表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
退魔師ユキちゃんはふたりでひとり! -激突! 退魔道 vs 滅魔道!-  作者: 桜エルフ
第三章「どこから来たの閻婆?」「どこに行くの閻婆?」
16/34

第十五話「結局謹慎!?」「かかってきた電話のわけ!」

「さて、ユキ。遅くなってしまったが、今からお前の処遇などの話を改めて申し渡そう。少し付き合ってくれ」


今日わたしが学校から帰ってきて、最初にパパにかけられた声がこれだった。

 パパは、昨日の夜に滅魔師(めつまし)連盟(れんめい)の偉い人とお話をしてきたって、ママは話していた。昨日はそのまま、わたしはお風呂に入って寝ちゃったし、朝はパパに会えなかったので、一晩ぶりにパパを見ることになるんだけど……。


(……あいつってば、やけに白髪が増えてる気がしない? それに、しわも増えているような……)


 わたしの中で「ワタシ」が言うとおり、パパはすっごくげっそりしていた。

 ちなみに、このあとママから聞いた話だと、滅魔師連盟の連盟長さんに意地悪なことを言われて、それで大変なお仕事をすることになったみたい。詳しくは、話してくれなかったけど。

 今日はお客さんはいないから、小さなちゃぶ台の上に、お茶と和菓子……今日はお饅頭(まんじゅう)を乗せて、そこから話が始まる。

 パパは、湯呑みに入れたお茶を一口飲んでから、切り出してくれた。


「まずは、巨鳥の妖魔の……閻婆(えんば)の件から話そう。ひとまずのところ、閻婆(えんば)をチヤちゃんと迎え撃ってくれたことはよくやってくれた。すぐに私たちに『随錦(まにまににしき)』の術で救援を呼びかけ、それまでの間二人で持ちこたえて、無傷であれほど強大な妖魔を追い払ったのは大手柄だぞ。ユキたちのもたらしてくれた情報で、相手の正体も閻婆(えんば)だと分かったからな」


「うん」


 お饅頭を一口噛んで、わたしはうなずく。けれども、お饅頭の中のあんこの甘さは、いつもほどには感じられない。


「でも、あの閻婆(えんば)って、様子が変だったんだよね。最初、わたしたちと戦う前も、地面をごろごろ転がってたみたいだし、チヤちゃんの『鷹』の『弓』でちょっと翼を撃たれただけでも、またわけが分からなくなっちゃってたみたいだし。その原因は、昨日のお話でも分からなかったの?」


「ああ。何かその話につながる手がかりでもないかとザンエ殿に……滅魔師連盟の連盟長にも聞いてみたが、何も知らないとのことだった。ザンエ殿も、今回の閻婆(えんば)の出現には驚いているようだった」


 と、こう話していたところで、わたしの中の「ワタシ」が、表に出たいと言い出した。

 わたしはパパに一言ことわってから、目をそっと閉じた。


□■


「ちょっと待ちなさいよ。向こうの連盟長も何も知らないって、そんなことがあり得るの?」


 次に目を開けたとき、ワタシの瞳は赤から緑へ、ワタシの髪は栗色から銀色に、色を変えていた。


「私との話で、お前の方が出てくるとは珍しいな」


 シロガネは……一応ワタシの父親ということになっている男は……そうは言うけれども、すぐに話を続けてくれた。


「私とて意外に感じたが、ザンエ殿は昨日、我々の前ではっきりそう言っていた。どうも、何やら隠し事をしている雰囲気も感じられたが、詳しいことは分からずじまいだ」


 ワタシは、一つ鼻を鳴らして、聞き返す。


「そこを突っ込んだりはしなかったわけ?」


 とそこで、ワタシの父親のこめかみのあたりが、ひくひくと引きつるのが、ワタシのヴァンパイアの瞳に映る。この体の五感は、「わたし」に比べればずっと鋭く、このぐらいの観察なら造作もないことだ。


「私もその追及は考えた。だが、そこでザンエ殿が持ち出してきたのが、よりにもよってお前たちのやった絡新婦(じょろうぐも)の件だ」


 あー……そういうことね。ワタシは内心で、ワタシの父親のこめかみが引きつった理由に納得していた。


「どうやらザンエ殿は、チヤちゃんの口からお前たちが絡新婦(じょろうぐも)を逃がしたことを聞いていたらしい。それをまさか、あの場でザンエ殿の口から、他の退魔師たちに知らされるとは、私も想定していなかった。そしてその体たらくでは、閻婆(えんば)の件は退魔師連盟には任せられないとバッサリ切り捨てられ、そのまま会合は終了というわけだ」


