12、二度目の気持ち
お茶会は終わり、気分転換にでもとクレメッティ兄様が温室を案内してくださる。結局、殿下達の事は公の場以外で『兄様』と呼ぶ事になった。少し離れた場所に護衛達が立っているが、私達は二人で話をしていた。
「今日は兄上達が強引に呼び出して、本当に申し訳ない」
「かまいませんわ。お久しぶりにみな様にお会いできて嬉しかったです」
一応、外で話をしているので口調は改めておく。
「それにしても、そのご令嬢はどうやって監視の目をくぐり抜けて来られたのか……」
「現在確認できている<ヒョウイシャ>の中で、彼女だけアグレッシブすぎてね……」
「彼女の目的はその……言いづらいのですが、殿下の婚約者になる事でしょうか?」
「昨日の行動を見ればそうなのかもしれないね。うん、考えたくないけど……」
「歳が同じなので学園ではグロリアと一緒になるのですよね……今から不安です」
「…………」
殿下は遠い目をしていらっしゃる。一応<ヒョウイシャ>も学園に通う事ができる。ただし、監視付きで<ヒョウイシャ>だけをひとつのクラスにまとめるそうだ。あと五年後だが、それまでにグロリアが<ユウゴウシャ>となってくれたら安心だ。でも『アグレッシブ令嬢』は<ユウゴウシャ>になるとどうなるのだろうかと考えてみたが想像するだけで怖い。
「今は忘れようか。さて、ここは北の温室で魔道具によって北部の環境を作り出し、そこでしか育たない植物が見られるんだ」
「まぁ、素敵ですね!」
見た事のない植物が目の前で生き生きと育っている。北部と言えば北の辺境伯家が治めている地域だ。『魔の森』と『天山』と呼ばれる頂上が見えない高い山があったはずだ。中央大陸の北部は『魔の森』で覆われており、辺境伯家は『魔の森』の管理をしていて魔獣狩りを生業としていた。その森と山にはいまだ見た事のない植物が生えているのだろうか。そうであるのならこの目で見てみたい!!
「これは、第三王子殿下」
温室に私達以外も誰かがいたようだ。私は殿下の後ろに控える。
「エドヴァルド殿。あなたも温室に?」
「北の温室は北部にあるフェルンの地を思い出させてくれるので……」
目の前にいるのは北の辺境伯家嫡男のエドヴァルド・フェルン様だ。黒髪に青紫色の目をしたこの方は、あの日一度だけお会いしたあの男の子。殿下とお二人で話されているのをそっとうかがえば、目が合った。
「申し訳ありません殿下。お二人の時間を邪魔してしまったようですね」
「私達はそういう関係ではないから気にしないでくれ。ほら、あなたも知っているだろう? キルッカ家のアマリア嬢だよ」
「キルッカ家三女のアマリアです。昔、一度だけ我が家の庭でお会いしましたが覚えていらっしゃいますか?」
覚えていらっしゃらなかったらどうしよう。私はあの日の事は今でも鮮明に思い出せるが、この方にとっては日常のひとコマでしかないのかもしれない。
「えぇ、覚えていますよ。改めまして、フェルン家長男のエドヴァルドです。大きくなられましたね。それに……」
彼は目線を合わせるようにそっとしゃがんで、私の顔色をうかがっている。
「健康になられたようで良かった」
鋭い目元を緩めて笑ってくださったのも、あの日と同じ。
フェルン様は姿勢を戻し、殿下と私に挨拶をして温室を後にされた。六年ぶりにお会いしたあの方は、背も身体も大きくなっていて大人の殿方に近い。緊張したのかドキドキしている。お会いしたのは二回目だから初対面のようなものだ。私は姉のユリアナのように人見知りではないのだが、この感覚は何なのだろうか。頬に片手を当てて首を傾げる。
今晩、グロリアにこの事を相談してみよう。
王都に滞在する一週間は、夜の寝る前にグロリアと過ごせる。彼女の負担を考えて短い時間だが、直接話が出来る大切な時間だ。
「王宮には温室があって、そこには見た事のない植物がたくさんあったの!」
「魔道具によってその土地の状態を再現しているそうだな。すごい魔道具があるものだ」
「そうなの! そこで昔、我が家の庭で遊んだ事のあるフェルン様にお会いしたの……」
「うんうん」
「それでね……えっと、なんだか緊張しちゃって……ドキドキが止まらなかったの。これって、私も人見知りという事なのかな? フェルン様にお会いしたのも二回目だし、年上の方だし……」
もごもごと言い訳のように喋ってしまったが、グロリアの意見はどうだろうか。
「アマリア、それはきっと……」
きっと?
「人見知りだ! そういうところはユリアナお姉様に似たのだな。うんそうだ」
「そっか。やっぱりそうだったんだね」
何かを誤魔化すように頷くグロリア。メーリやアイラも微笑ましいものを見るような、そんな感じだ。
「アマリアにはまだ少し早いな……うん。フェルン様だったか? たしか真の魔王と言ってわたくしからアマリアを奪ったあの時の男だ」
「グロリア、何か言った?」
「何でもないぞ!」
気になった事も相談できてすっきりした。今日のおしゃべりはこれでおしまい。両手を握り合って額を合わせ、笑顔で「おやすみ」の挨拶をして私達は別れた。




