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最終話「今日もあなたに会いにコンビニまでやって来ました!」



 今日は休みだ。北海道から帰省してきた玲さんがライブハウスでライブを行う。そのライブに俺は参加するのだけど、彼女も来るらしい。



「長谷川美佳さん」



 鏡に向かってその名を口にする。今から告白予行練習でもしようかと思ったが、そんなことすればするほど可笑しくなるので止めた。



 俺は自他共に認めるオシャレのセンスがない男だ。そんな俺が残した例の動画メッセージに感動した何人かの青年たちが俺宛てにオシャレな服を贈ってくれた。普段そういう努力をしない俺にとって、それは何か特別なステージに立つ感覚、そう言ったら何か恥ずかしくなってきたな。




 そして俺はライブ会場に向かった――




 ライブ会場にはギャラリーが20人ほど。出演は玲さんと他2組だ。玲さんはこのライブのトリを務める。そのオープニングトークで彼女は語りだした――



「今日、来てくれた皆さんに感謝します。数年振りね、私の事を忘れてない?」



 どっと会場に笑いが起きる。長谷川さんも笑っているが俺は顔も体も固まったまま。



「歌を歌うまえにちょっとした余興を。親友からお願いされたことがあってね、その親友っていうのは……後輩なのですけど、男の子なのです。あ、もう40代だからオッサンか」



 さらに会場に笑いが。俺のハードルは上がるばかり。



「彼には好きな人がいて、その好きな人がなんとまた私の親友なのですね!」



 さっきまでずっと笑顔をみせていた長谷川さんの表情が曇る。現実は甘くなどないか。でももうここまで来たら逃げられない。



「伊達賢一君、長谷川美佳さん、どうぞステージへ!」



 俺と彼女はステージにあがった。歌手としてじゃない。一人の男、一人の女として――



「じゃあ。マイクを君に託しますね。伊達君♪」

「あ、じゃあ1曲♪ 嘘です♪」

「こらっ」



 咄嗟のアドリブだったが、会場はしっかりとウケてくれた様子。目の前に立つ一人の女性を除いて。



「貴女に話しかけるのは今日が初めてじゃない。いつかのクリスマスにこの俺は生まれて初めてナンパっていうものをしました。あの時、最初あなたはまったく相手にしてくれなかった。俺も凄く恥ずかしかったけど、後悔はなかったです」



 みんな真剣な顔をして俺の話を聴いている。



 眼前に居る彼女も含めて。



「あれから何年も経って、拒まれた筈なのにまだ貴女の事を諦めきれないでいる俺をどう思われても構いません。受け入れたくないのなら受け入れなくもいい。でも、それでも、どうしても伝えたい事があります」



 いつの間にか俺の緊張は解けていた。



「貴女に会えるのが楽しみでいつも貴女の働くコンビニに行っています。あの、やっぱり貴女が大好きです。だけどこれからも変わらずに宜しくお願いします」



 俺は頭を下げた。その瞬間に拍子抜けした顔が見えた。



 そりゃあそうか。俺は自然と苦笑いした。



 でも、言いたいことは元々そうだった。



 俺はしつこい男なんかになりたくなかったのだ。



 ただ純粋に「好き」を伝えたかったのだ。



「あの……えっと……」



 彼女は困惑していた。おそらく思っていた展開と違っていたのだろう。



「コンビニに来て貰うのは大丈夫ですけど……それってわざわざお願いすることですか?」



 一部会場で笑いが起きた。まだ真剣な顔で見守る人たちもいる。



「はい! それ以上を求めるのはきっと重たいから! 俺にとっても! 貴女にとっても!」



 俺は迷わず答えた。それまで堅い顔をしていた彼女の顔が少し和らぐ。



「わかりました。嬉しいです。いつでもお待ちしています」



 彼女が手を差し出し、俺はそれに応じて握手を交わした――



 玲さんは「はぁ?」と漏らし、そんな顔してみせてもいた。しかしこのままライブを中断したって意味がない。彼女は「結ばれた友情に拍手を!」とまとめて、歌のパフォーマンスに入った――




 彼女が歌うのはサイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」だ。




 その歌声が会場に響く中で俺はコーラ片手に独りフロア片隅にあるソファーに腰掛けた。



 そしてライブを楽しむ長谷川さんをぼんやりと眺めて楽しむ事にした――




 後日、玲さんと話してみたら案の定、結果は見えていた。彼女は婚約者だった彼の事を忘れられず、俺との交際は見込めないとのことだ。しかし「友達としてならば付き合ってもいい」と事前に確認し合っていたとおりで……その線引きに我慢ができそうにない俺は「変わらない関係」と「それでも抱いている好意への受け入れ」をお願いした。この地球上でみて、こんな告白をする男など俺以外にきっといないだろう。何せそれは「片思い宣言」なのだから――




 あれから数週間後、ネット通話で玲さんと話す。



『いい土産話になったわ。誰にも話せないぐらいの』

「何も思い通りにはいかないですよ」

『でも、ありゃあ格好悪いと思うわ』

「別にカッコ悪くてもいいのですよ。俺は俺でいたいと思っているから。それに今もやっぱり彼女が好きでコンビニに行ける。それだけで幸せだから」

『友達からのスタートで彼氏になる作戦だったのにね……』

「でもそれが失敗していたらどうなっていたと思います?」

『どうなっていたって? 彼女はそのつもりだったのよ?』

「ノーノー、もし友達として破局したら、それこそ俺はあのコンビニにいけなくなる。そうじゃないですか?」

『それは……』

「でも玲さん、俺は何か凄く楽しかった。これが青春ってヤツなのかも?」

『そうかなぁ』



 彼女は『まぁ、君が満足ならそれでいいよ』と穏やかに言って通話を終えた。そしてそのままに俺は煙草を買いにコンビニまで出掛ける。



「いらっしゃいませ!」



 とびっきりの笑顔をみせる彼女が俺を客として迎え入れてくれる。



 ああ、これでいい。



 こういう人生も悪くない。そうだろう? 長谷川美佳さん?



 貴女が婚約者の男を振り切る日がくるのかこないのか、そんなことは分かったものじゃない。でも俺は美人でどこかミステリアスな貴女に惹かれたままだ。



 だから今日も俺は変わらない!



 今日もあなたに会いにコンビニまでやって来ました!



∀・)最後までお付き合いいただきありがとうございました♪♪♪いやぁ~賛否別れると思います(笑)特に「1999」からの読者さんにはストレスを残すラストになちゃったかもしれません。しかしこの作品は正真正銘プロットどおりに作った作品であり、このラストはむしろ最初から決まってました。ただ僕のなかでこれも1つの「恋」の形だと思うんですね。その見方は人それぞれ。評価もそれぞれにあるのだと思います。何はともあれひと段落ついた伊達賢一に「お疲れ様でした」と僕は残しておきます。また次回作でお会いしましょう☆☆☆彡

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― 新着の感想 ―
[一言] 片想いのまま終わる恋があったっていいと思うのです。 世の中の大半は片想いのはず……そういう意味でとてもリアルな作品だと思いました。 コンビニ店員さんに逢いに行く、その日常の中にドキドキする気…
[良い点] 「1999」から続けて拝読すると感慨深いです。 賛否分かれる終わり方かもしれませんが、最終行が何か爽やかさを感じさせてくれました。 良かったと思います。
[一言] 面白かったです こういう形もありだと思います ずーっとこのままかどうかは二人次第 このまま変わらないかもしれないし、もしかしたら変わるかもしれない すっきりゴールイン!みたいな終わりも好きで…
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