 そのことを思い出し、こめかみをけいれんさせつづけるワタシの父親には、思わず私も肩をすくめた。


「相手の腹の内の痛い部分を遠慮なく突いて、その隙に話をすり替えられたと……。ザンエってのも、なかなか大したクソジジイね。そんなのが連盟長をやってるんなら、チヤがあんな根暗女になるのも腑に落ちるってものよ。腑に落ちたものが、そのまま腹の奥底で跳ね返って、反吐(ヘド)になって出てきそうなくらい納得ね」


「お前の言うことについては、一部分のみ同意しておこう。……いずれにせよ、今回のお前たちの処遇についてどうするかは、他の退魔師からも私の口からの説明を求められた。今は閻婆(えんば)という強大な妖魔の出現が報告されている緊急事態のさなかだが、さすがにそれを理由に、これ以上お前たちへの処遇決定を延期するわけにはいかん」


 ワタシの父親は、十分に高級品と言えるはずの茶葉を使ったお茶を、ひどくまずそうにすすった。

 さて、ワタシにとって面白そうな話もこれで終わりっぽいし、それじゃあワタシはまた奥に引っ込もうかしら。

 ワタシの中の「わたし」が、「え!? もう!?」などと驚く声を無視して、ワタシは緑の瞳を静かにつむった。


■□


「ユキ。お前たちには、絡新婦(じょろうぐも)掃討の任務に背き、絡新婦(じょろうぐも)の子グモをわざと逃がしたことにより――」


 わたしが表に出てきて、もう一度髪の色が銀から栗色に戻り、瞳も緑じゃなくて赤に変わる。

 その瞬間が、パパからの処遇の申し渡しの時になった。パパは髪の毛の色を見て、「ワタシ」がわたしになったことには気付いているみたいだけど、それでも口を止めることはない。


「――これから二週間の謹し――」


 けれども、パパの口は別のもので止まった。それは、パパの白衣の懐に入れてあった、パパのスマートフォンのコール音。

 パパは心底面倒そうな表情で、懐からパパのスマートフォンを取り出した。


「まったく、このタイミングでどうして……お、レイヤ君からか!」


 でも、その声の後半からは、明らかにパパの口調は軽くなっていた。なんやかんやで、パパはレイヤさんとは仲良しみたいだもんね。

 パパはあまり待たせては申し訳ないとばかりに、すぐにスマートフォンの受信ボタンを操作していた。


「やあ、レイヤ君か」


 明るい声で話すパパ。

 けれども、その顔はすぐさまに重さを帯びる。首をいくつか縦に振りながら、パパは聞いた。


「さては、昨日の会合がらみの件かな?」


 しばらくは、レイヤさんが話しているであろう間を取り、それが終わればもう一度パパの番が巡ってくる。


「分かった。今目の前にユキがいるので、少し待ってもらいたい」


 そう言って、パパはスマートフォンの下側を手で押さえて、私の方に振り向いた。


「今からレイヤ君と少し話をしてくる。それが終わるまで、おやつを食べながらそこで待っているんだ」


 そう言い残して、パパはこの部屋のふすまを開け、閉めて、出て行った。

 パパの足音が、ふすま越しにどんどん遠ざかっていく。

 そのあたりで、わたしの胸の奥に戻っていたはずの「ワタシ」が、またわたしに言い出した。


(ちょっと、また「ワタシ」に代わりなさい。あいつが遠くで話している電話の内容、ワタシが聞いてみるわ)


 そう。「ワタシ」はわたしと比べると、五感がずっと鋭い。だから、遠くの物音だって、わたしよりよく聞き取ってくれる。

 パパの話を盗み聞きするなら、絶好のチャンスではあるけれど……


(でも、パパだって「ワタシ」の耳の良さのことは知ってるはずだし、すっごく遠くに離れて会話するんじゃない? それに、もしパパの声を聞けたって、さすがに電話のレイヤさんの声までは、「ワタシ」だって聞き取れないんじゃ……?)


