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卒業パーティで婚約破棄されましたけど、打ち上げには参加します

グランディオ:「ノエル・マサーカー公爵令嬢!貴様とはこの時を以て婚約破棄する!この麗しい、ルニアーノへの嫌がらせや陰口、取り巻きを使った陰湿なイジメ。もう調べは付いている!証拠もここに!」


とある国立貴族学院の卒業パーティ。

テンプレート通りの断罪劇が始まった。

卒業生であるこの国の王太子グランディオは男爵令嬢であるルニアーノの肩を抱きしめ、婚約者である公爵令嬢のノエルに婚約破棄を突きつけた。


グランディオ:「証拠は記憶魔道装置であるこの指輪に残っている!リオネル」


リオネル:「はっ!!」


その指輪からは、ノエルがルニアーノを虐めていた映像が次々と映し出された。

どの映像も面白いほどノエルはカメラ目線であり、証拠としては十分なものばかりだ。


グランディオ:「どう見てもノエルがルニアーノに対して暴言を吐いたり、付き飛ばしたり、叩いたりと令嬢らしからぬ行動ばかりだ!ルニアーノは1人それに耐えて、私にも秘密にしていたのだ!!私が悪いのです、と。そなたの事を一度も悪く言った事はない・・・」


ノエルの顔色がさーっと青く染まっていく。

この間、一言も彼女が声を発する事は無い。

ルニアーノは悲しそうに俯きポロポロと涙を流している。


ルニアーノ:「ノエル様・・・申し訳ございません」


リオネル:「愚妹が!だんまりか?これほどまでの証拠だ!!自分の罪を認めたらどうだ。これが将来の王太子妃だったと思うと片腹が痛い!!」


王太子の腹心であり、ノエルの兄であるリオネルが実の妹に向けて冷たい言葉を放つ。

目線は少しだけずれているのは、それ程まで憎い妹の姿を見たく無いからだろうか。


ノエル:「ご、ごかい、です・・・おに・・・ぃさま」


リオネル:「失望したよ、ノエル。これまでは優秀で可憐な自慢の妹であったのに・・・」


ここでノエルは初めて声を絞り出した。

目に涙を溜め、先程と打って変わり顔色は真っ赤だ。

嗚咽を零すように息も絶え絶えで見ていて苦しそうである。


ノエル:「でん・・・か・・・わ、わたし・・・」


一歩ノエルが足を踏み出せば、騎士団長の息子であるサティスティがグランディオの身を守るようにして2人の間へと割り込む。


サティスティ:「それ以上近づけば、容赦致しませんよ」


空気が乾いているのか、サティスティはペロリと唇を舐める。

見下すような、憐れむような目線の先には、顔色が少し戻ってきたノエルが居る。

ノエルへの威圧は強く、普通の女性ではその場に座り込んでしまうレベルの殺気をサティスティは放っているが、ノエルは足腰の震えをどうにか堪えその場に立ち続けていた。


ノエル:「わた・・・しは・・・、わたし・・・は」


グランディオ:「本日は邸へ帰り、大人しくしていろ。処分は追って通達する」


グランディオがノエルへと言いつける。


リオネル:「流石に、王太子である殿下の婚約者が下位貴族の者を甚振っていたとなれば外聞が悪い。しかも、理由は嫉妬・・・」


グランディオ:「婚約破棄は決定事項だ。このまま自宅待機後、領地では謹慎処分となるだろう」


怒りなのかグランディオは握り切り締めた拳が震えている。


ノエル:「あ・・・ぁ・・・」


ノエルは泣き叫ぶ事なく、言い訳する事なくただ静かに悲しそうな表情でグランディオを見つめていた。

そして、そのまま卒業パーティの護衛をしていた騎士達に連れ出されて行った。


グランディオ:「学友の皆。突然の騒ぎ申し訳ない。これからは楽しいパーティの時間だ。さぁ、この卒業と言う祝いの場を楽しもう」


悪役令嬢であるノエルが退場した事でグランディオはその場に居る卒業生とその関係者達へ声をかける。


リオネル:「殿下より、お詫びといたしまして、本日は王宮付の楽団が演奏をしてくださる事になりました。そして、我が公爵家からのお詫びといたしまして、お帰りの際にちょっとした手土産の用意があります。退場される方は受付へと申し出てください」


