第7話 疑惑の魔術師
「生きてる.....」
キツネにつままれるとはこのことを言うのだろうか?
理解がまるで追い付かなかった。
まさかあの状況からこの子に治癒魔法でもかけて致命傷を防いだとか?
いや、というより現に俺は一度死んでから生き返っているし。
この世界で蘇生魔術の使い手というのは別に珍しくないということなのか?
さまざまな憶測が頭をぐるぐると巡る。
ふと我に返りその少女を見る。
画面で見た感じよりもずっと小さく、そして幼く見えた。
茶髪の後ろを二つに結びそれがスラッと下まで一直線に伸びている。
小柄できゃしゃな体、細い腕に白い肌。
俺が軽く握手しただけで骨を折ってしまいそうなくらいか弱そうな女の子。
その部屋はさきほどの映像で見た砂浜ではなく、とある実験室のようで、そこには見たことも無い機械が十数台設置してある。
こういった機械のことは専門外だったから一体何に使うものなのか見当もつかない。
その子はそのうちの一つの機械のバイクを最新技術でモリモリに改造したようなメカに腰かけていた。
「堤さん、また負けてしまったわね」
「学院長.....」
その子の目元はこすった後のように赤く腫れていてぬぐいきれていない涙がうっすらと浮かんでいた。
そして気まずそうに俯く。
そういえば梅ってこの学院の学院長っていってたよな....
こんな冷血非道な女がよくなれるもんだぜ。
そう思いながら彼女たちのやり取りを黙って観察してみる。
「まあ、落ち込むことは無いわ。昇学審査まであと3か月あるじゃない。この調子で頑張れば次こそきっと勝てるわ」
一体何を言っているんだこの女は。
この調子で行ったら間違いなく次も勝てるわけないだろ!!
「.....でも私全然魔力が成長しないんです。毎日基礎トレをしっかりやって、、最近覚えた魔術も通用しなかったし.....」
あの炎気弾、最近覚えた魔術なのか....というか通用しなかった以前に当たってなかっただろうが!!
「そ..そういうこともあるわよ。もっとほかに別の術を覚えたら通用するかも....ね!」
「そうかなぁ....うん、分かった。学院長、私もう少し頑張ってみる!!」
数十秒前にまで瞳に浮かんでいた液体はいつのまにか綺麗サッパリ無くなっていた。
「そう!その意気よ!!頑張れば努力は報われるわ!!」
はあ、なんだこの茶番は........勘弁してくれよ。
見ていてなんだかおかしくなってくる。
そのやり取りを見ながら心の中でニヤニヤが止まらなくなった。
そしてそれは俺の口元にも表れていたようで、堤 彩夏とかいう少女がそんな俺に気がつく。
「.....ところで学院長、さっきから気になっていたのですが、この男の人は誰ですか?」
一瞬で顔を真顔に戻す。
「気が付いたわね!紹介しようと思っていたの!!この人があなたたちDクラスの新しい担当になる先生よ!!」
「えっ......先生.....?」
彩夏は目を細め俺をつま先から頭のてっぺんまで見る。
まるで品定めでもするかのように。
どこか疑っているようだった。
―――――――おい、ちょっと........
そう言って梅の手を引き彩夏に背を向ける。
そして梅だけに聞こえるように耳打ちしてこう言う。
「何が先生だよ!俺はさっき断っただろうが!!ガキのお守りはしねえよ」
「えー、別にいいじゃない。死ぬのはいつだってできるんだから。せっかく生き返ったんだから暇つぶしにガキの子守りくらいしなさいよ!!」
「そういう問題じゃなくてだな.....」
「それに見なさい。彼女の目を」
そう言われたので振り返り、彩夏の顔を見る。
「あの目は骸くんのことを期待している目よ。この人なら私を強くしてくれる。そこまで骸くんに期待している純粋な気持ちを裏切っちゃってもいいの?」
「どう見ても疑っている目だろ!!本当にコイツで大丈夫か?って顔しかしてないぞ!みろ、逆に敵意向けてるだろ。いろんな人間見てきた俺が言うんだ。間違いない」
「それはあなたがさっきからずっとキモイ顔でニヤニヤしてたからでしょ。誰がみても不審者と思うわあの顔見たら」
「あーてめー言いやがったな。もう怒った。もう絶対教えてやらないもんね」
「なによ、最初からそんな気無かったくせに!!」
そして梅は卑怯にも右手のそれを再び使おうとした。がその時、
「あの~」
彩夏から待ったの声が入る。
「学院長、本当にこの人先生なんですか?」
「あら?どうしてそんなこと言うの?」
「だってこの人見るからに怪しい人じゃないですか。なんか魔術師っぽくない........筋肉はあるけど、魔力は全然感じないし.....そんなに強く無さそう....それに......」
「それに?」
「さっきこの人私のこと見てニヤニヤと変な顔してた。よく見るとなんか変な格好しているし、この人変態と間違っているんじゃないですか?」
このガキ!!言わせておけば!!
「まあまあ、堤さんがそう言いたい気持ちも分かるわ。でも安心して。この人はあなたが思っているほど変な人だけど、強さだけは間違いなく最強クラスの先生なのよ。この国で最強の魔術師の私が連れてきた先生なのよ。きっとあなたたちの助けになってくれると思うわ」
「まあ、学院長がそういうなら.....」
変な人というのはフォローしてくれないんだな....
しかしまあ、お陰様で、俺への疑いは完全には晴れていなようだが、さっきよりは大分ましになった。
にしてもこの子を強く.......ね。
..........これも何かの縁なのか、たしかに梅の言うことも一理ある。
せっかく蘇生した第二の人生。
少しくらいはこの女の口車に乗ってもいいだろう。
そのほうが何かと穏便に済みそうだし。
それに、強くするといっても色々あるからな.....
俺らの秘術さえ伝授しなければまあ、少しくらいは鍛えてやってもいいか。
ここで俺は梅の依頼を受けることを決心した。