者のレベッカ様、そして姉や私にもついている。私はメーリを侍女として連れているが、彼女の親戚になるカティが生徒として通っていた。カティは女性騎士であり侍女見習いでもある。基本クラスは違うが、休憩時間などは私と一緒に行動していた。
今日は学園にある温室に来ていて私は植物に囲まれる事で癒されていた。
「ここは天国でしょうか……疲れが飛んでいきますわ」
「まぁ! アマリア様ったら本当に植物がお好きなのですね」
ここにはテーブルがあり、今は三人で小さなお茶会をしていた。リラックス効果のあるハーブティーとそれに合うクッキーを並べてひと息つく。
「でもアマリア様のおっしゃる事は本当ですわ。植物に囲まれると心がリフレッシュするようです」
「そうですわね。それにここはあの方達が近づかないそうですので、もうひとつの安全地帯でもありますわね」
なぜか<ヒョウイシャ>の方達はこの温室には近づかないそうだ。今まで報告されてきた彼らの行動は分析されデータとして蓄積されている。とある<ユウゴウシャ>の方が研究をしているそうだが、彼は温室には興味がなくて近づかなかったらしい。今在籍している<ヒョウイシャ>の方達も興味がないだけなのかもしれない。それでも今のところはここがオアシスである事に変わりはない。
「あの方達が苦手とする植物でもあるのでしょうか?」
「そのような物が植えられているとすれば興味があります!」
「温室自体に彼らが拒絶してしまうような魔法や魔道具があるのかもしれませんわ!」
私とレベッカ様はついまわりを見渡してそれらしき物はないか探してしまう。ソフィア様は私達の行動が面白かったのか、笑うのを我慢していた。
「お二人ともそんなに目をキラキラさせて……ふふっ」
「わ、笑ってくださってかまいませんわ! でもそんな魔法や魔道具があったら面白いではないですか」
「そうです! 新種の植物の可能性もありますわ」
笑いのツボに入ったのか扇子で顔を隠しているが、その手が震えているのが見えている。まわりにもこの和やかな空気が広がっていき、メーリ達も微笑ましそうに私達を見ていた。
ソフィア様が落ち着いてきた頃にお茶会を終わる事にして、さっと片付けて余裕をもってクラスに帰ろうとしていたら温室内に甲高い声が急に響いて驚いた。
「ちょっとぉ! なんでアンタ達がここにいるのよ!」
そこにはリッリ様が腰に手を当てて立っており私達に対して怒っているようだが、どうやって現れたのだろうか?
「あ、あなた……どうやってここに入ってきましたの?」
「外には護衛騎士達がいたはずですわ」
外にいた護衛もここにいる誰にも知られずに近寄るなど、ただの令嬢ができるとは思えない。私達は護衛騎士達に守られて一歩下がった。緊迫した雰囲気の中で聞こえてくる声は今のこの状況をわかっているのかいないのか余裕そうだ。
「そんなのどうでもいいでしょ! え、ってかそこのお兄さんイケメンじゃん!」
急にきゃぴきゃぴとしているが今の空気を読んで欲しい。口の端が引きつりそうだ。
「で・も、アタシには隣国の王子様がいるから! ここで初めて接触する『イベント』があるんだよねー♪ だから『悪役令嬢』はお呼びじゃないのよ!!」
『悪役令嬢』とは私達のことだろうか?今は自称『悪役令嬢』さんはいらっしゃらないので、たぶん私達の中の誰かを指しているはず。ちなみに、隣国の王子様にあたる方はこの学園に在籍しておられない。いったい、どなたの事をそう呼んでいるのやら。
「王子様はお忍びでこの学園に来てるの! 本来は『隠しキャラ』なんだけど、ここで接触しておかないと後から攻略できないのよ! で、王子様はどこ? まさかアンタ達、アタシの『イベント』の邪魔をする気!? だいたい、レベッカったらいつの間にクレメッティ様と婚約してんのよ! とりまきなんて作って偉そうにふんぞり返ってさ……ふふっ、さすが『悪役令嬢』さまさま! きゃぁぁっ! レベッカ様達がいじめてきますぅ! 助けてアタシの王子様!!」
もう、何も言えない。この方も妄想の中で生きていらっしゃるのだろうけど、さすがにレベッカ様の事を馬鹿にするのは許せない。ソフィア様もそう思われたのか怒っているのが伝わってくる。
「おやめくださいレベッカ様! アタシはなに……もがっ!?」
ついには後ろから口を塞がれて強制的に連行されていった。もがもがと何か言っているが、暴れる手足を抑えられて最終的には気絶させられている。
「申し訳御座いません。行動の記録のために少々泳がせていましたが、もっと早くこうするべきでした」
「かまいませんわ。殿下のご指示でしょう? ご苦労様です」
レベッカ様と護衛騎士のやり取りを横目で見ながら、私はリッリ様が急に現れたあの時の事を考えていた。あれは魔法ではないだろうが、魔道具のような物を使った可能性もある。ただ、そういった用途で使う魔道具を持つ事がリッリ様に許されているとは思えない。ならば、あれは……。
「もしかして『魔術』かしら?」
私が零した言葉に、お二人もまわりもいっせいにこちらを見るので驚いてしまう。
「ごめんなさい。不用意な発言でしたわ」
「いえ、こちらこそ驚かせてごめんなさい。でも『魔術』ですか……なるほど」
「転移などの術ではないかと思いましたが、あくまで可能性のひとつですわ」
術が開花する者は滅多に現れない。だから回復術士も数人しかいないのだし、他の術士も数えるほどだ。でもリッリ様かその中にいるもうひとつの魂の方なのかはわからないが、どちらかの術である可能性も捨てられないだろう。
この事はすでに王家で調べられているかもしれないが、兄様達は何もおっしゃっていなかった。リッリ様が上手く隠していて今まで発覚しなかっただけなのか……。私がこうやって考えても今すぐ答えなど見つからない。
「この事はすぐに報告をいたしましょう」
「そうですわね。もしかしたら、もしかするのかもしれません」
そうなったらリッリ様への監視の目は厳しくなる。誰かに利用されないようにするため、表に出られなくなるかもしれない。少し可哀そうでもあるが彼女自身を守る事にも繋がる。
それにしても、せっかくのオアシスがとんでもない場所になってしまった。今日の事件により、ここも安全地帯ではなくなってしまった。私達はいつになれば穏やかな学園生活をおくれるのだろうか。
翌日、ひとりの女子生徒が学園から姿を消した。




