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公爵令嬢の幸せな夢  作者: IROHANI
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22、それは私の願望

 泣き終わった顔は酷いもので鏡に映った自分の顔を見て苦笑いした。両手を目のあたりに当てて魔力を流していけば、熱を持っていた瞼がひんやりとする。冷気を操る魔法と『回復術』を合わせたこの治療法はこういう時にも使えて便利だ。そっと手を離してもう一度鏡をのぞけば、そこにはいつもと変わらない私が映っていた。


「よかった。これで泣いた跡も腫れも消えたから大丈夫そうね」

「アマリア様、水分も補給してください」


 用意してもらった冷たい果実水を半分くらい飲んでほっと息を吐く。カランと聞こえた氷の音に、そういえばこの音だったのだなと思い出しながら残りをゆっくりと飲み干した。


 さて、頑張るとは決めたがどのように頑張っていけばよいものか悩んでしまう。姉がそばにいれば相談もできるが……いや、姉ならばまずはフェルン様をバッサリと切りに行きそうだ。そう口撃だ。あの淑女の微笑みで精神的に追い込んでいきそうである。

 カトリーナ様ならどうされるのかしら。あの方は絶対に諦めるなんて事はなさらないだろうが、こういった時のアドバイスがぜひ欲しい!

 グロリアならどうする?私の恋の話はしても彼女のそういった話は聞かない。あの短い活動時間では恋をする時間などないのだろうけど、いつか一緒にお互いの好きな人の話をしてみたい。アンノさんは、うん。あの人はいつだって『ヒロイン』だった。


「カトリーナ様おすすめの恋愛小説でも読もうかしら……」


 まずはこの本をきちんと読み切って参考にできるところは取り入れてみればいいのではないかな。

 序盤で読むのを止めていた本を開けば、途中に挟んだ押し花のしおりに目がいく。何年も前に作ったこのしおりには淡い水色の花を使い、青紫色の細いリボンをつけている。こんなところにまでフェルン様を連想する物をつけていたなんて、無意識の恋心とは恐ろしい。


「はぁ、読もう……」


 熱くなっていく頬に開いた窓から入る風が心地いい。誤魔化すように呟いて、私はゆっくりとそれを読み始める事にした。




 こちらに来てからは食事をみな様とご一緒させていただいているのだが、そうなるとフェルン様もそこにはいらっしゃる。祖父とエサイアス様は魔獣狩りに出かけてそのまま野営だとはりきっていて帰られなかったそうだ。エルネスティ様達がお話されているのをニコニコと聞いて、家族団らんを邪魔してはいけないからと早めに退出させてもらった。私の笑顔の違和感にヒルダ様はお気づきになられたかもしれないが、今はフェルン様と一緒にいては落ち着く事ができない。どんなに頑張ると決めても、まだ『妹』という言葉が私の頭から離れてくれそうにないのだから。

 次の日の朝、いつもの日課の散歩をするために外へ向かう。昨夜はまた色々と考えてしまいモヤモヤしたまま寝たせいか少し寝不足だ。こちらの朝はまだ少し冷えるので薄手のストールを肩にかけておく。ただこのひんやりとした空気が心地よくて頭がすっきりしていくのを感じる。ヒルダ様曰く必要最低限しかない庭を歩いて行き、あの可愛らしい小さな庭にたどり着いた。ここには好きに入っていいと許可はいただいているので、毎日飽きもせずに通わせてもらっている。

 ここだけ切り取られたようなこの庭にいると私だけ別の世界にいるようだ。メーリは私の邪魔をしないようにアーチの外で待ってくれている。風が吹いて花が揺れているのをなんとなしに眺めていれば、誰かがこの庭に入ってきた音がした。


「フェルン様?」

「おはようアマリア嬢。ずいぶん早いな」

「おはようございます。朝の散歩は毎日の日課なのです」


 アーチからゆっくり私の方に近づいて来たフェルン様は軽装で腰に剣をさげている。汗でうっすらとシャツが透けて肌に貼りついているのが目に入り、恥ずかしくてすぐに目を逸らす。


「剣の訓練でしょうか?」

「あぁ、俺も朝の日課だな。アマリア嬢が遠くに見えたから、こちらに来てみたんだ」

「そうなのですか。えっと、これで汗を拭いてください。そのままでは風邪をひいてしまいますわ」


 私の目に良くないので今すぐ汗を拭いて着がえて欲しい。髪をかき上げた姿がかっこよくて、色気がすさまじい!お子様の私にはまだ早いのです!

 熱が上がらないように心の中で「平常心」と何度も唱えながらハンカチを渡した。


「こ、これで汗を拭いてくださいませ」

「いや、これはアマリア嬢のハンカチだろう。汚すわけにはいかない」

「いいのです! ハンカチは汚すためにあるものですわ!」


 だから早くその色気をしまってください。私が熱を上げて倒れる前にお願いしたいです。

 私の願いが届いたのかハンカチは受け取ってくださり、さっと顔や首の汗を拭ってそのまま服にしまわれた。


「ありがとう。後日、洗って返そう」

「気にされなくてもいいですのに……」

「いや、汗で汚してしまった。せっかく可愛らしい刺繍をしたハンカチだったのに、すまない」


 刺繍……たしか青紫の花を刺繍したハンカチだ。王宮にある『北の温室』で見たあの青紫の花が忘れられなくて、ひと針ずつ丁寧に刺繍したのを覚えている。


「フェルンに咲く花だった……ここには咲いていないが森を抜けた先にある花畑に咲いているから、アマリア嬢にも見せてあげたい」


 あの青紫の花だと気づいてくださった。どこか嬉しそうにされているその顔に、私の胸も高鳴る。


「そろそろ戻ったほうがいいかな。お手をどうぞアマリア姫」


 差し出された手にどうするべきなのかと考えたが、これはチャンスなのだと言い聞かせて手を乗せる。壊れ物を扱うかのように丁寧に手を引かれ、まるで大切にされているかのように錯覚してしまう。横から見上げれば目が合って楽しそうに笑っている。

 これは妹を引っ張っていく兄の図なのかしら?またからかっている?

 それでも、その目が妹を見ているのとは違うように感じたが、それは私の願望だったのかもしれない。

 青紫の目に熱がこもっているように思ったのも、きっと私の気のせいだ。



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