8、グロリアからアンノへ
――王都にあるキルッカ家の屋敷は、夜の静寂に包まれている。暗い部屋の中でゆっくりと動き出す影の正体は、グロリア・キルッカであった。もちろん本物のグロリアであり、この時間からが彼女の活動時間になる。
「アイラ、居るかい?」
「グロリア様、ここに……」
夜間の護衛兼侍女のアイラを呼べば、音もなく側に現れた。それはどうやっているのだろうか?わたくしにも教えて欲しいものだ。
「さて、今日はアマリアに一週間の報告をせねばな」
窓際にある机に向かって、アマリアの好きそうな可愛い花柄の便箋を並べる。彼女の事を考えながら便箋を選ぶのも楽しい。選んだ青い花柄の便箋を見つめて、何から書くべきかを考える。
グロリアの中に潜み続けたあの人は、名前を『アンノ・キッカ』というらしい。この世界では、わたくしは<ヒョウイシャ>になるそうだ。世界という大規模な話になるのは理由がある。<ヒョウイシャ>という存在は稀に現れるそうだが、ある時期からその量が増えているらしい。ここ、百五十年間くらいは世界そのものが平和で安定している。そう、この平和の期間から何故か増えだした。
彼ら彼女らは前世の記憶を持った転生者と自らを名乗る。それも此処ではない別世界からの転生だと言うではないか。その知識は確かに豊富ではあるが、何故か物語の主人公なのだと勘違いしている。その知識は別の事に生かして欲しいものだ。
勿論、それを生かしてこの世界に貢献してきた者達もいる。彼らのおかげで発展していき、平和で便利な生活がおくれているのだ。死後、彼らは賢者の称号を得ている。ただ、そのような者達は一握りしかいなかった。
<ヒョウイシャ>には二つの魂が肉体に入っている。そして、そのままどちらも存在し続ける事は出来ない。いずれ、どちらかの魂が肉体から消えてしまうのだ。そうならないためには魂同士で話し合い、魂を同化させて<ユウゴウシャ>とならなければいけない。
「わたくしもそれを目指しているのだが、なかなかに道は険しい……」
残念な事に、アンノ・キッカには話が通じない。わたくしにはアンノ・キッカのすべてが筒抜けで、心の声も聞こえている。だからわたくしの声も届いていると思っていたのだが、呼びかけても反応がないのだ。いつも彼女の願望と言うのか妄想が流れ込んでくる。夢を見る乙女のようなそれに苦笑いしか浮かばないが、わたくしの家族や大切な人達を罵倒するのは許しがたい。特にアマリアを目の敵にしており、あの子を我儘な甘ったれだと言うではないか。
「アマリアは頑張り屋さんなのだぞ」
現実を見ていないあなたの方が、甘ったれだと言ってやりたい。いや、心の中で言っているのだから、あの人に届いていないだけだった。あぁ、悔しい!!
「ふあぁ……眠いわ」
昨日は早く寝ているのに寝不足なのは何故かしら?身体も疲れが取れていない様な、OL時代を思い出させる状態だわ。
こんな時は、あの人生設計ノートでも読みましょう。
そっとページをめくっていけば、何だか変な絵が描いてあるのに気づく。文字かしらこれ?不思議に思ったけど、そんな事より早く読みたいわ!
読み進めていけば、やっぱりワタクシがこの世界の『ヒロイン』なのだと改めて自覚する。
「今日もいい一日になりそうね……」
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(アマリアはわたくしの大切な半身だ 馬鹿にする事は許さない!!)
アンノ・キッカがこの文字を理解する日は、きっと来ないだろう。