リオネルが言い終わると楽団がゆったりと落ち着いた曲の演奏を始めた。


グランディオ:「ルニアーノ、私とファーストダンスを踊っていただけますか?」


ルニアーノ:「もちろんです」


こうして王太子グランディオとノエル・マサーカー公爵令嬢の婚約破棄は公衆の面前で行われ、グラディオとルニアーノは仲良くダンスを踊り、卒業パーティは終わった。

その後、2人の仲睦ましい様子はいつまでも続くのであった。



~~END~~








ルニアーノ:「はーい!皆さん、1年間お疲れ様でした!これで、シナリオは完遂です!」


頭の上でルニアーノがパンパンと手を叩く。

すると、“わーっ”と周りから盛大な拍手が沸き起こった。


ここは乙女ゲーム星。

乙女ゲームの中の人物達が住まう星である。

主役に攻略対象者、ライバルに敵役、その親兄弟にモブまで・・・。

様々な住人がそれぞれの国に暮らし、自分の関わる乙女ゲームのシナリオの期間だけゲームの内容を演じるのである。

それが、この星に産まれた住人の暗黙のルールである。

もちろん、それは誰の為と言われたらこの星の神々であるユーザー様のためだ。


そして本日、一つのシナリオが終局を迎えた。


王道の婚約破棄もの。

貧乏男爵令嬢と攻略対象が真実の愛を見つけて、1年間愛を育み、卒業パーティで婚約破棄を行い、主人公と結ばれると言う内容でそれをこの1年間、シナリオ通りに進めて行き、完遂したのだ。


グランディオ:「リオネル、サディ、ルニアーノ・・・1年間、世話になった」


攻略ルートは何通りかあったが、シナリオ開始前にメインのメンバーで集まり王太子であるグランディオのルートにする事を決めていた。

シナリオはメインメンバーの頭の中に完璧にインプットされており、台詞なども間違える事なくすらすらと口から出てくる。


リオネル:「ご苦労様でした」


ルニアーノ:「やり終えましたね!感慨深いです!!」


サティスティ:「ディオの演技、よかったですよ」


それぞれ、先程の堅苦しい空気とは違い、和気藹々と落ち着いた雰囲気で歓談が始まった。

そこへ、先程退場した悪役令嬢役のノエルが重厚感のある扉からひょっこりと顔を覗かせ、中を確認してきた。


グランディオ:「あぁ!ノエルすまなかった。1年もこんな酷い事を。辛くないか?大丈夫??」


グランディオは両手を広げ、ノエルを迎えに行きそのまま自分の胸の中へとノエルを閉じ込めた。

頭に頬擦りをすれば、ノエル髪が少し乱れる。


ノエル:「大丈夫ですわ、殿下。ご卒業、おめでとうございます」


ノエルは持っていた花束を差し出すように突き出して、グランディオの胸から抜け出すと、そっと髪の毛を整える。


グランディオ:「あぁ・・・ノエルから花。可憐だ・・・嬉しくて涙が・・・」


ノエル:「そんな事で殿方が泣くものではありません。殿下」


ノエルは慣れた手つきで、髪の毛を直し終えると、グランディオに渡したばかりの花束を取り上げる。


ノエル:「セバス、殿下にエスコートしてもらうのでこれは王城に届けておいてくださいな」


従者:「はい、お嬢様」


ノエルは先程まで自分が断罪されていた場所へとグランディオにエスコートされて戻ってきた。


ルニアーノ:「ノエル様!本当にごめんなさい!!!!」


ノエル:「ルニアーノ、私は大丈夫よ。でも、映像が必要だからって酷い事を言ったり、突き飛ばしたり打ったりしてこちらこそ本当にごめんなさい。臀部はまだ痛む?腫れたり怪我などはしていない??」


ルニアーノ:「もうずいぶんと前の事ですし、私は頑丈なので大丈夫ですよ〜。ノエル様は本当に心配性だなぁ」


ノエルとルニアーノは仲良さげに腕を取り合い、楽しそうにルニアーノの臀部を見たり触ったり頬に触れてみたりと、男性同士では作り出せない雰囲気を作り出している。

公爵令嬢と男爵令嬢・・・ヒロインと悪役令嬢。

それぞれ身分差や隔たりがあるが、この断罪劇の主要メンバーとして2人の友情は成り立っていた。


ノエル:「ならよかったわ。それに、私はどちらかと言うと、今日のお兄様の言葉の方がキツかったもの」


リオネル:「あ、うん。・・・ごめんね?わたしもあんな事、言いたくなかったんだけどね。だから、ノエルの事全然見ながらしゃべれなかったよ。セリフ言うのにいっぱい、いっぱいで」


リオネルは肩を落として、両手の指先をツンツンしながらノエルの顔色を伺うように口を尖らす。

ノエルに堂々と罵声を浴びせ、凛々かったあの姿は影も形も無くなっている。


ノエル:「確かにあれはとても不自然でした。目線が全く違うところに行っていましたもの」


リオネル:「ご、ごめんね・・・?」


サティスティ:「でも、ノエル嬢が頑張って息を止めてプルプルしながら、顔が青くなっていく様・・・。そのあと、酸素を求めて肩でハフハフしながら呼吸する顔はゾクゾクしましたよ。とてもよかった・・・」


