第3話「俺が日本を大好きでいられる理由――」
ここ2週間は日本の電波状況が不安定でインターネットの接続が難儀になっていた。しかしここにきて、ようやくそのブラックホールから解放されたようだ。
俺が20年近く愛用している小説投稿サイト「小説家になろう」の活動報告や小説投稿が殺到して、もはやすぐにパンクしてしまうのは時間の問題であった。さらにそんな俺へ追い打ちがかかる。
相方から連絡が掛かってきたのだ。
俺はいちはやく小説を投稿したいのに、相方からの電話に出るしかなかった。
『よぉ、元気にしているか?』
「ああ、お子さん、元気そうだな」
俺の漫才コンビの相方は江川悟という男だ。俺達は20代のときに出会って、漫才コンビを結成した。M1に何度も挑むも1回戦負けを10年近く続けていくうちにM1挑戦はやめた。地元でコツコツと活動を続けたが、彼は結婚して子を授かった。今の日本では貧困層で家庭を養うのは難儀中の難儀と誰しもが言う。そうなれば語学習得を果たして(もしくは語学習得をしながら)、海外で出稼ぎをするほうがよほど賢明な生き方だと言われる。それが嫌らなら大金持ちになるか、独身ながら貧困層の世界でサバイブしていくか。
人一人が自分を養うのは今の俺の収入ならば問題はない。しかし本当の意味で豊かな生活を手にするには本当の成功を納めなければいけないのだ。例えば俺や長谷川さんのような人は……
『お前は日本をでないのか?』
幼子を抱える彼は俺にそう聞いてきた。俺は「日本が好きだから」と答える。「ネットが繋がりにくい事がよく起こるのだろう? 何が良くてそういうことをしているの?」とさらに返しがくるが、それでも俺は同じ主張を繰り返した。
そして彼は核心を突いてきた。
『本当にそうなのか? 俺にはそれが本心に聞こえないのだけど』
俺は言葉が出なかった。でも相方だから不意に本音が漏れてしまった。
「近所のコンビニに行きたいから」
彼は『はっ?』と反応してみせたが、その続きを知って俺の事をどうこう言えなくなってしまったみたいだ――
ずっと気になっている店員さんがいるから。彼女と会えるから――