第4話「そして彼は動きだした――」
悟へ思いの丈を打ち明けたその瞬間、彼は眩しいぐらいの笑顔をみせた。俺は単に馬鹿にして笑われるだけなのだろうなと構えたが、思ってもみない展開がそこに待っていた。
彼は海を隔てた中国の地で活躍する介護士である傍ら、人気ブロガーとしても成功を納めている男になっていた。彼曰く、俺のこの恋愛模様をブログのネタにして、俺を応援するというアクションを起こしたいと言ってきたのだ。しかし、そこには大きな問題というか事実があった――
「彼女、薬指に指輪をしているんだ」
『えっ!?』
「昨年ぐらいかな。俺はいつも彼女と顔を合わせているから。目にはつくよ」
『そうか……でも、お前はそれでも彼女が好きなのだろう?』
「えっ!? それは……」
『たとえ、それが報われない事でもお前が「彼女が好き」っていう想いがある事、それを彼女に伝える事は無駄じゃないし、彼女にとって嬉しい事なのじゃないか』
「だけど略奪愛なんて……」
『お前がそんな事できる訳ないだろ(笑)(笑)(笑) 俺がお前に言いたい事は悔いを残すなって事だよ!!!』
なんだか俺は彼が俺を利用して何かを為そうとしているのか一瞬思ってみたりした。でも彼の熱気は何かそれを凌駕していて……
「お前、一体何をするつもりだ?」
『お前を主人公にさせるつもりだ』
その一言で俺は彼のことを信用しようと思った。
そして俺と彼は定期的に連絡を取り合う事で合意した。通信環境が約束される日本であればいいのだが……俺がやる事と言えば近況を彼に伝える事ぐらいなのだが、これから何か劇的な変化が俺と彼女の間に生まれるとは思えない。もしもブログのネタになったとしてもすごくしょうもない一発屋で終わってしまう気がして仕方なかった。
俺は実名や顔などの個人情報は伏せる形でお願いした。
彼は爽やかな笑顔でこれを承諾してくれた。
何かが動き出している気がした。
何を思ったのだろうか、俺は彼との会話を終えて新しい小説を書きだした。
南の国の異世界恋愛モノではない。
正真正銘の俺がいまの俺を書いた私小説、エッセイだ。
『今日もあなたに会いにこのコンビニに来ました!』
乗り気じゃなかった俺もいつの間にかノリノリになってきた――