サティスティは癖なのか、また唇を舐めながら恍惚の表情を浮かべて悩ましげなため息を吐いた。

この中で彼だけは先程までとそこまで変わらない。


目の前に居る3人の男性は、恋愛シミュレーションゲームの攻略キャラ3人だ。

そのため、それぞれ地位も見た目も良い。

しかし、ゲーム内とでは性格が少しばかり違った。


グランディオは俺様キャラでもおバカキャラでも無い。

通常、あんな公衆の面前で婚約破棄、断罪劇などする愚王太子では無かった。

聡明で常識を持ち合わせた優しい男だ。

しかも、婚約者であるノエルの事を溺愛しており、この1年心を痛める事も多くかった。


リオネルはどちらかと言うと小心者で、シスコン。

黙っていれば、もてるのだが挙動不審で弱っちそうに見えるため女性からの支持はあまり得られず、モテない。

だが、頭が良くてグランディオの腹心としては重宝されている。

一応将来有望。


サティスティはそのままサディストである。

そして、長細い見た目と相反してそれなりに筋肉もあり体力ばかである。父親を尊敬しており将来、騎士団長を目指しているが、サディストが過ぎていて彼がトップになれば敵味方問わず色々問題が起こりそうなので、ストッパー役がいるだろう。

ただ今そのストッパー役を騎士団は絶賛募集中である。


グランディオ:「サディ・・・わたしの大切なノエルを変な目で見ないでくれるかな?」


サティスティのやばめな視線から守るようにグランディオはノエルの前にスッと移動する。

それを見てサティスティが軽く舌打ちすると、ヒッとグランディオは息を呑んだ。


ノエル:「殿下、私なら大丈夫ですわ。サディ様、早く帰りませんの?マソヒム夫人がお待ちなのでは?」


サティスティ:「あぁ・・・。しかし、少し帰るのを焦らした方が喜ぶんですよね、マノンは」


仄暗い笑みを浮かべる。


ルニアーノ:「サディ様には奥様が居るんですか!?」


ノエル:「えぇ、2歳年上の麗しい奥様がいらっしゃいますよ。2年前、夫人が学園を卒業したタイミングで、サディ様が強引に結婚したそうよ」


グランディオ:「こう見えて案外一途なのだが、夫人を社交界に出したがらないらしく、親族が困っているらしい」


因みに、この世界ではシナリオに影響がなければ婚姻も自由だ。

ヒロインが20代だったりすると、シナリオ開始前に妊娠出産を済ましているなんて事も普通にある。

昔、シナリオ中に妊娠してしまったヒロインが居たらしいが、どうにか画角で誤魔化したと言う伝説もあった。

ようするに、ユーザー様に裏事情がバレなければなんでもありだ。


ルニアーノ:「1年ご一緒させていただきましたが、衝撃の事実です!!」


ノエル:「ルニアーノにバレていなかったのなら、ユーザー様にも隠し通せていそうね。あら、ルニアーノ彼が来たわよ」


ルニアーノ:「あ!」


今回のヒロインであるルニアーノも幼馴染の彼氏がいる。

シナリオが終わった今、ルニアーノは嬉しそうに彼氏の元へと駆けていった。


ノエル:「シナリオ期間中、ヒロインは特に大変でしょうね」


攻略対象者以外と恋仲の場合、シナリオの分量によっては、本命彼氏との時間がなかなか取れず、攻略対象者と過ごす時間の方が多いため、相手に不貞を疑われる場合もある。

もちろん、ヒロインが攻略対象者と浮気する場合もあるので、トラブルになる事も多いらしい。


ルニアーノは大人しく、真面目な性格のため今回はトラブルにある事もなくきちんとシナリオをやり遂げた。


ノエル:「ヒロインの鑑ね」


取り敢えず、この星の理念としてはユーザー様へのサービスは忘れず、自分達も幸せになろうである。


グランディオ:「さて、ノエル。私と踊って頂けますか?」


ノエル:「もちろん、喜んで」


グランディオに差し出された手をノエルは取る。


2人で踊るのも約1年ぶりだ。

主要な舞踏会はどれもシナリオに組み込まれていたため、ノエルもグランディオも2人で参加して踊る事は叶わなかった。

そのため、2人とも今この幸せに、喜びの溢れた笑顔を見せる。

周りもその光景を見て、温かい気持ちが伝染していき会場全体が幸せな光のベールに包まれたようになっていった。


リオネル:「よがっだ・・・よがっだねぇ・・・ノエル・・・」


そんな中リオネルだけは2人の幸せそうな姿を見て、あまりの嬉しさに剛泣きしていた。


それを目撃したとある令嬢がリオネルの人の良さに惚れてしまったのはまた別のお話だ。



誤字脱字報告ありがとうございます!


読みにくさもあったと思いますが、ここまで読んでくださってありがとございます。

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