第9話 強者の才能
「シャララ、彩夏の行きそうな場所とか分かるか?」
「う~ん、そうだねえ~教室は向かい側の校舎だからそこに行ってるとしたら中庭を通ると思うよ~」
「案内してくれ」
「そこの外出たら出左~」
「OK!!」
とりあえず彩夏を見つけないことにはどうしようもない。
初めての敷地内でしかも広くて似たような年頃の女の子ばかりいるこの空間で一人の少女を見つけるのは困難極まりない。
俺にとってのヒントはこの使い魔一匹だけ。
なんとかそれを頼りに探していくしかない。
そう考えながら言われた通り中庭の方へ向かう。
――————あっ、いた。
そこに行くとすぐに探し物は見つかった。
嬉しいことに俺の予想は外れてくれた。
あの茶髪の二つ結びは間違いない。彼女だ。
見つけはしたが...........
俺は彩夏を見失わないよう近くの建物の陰に隠れる。
「なにやっているのさ~早く行きなよ~」
「まあ、落ち着けよ。ちょっと見てみろ」
彼女は一人ではなかった。
彩夏と、それと同い年くらいの女の子が3人俺が見た資料に載ってなかった人物だ。
(友達か.....?)
最初はそう思ったがすぐに違うと分かった。
2人の少女はくすくす笑って真ん中の気の強そうなこと彩夏が言い争っている。
彩夏はまた悔しそうに涙を浮かべ「うるさいっ!!」とここまで聞こえるくらい大きな声を出し再び走り去っていく。
その集団はそんな彼女を追いもせずニヤけて談笑しながら反対方向へ歩いて行った。
『うるさい』しか聞こえなったがなんとなくのやり取りは察しが付く。
不憫な奴だ。
こういう光景は軍でもよく目にしていた。
この世界は実力がすべて。
弱いものは強いものに淘汰されていくものだ。
俺は強い方だったから常に上の方で生き続けてきたが、目にも入らないほどの弱者は戦場で死ぬか訓練に耐えられずどんどん辞めていった。
あの子からもそれと限りなく近い匂いを感じる。
「どしたの~追わないの~」
「追うよ。ったく........」
見失わないように走り去る彼女を追跡する。
まあ、なんだ。
足が遅すぎるため、追うのはそこまで苦労しなかった。
彩夏は人影の少ない校舎まで走っていき、隠れるように木陰に座る。
首元に少し違和感を感じる。
どうやらこの辺りがこの敷地内のギリギリのラインなのだろう。
「スン、、スン、、、、」
横隔膜を肩までひくひくと上げながら泣き続ける。
俺は物陰から出てこれないまま彼女をずっと見ていた。
体感60分おきに鐘が鳴る。
それを3回、4回と聞きながらずっと.....彼女を見ていた。
.........流石に可哀そうになってくる。
悪気は無かったとはいえ、彼女を傷つけてしまった自分を恥じた。
おそらく彼女は今まで劣等感とともに生きてきたのだろう。
今見たようなことはほんの氷山の一角で、いつも周りと比べられて、同学年の子からは下に見られ、魔術を使えばいつも誰かの劣化版。
楽しいはずが無い。
模擬戦をすればいつもランクが上の魔術師に痛い思いをさせられて。
もしかしたら死んでしまうかもしれないようなことだって何度もあったに違いない。。。
それなのに.......
「はあっ!!........」
小さい魔力が木の葉を切る。
何度も何度も.........
どうして魔術師を諦めていないんだ.........
どうしてそんなに真っすぐな目ができるんだ。
その時、俺は彼女が俺に向かって強くなりたいと言ったことを思い出した。
あの時からなんとなくは感じていた。
この子には何かがある。
それは魔力だとか知識だとかパワーとかそんなはっきりとした物証ではなく、それよりもっと根幹な重要なものが。
(素質.........あるじゃん..........)
俺は少しだけ彼女の実力を舐めていたらしい。
「..........ふうっ、スッキリした。少し疲れたわね」
魔力操作の練習が終わったようだ。
そういえば俺は当初の目的をすっかり忘れていた。
辺りはもう暗くなり始めている。
彩夏は太ももとおしりを小さい手でパンッパンッとはたいてその場を去ろうとした。
今が頃合いか??
俺も重い腰を持ち上げ、後ろを向いている彩夏に近づき始める。
葉を踏んだ音に気配を感じたのか彩夏は振り返る。
そして俺の顔を見て一言。
「げ...」
と言い、いきなり走り出した。
これ以上逃げられても困るため急いで後ろを負い彩夏の手首を掴む。
「ちょ.....何するの!離して!!」
強い口調で振りほどこうとする。
だが俺も引くわけにはいかない。命がかかっている。
「待ってくれよ。俺は彩夏と話をしに来たんだ。昼間はつい言いすぎてしまった。悪気は無かったんだ。すまない。それを謝りたくて来たんだ」
「気やすく名前で呼ばないで!!謝罪なんていらないわ!どうせあなたも今まで私をバカにしてきた先生と同じだもの!最初は絶対強くする。信じてついて来いだとか。そんな期待させるようなことばっかり言って........最後は私たちの才能の無さに呆れて出て行ってしまうに決まっているもの」
「俺はそんなことしねえよ。こう見えて俺は嘘ついたことが一度もないからな」
「いきなり嘘ついてるんじゃないわよ!!離せ!バカッ!!!アホッ!!!離せ!!は~な~せ~!!」
だがこんな小娘の力で俺の手が振りほどけるはずもなく、ついに彩夏は俺の指先にかぶりついてきた。
少し痛いが、でもやはりこんな子猫のような顎では俺の指が食いちぎられるはずもなく。
それでも諦めない彩夏は大声で叫んだ。
「誰か~!!!誰か助けてくださーい!!ここに変質者がいまーす!!」
「あっ、おい、てめっ」
慌ててその口を塞ぐ。
だがもう遅かった。
「誰だ、そこにいるのは!!」
鋭い口調の大人の声がした。