PROLOGUE:今日もあなたに会いにコンビニまでやってきました!
人はいつ恋におちるものなのだろうか?
そんな疑問は10代の頃からあった。俺の周りは極端に恋愛と縁がある奴が少なくて、俺もそういう皆と同じような人間だから縁がなくてもなんぼのものだと思っていた。
でも、いつからだろうか? 急に焦りのようなものが生まれた。そしてそのまま焦りは不安となり、絶望となって、果ては「どうでもいいや」っていう諦めになった。これまでの俺の人生を振り返るとまぁ何事もそんなものだ。
しかしそんな俺にも転機が訪れたのだ。ハッとする瞬間は何気ない時に訪れる。そこに気がつく人間もいれば、気がつかない人間もいる。言い換えればこうだ。チャンスをものにする人間もいれば、チャンスをものにできない人間もいる。このときの俺はどう考えても前者だった――
2019年のクリスマス・イヴ。
俺はあと一歩で世界一幸せな男になれた気がした――
俺は近所のコンビニに寄った。
尽きた煙草の予備を買おうとした。ついでに弁当も買っておくか。
「999円になります!」
財布をとりだす。財布にはナナコがなかった。お札もなかった。
そして998円までしかなかった。
「あの、保留して貰っていいですか?」
「はい」
そこで彼女の顔をみる。名札に「はせがわ」と書いてあった。
そこで俺はピンときたものがあった。
「あの、貴女を保留してもいいですか?」
「は?」
「いや、何でもないです……」
「一旦商品を保留しますね~」
俺は急いでATMに走る。そしてお金をおろして支払いを済ませた。なんともカッコ悪いが、こんなところで変なナンパをするのが我ながらみっともないことだと反省するに他ならなかった――
コンビニを出る。
「お客様!」
すぐ後ろから声がした。
「お忘れ物です!」
美人な店員の長谷川さんだ。彼女が手にしていたのはナナコと俺の運転免許証だった。
「あの、伊達賢一さんですか?」
「はい、いかにも」
「あの、宜しければ連絡先、交換しません?」
「えっ!?」
「その、うまく言えないけど、実は高校生の時に紹介されたかもしれなくて……」
え? 待て。待て。これはどういう展開? 高校生のときに紹介されたかも? だって? こういうときどう反応すりゃいいのか?
「僕も貴女と何か縁がありそうな気がしたのです!」
頬を赤らめる彼女をまえに俺は笑顔でそう答えた。
翌日、俺は彼女に連絡を送った。
彼女からの返信はなし。
しまいにはブロックされた。
彼女は今でもこのコンビニで働いている。
そして俺も未だにこのコンビニに通い続けている。
これは俺と彼女のこのコンビニを舞台にした物語――