 と、そこまで言ったところで、「ワタシ」がつまらなそうに口元を歪める光景が、わたしの心の中に映る。


(それもそうね。うっかりさっき顔を出して、あいつにワタシの存在をアピールしたのは失敗だったわ)


(だから、今は言いつけ通り、ここで待ってようよ、「ワタシ」)


 わたしは木彫りのお皿に乗ったお饅頭を、もう一個手に取った。ビニールの包装を剥いて、中身のお饅頭を食べて、お茶をすすりながら、待つことしばし。


□□


 パパは、結局十分か十五分くらいで、この部屋に戻ってきた。

 そのときのパパの顔は、さっきに比べてももっと難しそうな表情になっていた。

 わたしはたまらず、パパにそのわけを聞いてみようとする。


「あの、パパ。レイヤさんは何て……」


「すまないが、それを話すことはできん」


 パパは、難しそうな表情をほぐさないまま、わたしにぴしゃりと言ってのけた。


「レイヤ君とそういう約束をしているのでな」


 という風に、理由は話してくれたけれど……。

 でも、パパのこの言い方に、「ワタシ」はわたしの心の中であきれ返っていた。


(ザンエとかいうクソジジイに加え、レイヤさんまで秘密主義とはね。つくづく滅魔師連盟は、内緒話が好きな連中が多いようだわ)


(でも、レイヤさんなら、意地悪でこういうことを言うとも思えないけど……)


 わたしが「ワタシ」と、声を出さない話をしていると、パパはもう一度ちゃぶ台の前に腰かけていた。そのまま、先ほどわたしに言いかけていた、処遇の話を切り出す。


「ユキ。お前たちには、絡新婦(じょろうぐも)掃討の任務に背き、絡新婦(じょろうぐも)の子グモをわざと逃がしたことにより、これから無期限の謹慎(きんしん)を申し渡す」


 わたしも、わたしの中の「ワタシ」も、これには目を見開いた。


(無期限!? さっきは『二週間』とか言いかけてたじゃない!?)


 伝えられた処分の重さに、わたしも開いた口がふさがらなくなりそうになる。でも、このときばかりは、わたしも「ワタシ」と同じ意見。どういうわけか聞こうと、口を動かそうとした。

 でも、それよりも、パパの方が早かった。


「もちろん、お前の言いたい事は分かっている。だが、この『無期限』は条件付きだ。お前たちが十分に反省したと私が判断した時点で、謹慎は解除とする。謹慎期間の間は、普段の修行を行うことのみを許し、妖魔退治などを行うことは禁ずる。もちろん、その間も学校にはきちんと通い、勉強もすること」


 今度は、「ワタシ」が胸の中で、ひどく不思議そうに首をかしげていた。


(「お前たちが十分に反省したと私が判断した時点で」……ね。妙にはっきりしない期間じゃない)


 「ワタシ」が不思議そうにしている中、パパは続けて、白衣の懐から一冊の古びた本を取り出す。


「ユキ。お前はすでに、この本に書かれている退魔の術は一通り学んでいたはずだったな。その中で、特に私がしおりを挟んでいるページに書かれた術を、謹慎期間中の修行の際、よく復習しておくこと」


 パパが言うとおり、確かにその本は、わたしがしばらく前に学んだ、退魔の術の本だった。その中のあるページからは、きれいな押し花のしおりが、ちょこんと頭を出している。

 わたしはパパから本を受け取って、しおりの挟まったページをそっと開いてみる。

 わたしは、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。

 「ワタシ」は、そのページを見て、心の奥でにやりと笑っていた。


(へえ……これを「わたし」に復習しろってこと? なるほどね。謹慎期間をワタシたちが反省するまで、にしたわけ――ちょっと分かってきたわ)


 そのページに書かれていた術は、わけあってもう、今の時代では使われることのなくなったものだった。

 術の名前は、「布都御魂の術」。読みはえーっと……「布都御魂(ふつのみたま)」で良かったはず。

 でも、どうしてこんな術を?

 わたしの頭に浮かんだ疑問に答えるように、パパは告げる。


「巫女のユキ、そして吸血鬼のユキ。あくまで今の時点では可能性に過ぎないが、お前たちには共に、『切り札』を使ってもらうことになるかも知れん」


 パパは、思い出したように、冷めかけたお茶を湯呑から飲み込んだ。


()()()()()()()()、しっかり準備しておくように」


 パパの顔にはもう、元気が戻りつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