第1話「変わりきってしまった世界と俺」
スマホのアラームが鳴る。
寝ぼけている俺はそれを手に取った。可笑しいなぁ。今日は休みだからセットなんてしてない筈なのに。
俺は気がつけば40になっていた。2025年、世界は目まぐるしく変わっていた。世界の経済大国も軍事大国もアメリカから中国、インド、ロシアらがその覇者となった。いまでは世界通貨はドルから人民元もしくはルピーに替わりつつある。日本からそういった国々へ出稼ぎにいく若者も少なくはない。
新聞とテレビのニュースに目を通して煙草の箱が空っぽになっているのを確認する。
「あぁ~だるいなぁ」
俺はそのまま着替えて最寄りのコンビニに行くことにした。
居た。今日も居た。俺を振った女。
「566円になります」
ポケットに手を入れる。カードもとい財布を忘れていることに気がついた。
「すいません。また来ます」
「はい」
あのクリスマスの1シーンは何だったのかというぐらいに彼女は他人になっていた。このコンビニに通い続けている俺も俺で何かおかしい気がするが、このコンビニで働き続ける彼女も彼女でどうかしていると想ってしまう。
あの夜、俺は確かに彼女を口説いた。そして彼女と連絡先を交換した。
再びコンビニに寄る。彼女はもういなくなっていた。退勤したのかな。あまり日本語が通じないスリランカ系の店員が俺の対応をしてくれた。
あと5年もすれば激動と言われた2020年代も終わる。いや、5年もあると思ったほうがいいのか? 煙草を吹かしながら物想いに耽る。趣味でやっていた漫才活動は相方が家族と中国へ渡ってしまい、事実上の解散になってしまった。YouTubeも仕組みが変わり、正真正銘の金持ちの道楽と化した今では俺が動画投稿をする事も出来ないし、動画観放題な生活もあっという間に一変した。
いま、俺にとってあるのはしょうもなくなってしまった島国のなかで生きてくこの身近な生活だ――
パソコンを作動させる。なかなかネットに繋がらない。こうした事はごく一般では珍しくない日常茶飯事の光景だが、どうしてもイライラしてしまうのもまた庶民の感情なのだろう。
「動け! 動け!」
俺はちょっとパソコンを叩いてみせたが、今日はどうにもならないみたいだ。
諦めて旧式のワードを開き、趣味の小説の続きを書くことにした――