第13話 臨死体験 VR
「仮想世界か......ようやく意味が分かってきたぜ」
「察しが早くて助かるわ。昼間に骸くんが見た2人の試合はここで行われていたというわけよ。VRの中でなら腕がもげようが大量出血しようが.........死亡しようが.........起きているのはバーチャルの世界だから現実世界に戻った時は綺麗サッパリ元通りそして......」
梅の指先から魔術でできた矢が不意に襲ってくる。
「うおっ、あぶね」
超至近距離であまりにも唐突に攻撃してきたものだから反応が一瞬遅れる。
ギリギリ反応できたこともあってかそれは俺の肩をかすめる程度で後方まで飛んで行った。
「あら、避けちゃったら実験にならないじゃない」
「何言ってんだ!!いきなり攻撃しやがって!!危ないだろ!!」
「......まあ、いいわ。それより骸くん何か気づいたことは無い?」
今ので『まあいいわ』で済ませるあたりこの女も大分ネジが飛んでるぜ。
それに気づいたことだと.......?
あ、そういえば.....
「あんま痛くないな。そういえば。少しは痛いけど.......ほとんど痛みを感じない.....ような気がする」
「ピンポーン。この空間では痛覚は現実世界の4分の1程度に抑えられているのです」
「......なんで?」
「最初にこれを導入し始めた時の話なんだけどね。いくら大けがをしても大丈夫とはいっても現実世界と同じ痛覚設定にしたら痛みと恐怖で模擬戦をしたくないっていう生徒が続出してきたのよ。でもさすがに痛覚ゼロにしてしまうとただのVRゲームになっちゃうから少しだけリアリティを持たせるためにこういう風にしてあるの」
「なるほど...理屈は分かったよ」
でもなんだかな.....戦場にいた俺からするとどうもしっくりこない。
俺の国にはこんなものは無かったと思うし、もしあったら積極的に取り入れていた制度だとは思う。
だが、いくら大怪我をしても大丈夫、いくら死んでも大丈夫........
これを使っているうちは実際の現実世界の命の奪い合いは一生理解できないだろうな~って。
まあ戦争でもしていない限りそんなもの知る必要は無いのだけれど。
こんな学院で子供が戦争ごっこして遊ぶ分にはいい玩具だな。
「ん?どうしたの.......?急に黙り込んじゃって。あ、もしかしてさっきの攻撃で怒っちゃったの?ねえ。お~い」
,,,,,,,,コイツは........
「で?1ヵ月後に行う模擬戦もここであるんだな」
「そうよ」
「細かいルールが知りたい」
「詳細はあとで書類で渡すけど。大まかなルールとしては一対一の純粋な決闘よ。時間は無制限。ルールというか戦闘中の制限はなし。持ってる力は何でも使っていいわ」
「武器の持ち込みは?」
「基本的にはアリ。ただし事前に監査役からのチェックがはいるわね。持ち込みの定義は曖昧だけど。お互いの戦闘を妨害しない程度の武器なら基本OKよ」
「どういう意味だ?」
「何でもありとはいっても例えば全身にダイナマイトを大量に取り付けて特攻して相打ちを狙ったり、猛毒ガスを発生させる装置を使って自分だけガスマスク付けるみたいな。そういう、それを使うだけで試合が終わって魔術師としての技量が問われないような武器は事前に没収されるわね」
「なるほど。普通に剣とか銃なら大丈夫なんだ」
「基本的にそうね。銃を持ち込んだ人は見たことないけど.......」
「勝敗のつけ方は?」
「それは.........どちらかのプレイヤーの生命機能が尽きるまでよ.....」
生命機能.....てことはやはり.........
「片方が....絶命するまでか.........」
梅は一瞬気まずそうな顔をしたがすぐに元に戻り
「そうよ」
と一言だけ返した。
果たしてそこまでする必要があるのだろうかとも考えたがそれができるのもVRならではの強みなのだろう。
特に気にすることは無かった。
「大体わかった」
右手の平をグーパーグーパ開き、2、3発シャドーで空を叩く。
「にしても再現度がすごいな。俺が死んでからここまでVRの世界が発展していたとはな.....魔力だけじゃなくて肉体の運動機能ももそのまま転送されているみたいだな。動きが現実と大差を感じない」
「凄いでしょ~まあ私が作ったわけじゃないんだけどね。製作者によると魔力と肉体、その時に身に着けていたもの含めて99.96%が現実世界と同じ再現度でスキャンされるそうよ」
「ふ~ん、それは凄いな.........ところでどうやってこれ元の現実世界に戻れるんだ。どっかスイッチでもあるのか?」
すると梅はにこにこしながらこう言う。
「あ~それは決着がついたら二人とも戻れるわよ」
「決着?........てことは??」
どちらかが死なないとログアウトされないってことか.......?
「そうかそうか、分ったぜ!!そういうことなら一戦やろうぜ!学院長!!会った時から思ってはいたがあんたも相当な魔力をお持ちみたいだからな。相手としては申し分ない」
それに、今日コイツから受け続けた侮辱の数々、バーチャルの世界で返してやる!!
痛覚が4分の1なのは少し残念だが、こいつをおもいっきりぶん殴れば少しでも俺の気も晴れるってもんだぜ!!
「いいわよ.......と言いたいところだけど、今日はもう夜も遅いからまた今度ね」
知るか!!
俺はもう戦闘態勢に入っているぜ!!
両足で高く飛び上がり狙うはその脳天だー!!
かかとを大きく振り上げた瞬間に彼女の腕輪が強く光りだす。
「ごめんね~(テヘッ」
その瞬間視界が回転し始め、砂利に向かって顔面から強烈なキスをする。
グシャっと潰れるような音がし、VRの世界の記憶はそこで終わった。